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第三章  【王国史】

3-259 東の王国63

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「いらっしゃい、エンテリア……よく来たわね」


その女性はエンテリアに対し、微笑み温かく迎えた。



「あ……もしかして……」



エンテリアは、真実を聞いてからずっと会いたかった人物を目の前にして言葉を失ってしまっている。
馬車の後ろからも視線を感じ、スミカは声を掛けてあげた。



「あなた達も、お疲れさまでした。長旅お疲れでしたでしょ?……ねぇスライプ、誘導してもらってもいい?」


スライプと呼ばれた男は、スミカの命令に従いエンテリアに後を付いてくるように指示した。
スミカは馬車が通り過ぎるのを横で待ち、その後ろをもう一人の男とついて歩く。



馬車を広い場所に停め、馬はスライプが馬房へ移動し長時間運んでくれた労働を労う。


一同はスミカの家に案内され、荷物をおいてテーブルの下にある背もたれのない木でつくられた丸い椅子に腰を下ろしていく。


ここでの生活の印象は、”全てが手作り”ということだ。
村では、家具や食材の専門で取り扱い商売にするものがいた。

しかし、ここではすべて必要なものは全て自分たちで用意しなければならないようだった。
そのためテーブルやイスなども加工はしているが、自然の姿い近い状態で使っている物も多かった。
エイミたちの生活に近いが、エンテリアたちは懐かしい匂いのする憧れの生活様式でもあった。



「ここに来た理由……なんとなくわかっているわ。ウェイラブ様は、あなた達に託したのね……」



スミカは、お茶を淹れるお湯を沸かしながら背を向けたまま自分の考えを告げる。

何の返事もないまま、部屋の中には人数分のカップに注ぐ紅茶の良い香りが部屋に広がっていく。
マリアリスやエンテリアとブランビートには、その香りで分かった。
その紅茶がこの集落に似合わない、とても上品質なものであることが。


スミカは一つずつ顔を確かめるように、カップをそれぞれの前に置いて行く。



「さぁ……あなた達のお話しを、聞かせてもらえる?そうね……まずお名前をお伺いしようかしら」



スミカは、嬉しそうに目の前の客人たちにそう告げた。
そして、マリアリスから順に自己紹介していき、最後はセイラが名乗った。




「あなた達が……ノービス様とサレン様のご姉妹ね。なんでも、不思議な力を持っているそうね」


マリアリスは、驚愕する。
こんな辺鄙な場所で、一体どうやってそんな情報を取集しているというのか。


(これが……初代諜報員の実力!)




「ごめんなさいね……あなた達には不自由な思いをさせてしまったわね。でも、事情があったの……言い訳にならないでしょうけど」



その言葉にエンテリアたちの頭の中には、幼い頃に押し殺した”本当の母親”への思いがとけた氷の中からその姿を現した。
勿論クリスも、本当の母親のような存在だった。


だが、やはりどこかで気持ちに一線を引いていたのは、その事情を聞かされていたからだろう。
それに病弱だったクリスは、常に屋敷から出ることはなく二人は常に体調を気遣っていた。
それがいま、健康で何の心配もない本当の母親と出会えたことで、全身で気持ちをぶつけることのできる喜びに二人は目から涙が零れ落ちそうになっていた。


それに、自分たちが忌み嫌われて母親から引き離されたのではないことはウェイラブの話からも分かっていた――それだけで、満足だった。







次にマリアリスは、村を出てウェイラブと離れこの集落でどのように過ごしてきたのかを聞いた。



この集落はウェイラブの本当の母親の出身地。
スミカの保護にこの場所を選んだのは先代がこの集落を保護し、なおかつ周囲からも知られていないため安全性も高いと判断してのことだった。



ここに越してきた際に、住民はスミカに優しく接してくれた。
その頃には、徐々にお腹の方も変化が見えており、誰が見てもおめでたい出来事であることは判っていた。
しかもウェイラブからの依頼で匿うことに、集落をあげて対応した。


しかし、その立場は徐々に逆転をしていく。

スミカはその過去の実力から、守られる者から守る者へとその役割を変えていった。


定期的には村の警備兵が、物資を運ぶとともに見回りに来ていた。
だがスミカは、それだけでは危ないと感じていた。

そこでスミカは、集落の若者を集めちょっとした警備を提案した。


若者たちは狩りなどに自信があり、自分たちには力があると安心していた。
そこでスミカは、まず生活の知識や道具の手入れ季節や気象に関する知識を集落の中で広めていった。
それによって、集落の中での発言の信頼性を高めていった。



次に、スミカは武術の向上を提案した。
当然そんなものは不要だという案が出たが、そこはスミカ自身がその力を”少しだけ”見せることにした。


その相手はこの集落で一番の実力者で会ったスライプという少年だった。
スライプは身重であるスミカにそんなことはさせられないと断ったが、その勝負の条件がスライプを”三回倒すこと”だった。

それであればスライプは逃げ回ればいいだけだろうと考え、その勝負を承諾した。

が、結果は惨敗だった。

勝負に掛った時間はおおよそ五分間。
スライプは、まったく成す術もなく敗北した。





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