393 / 1,278
第三章 【王国史】
3-225 東の王国29
しおりを挟む「いい……いいぞ!これが精霊の力か!?」
トライアは、攻撃が防がれたことよりも何か違うことで興奮している様子を見せている。
「お前は誰かの命令を受けていると言ってたな?」
ブランビートが、機嫌が良さそうな相手に話しかける。
何か情報を引き出すことと、体制を立て直すために時間を稼ぐために声を掛けた。
どのような状況になるか分からないが、試してみる価値はあると考えた対応だったが、トライアはその言葉に乗ってきた。
「あぁ……そうだ。俺の産みの親……母様は、全てを見通しておられた。この日のことも予測されていたのさ、お前たち精霊使いが生まれることもな。ここでお前たちを殺さなければ、お前たちは大きな力になってしまうとおっしゃっていた。だから俺は、その流れを断ち切るために生まれ、ずっとこの日を待っていたのさ!」
「お前を生んだ親……ずっと前から……大きな力……?それは一体何のこと……」
「うるさい、だまれ!おしゃべりは終わりだ。お前たちはこれから死ぬのだ……この俺に殺されてな!?」
トライアは少し苛立ちを見せながら、エンテリアの質問を遮った。
しかしエンテリアは、トライアを生んだものが預言者のような存在であるように思えた。
そのことを踏まえ、更に遮るトライアを抑えて問う。
「……俺たちが死ぬことも、その者が言うには”決まっている”ことなのか?」
その質問に対しトライアは明らかに動揺し、それを抑え込もうとしている様子が伺える。
「あ……あぁ。そうだ、ここでお前たちは俺の手に掛って死んでいくんだよ!!」
トライアは、急に声を荒げた。
それと同時にエンテリアとブランビートが、トライアに向かって走り出した。
先程の話で時間は十分に取れており、次に起こす際の準備は出来ていた。
二人は並び、一直線にトライアの方へ向かっていく。
トライアは片手を挙げて、二人に向けて瘴気を放出する。
それと同時にエンテリアとブランビートは左右に別れ、トライアの狙いを定めさせないようにする。
「――ちぃっ!!!」
トライアは舌打ちを一つした後、左側に移動したエンテリアに狙いを定めたて追い掛ける。
先程の攻撃で、装備にダメージを与えることができたエンテリアの方に絞った。
トライアは、エンテリアの二倍以上の速さで追い掛けてきた。
その前の急に後ろに現れた方法では追いかけてこない、そのことから動いているものに対しては力では追いかけることができないと判断した。
トライアは、通常では考えられない速度で後ろからエンテリアの姿を捉える。
その右手には黒い瘴気を纏い、エンテリアのわき腹を狙い打ち込んだ。
ガン!
突然目の前に現れた石の壁によって、トライアの強撃は防がれた。
防いだと同時にその壁は取り除かれ、再びエンテリアはトライアの姿をみる。
トライアの前腕は、関節を構成しない場所から折れ曲がっているのが見え、その場所に向かってエンテリアは剣で折れた箇所を切りつける。
ザシッ!
エンテリアが握る剣の柄に、今まで得られなかったいつも通りの感触が伝わってくる。
その結果を目で確認すると、信じられない光景が見えた。
トライアの折れ曲がっていた前腕部は、エンテリアによって切り落とされた……はずだった。
そこには粘質状の意思を持った液体が伸びて、落ちかかっている腕の先が繋ぎ止められていた。
その粘質はゆっくりと切り落とした腕を引き上げ、元の場所に戻っていく。
「ちょ、ちょっと!?な、な、な、なにアレ!!」
「し、知らないわよ!?」
セイラはその様子を見て、気持ちの悪いものを見たかのような声でエイミに確認した。
当然エイミもセイラと同じ気持ちで、いつも二人は同じ行動をしていたのでセイラが知らないことはエイミも知らなかった。
未知なものに対して慌てるエイミとセイラに対し、エンテリアとブランビートは冷静に対応する。
トライアを倒す絶好のチャンスを逃さないため、離れていたブランビートが後方からトライアの首をはねる。
しかしそれは、ブランビートの予測通り無意味とも思える結果となった。
切り落とされたそのまま地面に落ちかけた頭部は、またしても粘質の触手のようなものに捕まれそのまま元の位置に引き戻されていく。
誤って後ろ向きにつけられた頭部を、何ともなかったように先ほど切り落とされた腕を使って本来の向きに戻した。
「よくもやってくれたなぁ……これで分かっただろ?お前たちには俺を消すことはできないんだよぉぉぉぉぉっ!!!」
トライアは声を張り上げて、ブランビートとエンテリアに向かってくる。
二人を交互に攻撃し、それでも反撃させる隙を与えない程の速さで拳を繰り出す。
それでも完全に押され切れていないのは、ブランビートたちもトライアの攻撃を見切っているめ最小限の動きで攻撃を交わしていた。
無駄な体力を使わず、相手の攻撃を交わすことだけに専念をしている様子だった。
それはエイミとセイラにも、その攻撃を見せているようでもあった。
二人はどんな力を持っているのかわからなかったが、不思議な力がこの戦況が大きく変わる力であると信じていた。
「くそがっ!ちょこまかとうっとしい!!!」
トライアは自分の攻撃が当たらないことに、我慢の限界を超えていた。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話
カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
チートなんてない。
日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。
自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。
魔法?生活魔法しか使えませんけど。
物作り?こんな田舎で何ができるんだ。
狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。
そんな僕も15歳。成人の年になる。
何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。
になればいいと思っています。
皆様の感想。いただけたら嬉しいです。
面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。
よろしくお願いします!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。
続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる