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第三章 【王国史】
3-268 東の王国72
しおりを挟む『……聞こえるか?ワシの加護を受け継ぐ者たちよ。我の名はモイス、お前たちが大竜神と呼ぶ存在である』
「「――!!!」」
この場にいる者たちが、一瞬にして凍り付いた。
伝説や物語の上でしかない存在の名を、自らが告げる意味を理解する。
頭の中に直接話しかけてくる異能な存在は、決してニセモノではないと誰もが感じていた。
エレーナとセイラは、どこかで感じたことがあることに気付いた。
「これって……」
「大精霊の時と……」
マリアリスは、二人の会話を聞き重要な単語を聞き返した。
「大精霊……お会いしたことが!?」
マリアリスには精霊の力について話したことはあったが、あの時森の中でウリエルと呼ばれる大精霊と様々な力の使いかたを教わったことまでは話していなかった。
だが、今そんなことを話している場合ではない。
光の中から聞こえる声は、次第にはっきりと聞こえ始めた。
『うむ……ようやく慣れてきたな。それではあらためて名を名乗るしよう、我の名は”モイス”。お前たちが大竜神と呼ぶ存在だ。そこにおるのは村長の子たちだな……それと、精霊の力を扱う者か……』
「モイス様、お伺いしたいことがあるのですが……」
光輝く水晶に向かい、エンテリアは恐る恐る声を掛ける。
その問いにモイスは問題がないことを告げ、質問の内容を問い掛けた。
『よいぞ……なんでも聞くがいい』
エンテリアは、質問をすることの許可を貰い発言をする。
「それでは……モイス様は、なぜ我々の一族を加護していただけているのでしょうか。こちらの剣と盾もモイス様から頂いたものとして我が家系に伝わっているのものです」
相手に見えているか分からないが壁に掛けてある剣と盾を指し、エンテリアは質問を投げかけた。
その質問に対して、すぐには返答は返ってこない。
数秒足らずの僅かな時間であったが、空白の時間の中で質問すべきではない内容だったのではないかと不安な気持ちが心に湧き起こる。
しかしそれは杞憂に終わり、モイスはエンテリアの質問に答えた。
『そうか……やはり途中で伝わらなかったのだな……よし、もう一度話して聞かせよう』
そう告げるとモイスは、加護を授けた経緯をこの場にいる者たちに話し始めた。
事の始まりは、初代村長がグラキース山の麓に近い平野で狩りを行っていた時のこと。
当時は拠点を持たず十人弱の人数で、遊牧民のような暮らしをしていた。
水場を見つけたとある場所で、一行は滞在することを決めた。
だが、不幸にもその場所で魔物たちが襲ってきてしまった。
結果、魔物を倒すことはできたが、初代以外の者は全て魔物に命を奪われてしまった。
初代は全員の亡骸を土に還し、自然の中に無事に戻れるように今まで共に過ごしてきた家族と仲間たちを思い返しながら祈った。
身体に跳ね返ってきた黒い魔物の血のようなものが付着していることに気付き、綺麗にしようと布で何度も拭う。
しかし、その黒い物はふき取ることができず、皮膚の中に浸透していくように広がっていった。
初代は、水で洗い流そうと近くに見えた広い池のような場所に向かった。
始め手首のあたりに付いていた黒い物はシミとなり、僅かな時間で肘の手前まで広がっていた。
初代はその腕を池の中に漬け、反対の手で何度も擦って落とそうとした。
するとシミは水の中に溶け出して、最後には消えた様に水に溶け込んで行った。
そのことに安心した初代は、池のほとりに腰掛け再び一人になった悲しみの感情が押し寄せようとしたその時……
水の中から、池の淵に座る一人の男を呼ぶ声がした。
水面は光り輝き、水面には何かが映し出されようとしていた。
覗き込むと、そこには見たことのない生き物の姿が映っていた。
そして、その生き物は初代に話しかける。
”その強さを私に貸して欲しい……もし、貸してくれるのであれば更なる力を与える”……と。
話しを更に聞くと、これから先に魔物が力を付け数を増やし、この世界を闇に変えてしまうことになる。
”その闇を倒すために力を貸して欲しい”とその生き物は言った。
だが、その脅威は今の時代に起きることではなく、この先続いて行く子孫の代で脅威が襲ってくることになる。
そのために、人間は力を付け協力し闇に立ち向かって欲しいと。
途中で、新たな力を持つ者も誕生する。
その力とも協力をし、闇を打ち消して欲しいとも告げた。
初代は、一つだけ質問をした。
それは、”何故自分なのか_?”ということだった。
その問いに対する答えは、先ほどの戦いで魔物を打ち破る力を見たからだという。
この辺りは水もあり、同じような遊牧民がこの場所に集まってくる。
だが、今まで誰一人として魔物の襲撃から逃れることはできた者はいなかった。
その力を見込んでの依頼だった。
初代は決断する、”あんな魔物がこの世の中にはびこっていいはずがない”と。
そして、ほんの数時間前まで生きていた家族を埋めた場所に向かって決意する。
(いま自然に返した犠牲になった家族だった者たちのためにも……!!)
その決意に対し、池から声を掛けた存在が自身の名を告げた。
『我の名は”モイス”。四つ自然の力のうち、水を司る竜だ』
そしてモイスは、剣と盾と連絡を取るための水晶を与えた。
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