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第三章 【王国史】
3-264 東の王国68
しおりを挟むスミカはエフェドーラが渡した粉末状の薬を飲み、そのままベットの上で横になり軽く寝息を立てて身体を休すませていた。
「スミ……お母様の容態、どうなのでしょうか?」
エンテリアは視線をスミカから外して、心配そうにエフェドーラに問う。
「それに付いては、私は薬草師でもないのでわかりません。この薬草も、一度診てもらった方に調合してそれを運んでるだけなのです」
スミカを運んだ直後、エフェドーラは家の外で凄い剣幕でエンテリアたち問い質した。
なぜあんなことをしていたのか――と。
マリアリスは正直に、自分のせいであると伝えた。
母親が生きていたこと、初代の諜報員だったこと……様々な感情から母親にぶつかってその強さを確かめたかったという。
しかし、スミカには恥ずかしさから、”本気の手合わせ”をお願いしたいとだけ伝えていた。
スミカは、そのことを笑顔で承諾してくれた。
その奥に、離れ離れにしてしまっていた娘のためにという気持ちがあったのは、間違いのないことだろう。
万が一、危なくなった場合はエンテリアたちが止めに入るということも伝えていた。
その話しを聞いたエフェドーラは、マリアリスたちを怒るに怒れなかった。
ウェイラブとスミカたちの事情は、既にスミカから聞いていたのだった。
そのためマリアリスの、母親に対する行動は理解でき無くはない。
スミカも身体が弱っていることを子供たちには話していなかったのは、ようやく親子関係を正常化させる際に不安になることを伝えたくなかったのだろう。
それも今までのスミカとの交流の中で、そういう行動に出ることは容易に想像できた。
マリアリスたちは、スミカの状況をエフェドーラから聞いた。
エンテリアとブランビートを出産した後、身体が衰弱してしまっていた。
そこに流行り病の咳に罹り、数年前から喀血するようになったという。
安静にしておけば問題はないのだが、負荷のかかる動作をすると身体が耐えられなくなってしまうという状況だった。
商人として駆け出しの頃、エフェドーラはこの集落に入る際にスミカに手助けしてもらっていた。
そのおかげでエフェドーラの商売もうまくいき、さらには時々スミカから聞くアドバイスによって商売も順調に成長していった。
その中で、二人が誕生したときにもウェイラブとの連絡係にもエフェドーラは買って出たのだった。
旅の中でエフェドーラは腕のいい薬草師と出会い、スミカの症状に合う薬草を処方してもらっていた。
その金額は無料でもいいと伝えたが、スミカはそれでは納得がいかないとある程度の金額を渡していた。
今では、スミカもエフェドーラも友人のような関係が出来上がっていた。
「……ごめんなさいね。あなた達には心配を掛けさせたくなかったんだけど」
「スミカさん……大丈夫ですか?」
エフェドーラがベットから起き上がったスミカの近くに寄っていった。
その後をマリアリスらも追って、ベットの近くに集まる。
マリアリスの泣きそうな顔を見て、スミカは問題ないと声を掛けた。
「……大丈夫よ。もう平気、少し無理しただけだからね。そんな顔をしなくても大丈夫よ」
「ごめんなさい……私が……我が儘を言わなければ……」
「大丈夫っていったでしょ?薬草師の方が言うにはすぐにどうにかなる病気でもないみたいだから……それにあなたの成長を感じられて嬉しいわ、随分と強いのね」
スミカの無理をしている優しさに、エフェドーラは泣きそうになるのを必死に堪える。
頭に思い浮かぶのは、いつも言っていた”愛する夫と子供たちと一緒に暮らすまでは、まだまだいけないわ”とエフェドーラに伝えていた。
「そろそろ、出発しないと村に到着するのが遅くなってしまうんじゃないの?」
スミカが言う通り、エンテリアたちは明日までに帰らなければならなかった。
誰かがこの場所に残ることも考えたが、三人は村の中でも重要な役目を請け負っている。
そんな人物を、これ以上不在にさせることはできなかった。
「また、いらっしゃい。その気になれば、いつでも会えるんだから……ね?」
スミカは不安がる三人の子に、優しく語り掛けた。
これに関しては、エイミもセイラも何も言うことができなかった。
「エイミさん、セイラさん。三人のことを、これからもよろしくお願いします」
エイミもセイラもその寂しい言葉に、声を出すと泣き出してしまいそうでうんうんと頷くことしかできなかった。
「……よし、行こう。ブランビート、マリアリスさん」
この場で誰も離れたがらないなか、そう声を掛けたのはエンテリアだった。
そして、スミカの近くによってスミカを軽く抱きしめた。
スミカもエンテリアの後ろに手を回し、その背中を優しく撫でる。
エンテリアが離れ、スミカはブランビートに向かって手を開いてこちらに来るように指示した。
その誘いに、ブランビートも母親の身体に手を回した。
最後にマリアリスに、手を広げこちらに来るように指示する。
マリアリスは母親の姿をしっかりと見つめ、軽く抱きしめた。
「……それでは、エフェドーラさん。母をよろしくお願いします」
「わかりました、エンテリア様」
そして五人は、部屋を出て馬車に向かっていく。
スミカは出た後の扉を、ベットの上からいつまでも見つめていた。
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