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第三章 【王国史】
3-247 東の王国51
しおりを挟む翌朝、ウェイラブは酷い頭痛と吐き気によって覚醒させられた。
いつベットに入ったのか……二つ目のピッチャーに入ったお酒を飲み干してからの記憶が全くない。
見つけていた服もいつの間にか脱がされており、毛布の中は何も身にまとっていない状態となっていた。
(またやってしまったのか……)
ウェイラブは、痛みで割れそうな頭を枕にうつ伏せに顔をうずめると、そこには自分とは違う甘い匂いが残っていた。
――コンコン
扉の向こうからノックの音が聞こえ、吐き気を抑えて入室を許可した。
入ってきたのはいつも、ウェイラブの世話をするスミカだった。
トレイの上には冷たい水がピッチャーに用意され、薬草師から貰ってきた”いつもの”茶色の粉も用意されていた。
スミカはベットの近くのキャビネットにトレイを置いて、ピッチャーから冷たい水をグラスに注いでウェイラブに手渡した。
礼を言ってグラスを受け取り、中身を一口飲んだ。
そのタイミングを見て、スミカは茶色い粉の胃薬を渡した。
ウェイラブは渡された粉を息を止めて口の中に入れ、残った水で喉の奥へさらに流し込んだ。
その味は決して飲みやすいものではなく、ウェイラブは何度か戻しそうになる飲み込んだものを出さないように必死に堪えた。
身体の嘔吐反射も落ち着き始め、スミカはウェイラブにもう一杯水を勧めるが不要とのことだった。
ウェイラブは手にしたグラスを戻す際に、甘いいい香りが鼻を刺激した。
先程の枕から匂ったものと一緒と判断するが、今は体調が芳しくないためそれより先に思考が働くことはなかった。
そして少し遅れて、また慌ただしい一日が始まる。
村の問題事の仲裁、警備兵の配置、土木開発などの最終決定は、ウェイラブが一人で行っていた。
派閥争いに参加していた者は、あの日以降村の役職から外していたためまだ新たに役職に就いたものを育てている状況だった。
忙しいのは数年、そこからは徐々に自分の仕事を他の者に任せられるだろうと考えていた。
それまでは辛抱する時期だと……ウェイラブは我慢をしていたがそれがストレスとなりアルコール量が増えていった原因だった。
いつもそばにいるスミカも、そのことは理解をしていた。
だからこそ、諜報員に関することはスミカが全て事前に問題を解決し、ウェイラブには事後報告や相談のレベルで承認で事を済ませていた。
そのことに対して、ウェイラブは今後の自分の理想的な体制を実行してくれているため、信頼を持ってスミカの言う通りにさせていた。
昼食時、薬草が効いたのかお腹の具合も良くなり食事も採れるようになってきた。
スミカが食事を運んでくると、ウェイラブのテーブルの前に並べていく。
その時、またあの甘い香りがスミカから感じられ、それが刺激となり昨夜の記憶の一部が甦る。
ガタッ!
頭に浮かんだ記憶に対して動揺し、ウェイラブの顔が赤くなる。
(え?まさか……)
「――どうなされましたか?」
スミカは冷たい飲み物を注ぎながら、自分の姿を見て動揺しているウェイラブに問いかけた。
その言葉に、ウェイラブはスミカに事実を確認することにした。
「昨夜、寝室まで運んでくれたのか?」
「はい」
「……服も着替えさせてくれたみたいだな」
「はい」
「……その……一緒に……寝たのか?」
「はい」
スミカは、動揺することもなくウェイラブからの質問に対して淡々と答えていく。
少し嘘をついたところもあったのだが、それは心の中に隠しておいた。
ウェイラブの思い出した記憶は――快楽
ウェイラブはベットの中で女性を抱き締め、快楽を求めて獣のようになっていた。
だが、その相手は誰だか覚えていない。
しかし、常に傍で世話をしてくれているメイドと枕の残りがを考えれば、その相手は自然と判明する。
だが、スミカは自分に対して何の感情も見せずに仕事をこなす。
それが何を意味しているのかは分からいが、ウェイラブは急に自分の犯した行為が怖くなってきた。
「す……すまない……酔っていたとはいえ……」
この時、スミカの頭の中に二つの回答が浮かび上がった。
そして、ここで選んだ回答が今後の関係に大きく影響することとなった。
「……いえ、私も拒まなかったのがいけないのでしょう。それに村長というお方が、メイドと関係を持つことはあまりよろしくないかと。ですから、お気になさらず」
「……そうか」
その声には安堵とは違う感情が含まれているようにも思えたが、メイドがそんな期待をしてはいけないとスミカは自分の気持ちを押し殺した。
スミカの選択は、自分の感情を外に出すべきか出さないべきかで迷っていた。
しかし、今回の選択は前者を選択し、メイドとしても自分の立ち場をわきまえての選択だった。
ウェイラブはこれを機に、アルコールの摂取を自粛してスミカに迷惑を掛けないようにすると誓った。
スミカも、”お身体のためにも、それがよろしいかと”と、その提案を受け入れて協力すると伝えた。
だが、そこから数か月後――
事態は望む望まないにかかわらず進んで行く。
スミカの中に、新しい命が宿ったことが発覚する。
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