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第三章 【王国史】
3-251 東の王国55
しおりを挟む目の前に座る女性は、初めて見るウェイラブに対し実に堂々とした態度で接する。
その姿からいくつもの場を潜り抜けてきたというその実力が容易に想像できる。
「私の名は、エフェドーラと申します。様々な村を渡り、行商人をやっております」
「初めましてエフェドーラ、私はこの村の村長でウェイラブです……本日は、どのようなご用件でしょうか?」
ウェイラブは心臓の高まりを抑えつつ、メイドにこの気持ちを悟られないように、相手に投げかけた質問の返答を待つ。
「今日はご紹介させて頂きたい商品が何点かございまして……こちらをご覧ください!」
エフェドーラは、カバンの中から何点か商品を持ち出す。
遠くの村で取れた野菜、希少価値の高いライナムのつぼみ、植物の種を絞って取り出した照明用の油など数点を机の上に並べる。
そしてそれぞれの品が、どのくらいの価値のたかいものか、精度の良い物かを淡々とウェイラブに話して聞かせた。
ウェイラブは、その言葉に何かスミカからのキーワードが隠されているのではないかと必死に耳を傾けるが、エフェドーラはただ単に自分が持ち出した商品の話をしているだけだった。
(な、何なんだ?……こいつはここに何しに来たんだ!?)
話し始めてから十数分が経過し、それでもまだエフェドーラの話は止まらない。
そろそろ、ウェイラブの頭の中にスミカの痕跡が消えそうになっていたと同時に、目の前の女性の自分勝手な行動に腹が立ってきた。
「もういい……!そんな話ならもう結構、充分だ。……ったく時間をとらせておいて……」
ウェイラブは、掌をエフェドーラに向けて話しを遮った。
ドアの隣にいたメイドは、そのウェイラブの行動に反応してエフェドーラを送り出す準備のためにドアを開けた。
するとその向こうには、もう一人メイドの姿があった。
交代の時間のようだ。
メイドはそのまま一旦、ドアの外に出ていった。
そこではメイド間で仕事の引継ぎが行われているはずだった。
よって、この場にはウェイラブとエフェドーラの二人しかいなくなった。
エフェドーラは商品を取り出したカバンの口を開け、商品を片付けようとした時にあることを思い出した。
「あ、そうそう。ここに来る途中、手紙を託されましてねぇ。こちらがその手紙です……」
封筒に書かれた文字は、見覚えがあり探している人物の気配のする封筒だった。
表にはひとこと”あなたへ”と書かれていた。
――カチャ
引継ぎを終えたメイドがドアを開け、一礼をして部屋に入ろうとした。
ドアが開いた瞬間、ウェイラブはその封筒を懐の中に仕舞いこんだ。
エフェドーラは、机の上に並べた数々の商品をカバンに仕舞い背中に担いだ。
「あーあ、残念です。せっかく知り合いに、村長様を紹介していただいたのですが……そのチャンスを生かせませんでしたね。でも、好みの商品の内容を把握しましたので、今度こそ気に入って頂ける商品をご用意いたしますよ!」
「あぁ、今度はちゃんと私の興味を惹く品物を持ってきてくれ。だが、その自分と商品を売り込む姿勢は嫌いではないな……よし、帰りに子の屋敷へ来るための許可書を持たせよう。ただ、何度か来ても興味を惹くものが無ければ、それも取り上げるから慎重にな」
「畏まりました。でも、今日はお話しを聞いて頂けただけで幸運でした。今後ともよろしくお願いしますね」
「あぁ、それはお前の努力次第だ。だが、次は期待しているぞ」
その言葉に満足したエフェドーラは、ウェイラブにむけてにっこりと微笑みメイドの後について行き屋敷を出ていった。
その夜、一人きりの寝室で明かりを灯すウェイラブ。
いまならば、メイドも離れた部屋で待機している誰にもこのことを知られるものはいない。
その手元には、エフェドーラから手渡された封筒と封を切る小さなナイフがある。
封筒を数回叩き、中身を封筒の底に移動させ開いた空間にナイフを入れる。
開けた瞬間、今度は濃いスミカの匂いが封筒の中から漂った。
その匂いにはやる気持ちを抑えて、ウェイラブは封筒の中身を取り出した。
そこには短い文が書かれた手紙と、折りたたまれた布が一つずつ入っていた。
ウェイラブはまず折りたたまれた布を開くと、そこには人の身体の一部が乾いた茶色い塊が二つ包まれていた。
そしてもう一つの手紙を開くと、次のように書かれていた。
”双子です、よろしくお願いします”
「ふ……双子かぁ……」
ウェイラブは思わず、緩んだ口から感想を漏らしてしまった。
しかし、一瞬にして気持ちを引き締める。
子供を引き取ると同時に、相手を裏切るような行動をとらなければならないために。
スミカの発案であるが、行動の決断をするのは自分なのだから。
スミカからは、ウェイラブが苦しむならやめても良いと言ってくれた。
だが、スミカのため……二人の子供のために。
ウェイラブは、行動を起こすことを決意した。
子供のへその緒は、布に包まれたまま木箱の中に入れこの決意を忘れないために大切に保管することにした。
その数か月後、ウェイラブはとある男を屋敷に呼んだ。
それは、婚姻の話を進めるために……
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