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第三章  【王国史】

3-230 東の王国34

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村に人が戻ってきた。

村の外で待機していた村長に、無事討伐が終わったことを報告する。
エイミとセイラは無事であることは真っ先に伝えてある。
村長もエンテリアとブランビートの後ろについてくる二人の娘をみて、その事実を確認し安堵した。


村長が次に思ったことはこの四人の関係性の発展だが、いまの雰囲気から何もなかったのだろうと推測する。
そう、四人は決して遊んでいた訳ではなかった。
自らの命をかけて、村を守ってくれたのだからそれどころではなかったのだろう。


それについては今後……しかもなるべく早いうちに、お互いの村の間で交流を活発化させてから外堀を埋めていくことも村長は考えていた。



その日の夜、エンテリアとブランビートは村長の家に呼ばれる。
二人の功績を称えたいと、村長の家に招待した。


例えうちの村の料理が、二人の村の料理の質に劣っていたとしても感謝の気持ちを伝えたい行動としては出来る限りのことをして、もてなす
ことが必要であると考えた。
幸いなことに、二人はこの村の料理を気に入ってくれていた。
娘二人にはない食べっぷりに、村長は嬉しくなって次々に酒を二人のコップに注いでいく。


その裏の思惑には、食事の味により家庭が不仲になることはこの時代でも起きていた。
二人の舌が、我が家庭の家の味に馴染むか確かめたい気持ちも少なからずあった。
それについては、多分問題なさそうだった。

今出している料理は母親だけでなく、二人も手伝っているため味に関しては問題ないだろう。



食事の時間は進んで行き、エイミたちも調理を終えて一緒の席に付いていた。
その頃には父親は、かなり酔った状態になっていた。
父親は酔った勢いと、仲良くなった二人に気を許したのか踏み込んだ発言をしてその場を凍らせた。



「で……お二人は、うちの娘たち……どうですか?」




「「――え?」」



「お、お父様……な、な、何を言ってるの!?」



「うるさい!!お前たちも悪いんだ……(ヒック)……もういい年なんだ!そろそろ相手をもらってもいい頃だろうが!?……っくしょう!」




そういうと、父親はテーブルに伏せてしまい眠ってしまった。
村長も非常事態の中、相当疲れていたのだろう。
それに、本来なら村長である自分が先頭に立つべき戦い実の娘と隣の村から来た二人の男性が対応してくれていた。
村長は一晩中遠くで聞こえる音を聞きながら、四人の無事が気になっていたのだ。





「……ごめんなさいね。どうぞ、お気になさらずに!」



母親が急いで、自分の村の責任者のフォローをする。


「いえ、大丈夫です。お二人の心配をされておられましたし、こんなこともありましたので相当お疲れだったのでしょう」

「我々も居心地がよく、ついつい長居し過ぎましたのでこれにて失礼いたします」



悪印象を付けたくなかったのか、母親は二人の気を使って帰ろうとする発言を止める。



「もっとくつろいで行かれてもよろしいのですよ!?……ほら、あなた達もお引止めして!」



急に母親から話しを振られたエイミとセイラは、自分の父親の恥ずかしい姿を詫びながら二人にもっとくつろいでもらうようにお願いした。



「……有難うございます。では、もう少しお世話になります」



その言葉に母親はニコリと笑顔を送り、酔いつぶれた村長を寝室まで運んでいった。
エイミがそれを手伝おうとしたが、母親はこの場に残るように指示しそれに従った。



そこから少し、静かな時間が流れる。
お互い気にし過ぎたのか、会話もなく手にしたグラスの中の飲み物やわずかに残っていたライナムのつぼみを摘まんでいた。

その無音の時間を終わらせたのは、セイラだった。




「……それで、これからどうなされるのですか?」

「これから……とは?」


エンテリアたちにとっては、妹を弄んだ敵に対して罰を与えたことより今回の仕事は終了した。
これからという言葉は、自分たちのそれぞれの時間に対して聞いているのだとエンテリアは推測する。



「その……これでお互いの村に降りかかる脅威は……取り除かれたのでしょうか?」

「そうですね……とりあえずの脅威は取り去られたと思っています。ですが、あの者……トライアという者が言っていた言葉には、気になるところはありますね」


それは、”精霊使い”という存在を敵視していたことだった。
誰かに命令をされて、トライアはその存在を消そうとしていた。

その存在を放置していれば、これから先も同じ様にエイミとセイラが狙われる可能性がある。
出来れば、その時に手助けしたいとエンテリアもブランビートも同じことを考えていた。



そこで、エンテリアは”これから”の言葉の意味を理解した。




「……できれば、これからもお二人をお守りしたいと考えています。それに今思えば、この”剣”と”盾”はお二人を守るために授かったの者でしょうから」



その道具も、普通ではない力を見せていた。
セイラは、その剣と盾について聞いてみた。



「この剣と盾は、代々村に伝わってきたものなのです……」



ブランビートは、セイラの問いかけに対し一口グラスの飲み物口に含んで話し始めた。





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