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第三章  【王国史】

3-267 東の王国71

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「水晶も……飾ってみてらどうかしらね?」



そのエイミの発言が、運命を変えていくことになった。





マリアリスは、向こうで数日滞在してから村に戻ってきた。
父と母と、一緒に過ごす時間。
幼い頃、ずっと夢見ていた景色。
それがいま、目の前にはこうなればいいとベットの中で誰にも話せずに願っていたことが現実となっている。

まだまだ甘えた時間を過ごしたいマリアリスだったが、スミカに帰るように促された。
帰る際にマリアリスは、スミカから手紙を渡される。
その内容は、この集落も建国することを賛同し協力するという内容だった。


エンテリアたちが戻って行った後、スライプたちにエンテリアたちが行おうとしていることを説明した。
そして、組織の中に入ることを検討してほしいとスミカはお願いをした。
その話を聞いた翌日、スライプはすみかの元を訪れて国の中に入ることを住民が全員承諾したことを告げた。
スミカは少しはもめるとは思っていたが、全くそういうことがなく決まったとスライプから聞かされた。
念のためスライプには、力尽くで強引に取りまとめていないか聞いてみたが、そういうこともなく全員一致で決まったようだった。
この場所はウェイラブとも繋がりがあり、その子供たちが行うことについて反対をする者などいなかった。
さらに、スミカが考えて提案してくれたということは、この集落のためを考えてのことだと今までの事から誰もが分かっていた。
スミカは、取りまとめてくれたスライプたちに感謝した。



マリアリスは、名残惜しそうに集落を出る。
だが、”時間があるときにはいつでもきて良い”とウェイラブが言ってくれたことが心の支えとなった。


本当は、このままこの集落に住み着く気持ちもあった。
だが、この手紙を届けなければならないという任務を与えられたため、マリアリスはその命に従った。






マリアリスはスミカに渡された手紙を持って、エンテリアたちがいる執務室へと向かって行った。



――コンコン


マリアリスは扉をノックし、中から入室を促す言葉を待つ。
しかし、それはいつまで経っても聞こえてはこなかった。


そのことに違和感を覚えたマリアリスは、許可の言葉を聞く前に扉を開けようと取っ手に手をかけた。
すると、ドアの隙間から光が漏れて噴き出す。


「――エンテリア様!ブランビート様!」


異変を感じ、マリアリスは急いで扉を開ける。
せっかく本当の家族となった、自分の弟たちの身に危険が迫っている。
マリアリスの心臓は、口から飛び出てしまいそうになる程、激しく拍動していた。



そこに見た光景は、今までに見たことのないものが見えていた。
父親から手渡されていた水晶が棚の上で激しく光り、部屋中を埋め尽くしていた。




「こ……これ……は?」



口から漏れたその声で、ようやくマリアリスはエンテリアたちに気付かれることができた。


「あ、マリーさん!いま、水晶を飾ったらこんなことに……どうしましょう!?」



マリアリスの姿を見たエイミが、助けを求めて近寄ってきた。




(どうしましょう……って)


このような初めて見る現象に、どう対処すれば良いかマリアリスにわかるはずもない。
ただ、この者たちの身の安全はなんとかしなければならないと感じた。


「エンテリア様、ブランビート様、早くお逃げください!」


マリアリスは、明るいが眩しくは感じない水晶の光を見つめる二人の弟たちに声を掛ける。
だが、二人は何かに吸い寄せられたかのように意識が光る水晶から離れなかった。

マリアリスはエイミとセイラに部屋の外に出るように伝え、自身は二人の救助に向かいに行った。


「エンテリア様!」


マリアリスはエンテリアの腕を掴み、水晶から離すように引き寄せる。
その衝撃でエンテリアは意識を取り戻し、マリアリスの顔を見る。


「マリアリスさん……」


エンテリアは意識が不明瞭な表情をし、視点の合わない目で自分の腕を引き寄せたマリアリスの顔を見た。
これはエイミやセイラのような不思議な力によるものではないかと判断し、マリアリスはエイミたちにエンテリアの身体を預けた。

次に、隣にいたブランビートに手を伸ばし腕をつかんだその時……




『……よ……聞こえ……か』


「「――!?」」



この場にいる者たちの頭の中に、誰かの声が響いた。




「――はッ!?」


「早く、こちらに!?」



それと同時にブランビートが意識を取り戻し、腕を掴んでいるマリアリスの顔を見る。
意識を取り戻したと判断したマリアリスは、つかんだブランビートの腕を引き水晶から遠ざけようとして、その身柄をエイミとセイラに預けようとした。
だが、振り返るとあの二人は逃避行動を止めていた。
二人はこの状況で腕を組み、何かを思い出そうとしているように見えた。





「なんだか……記憶にあるよね」


「そうね、どこかで同じようなことが起きたことがあるような……」



そして、この場にいる頭の中に再び声が響き渡る。





『……聞こえるか?我の名はモイス……聞こえるか?ワシの加護を受け継ぐ者たちよ』





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