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第三章  【王国史】

3-219 東の王国23

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「お前ら……俺のエサをどこにやった?」



「ちょっと、あなた!?エサって……」





相手の言葉に思わず声を荒げそうになったセイラは、ブランビートから肩に手を掛けられて言葉を制された。
そのままブランビートはエイミとセイラを後ろに下げ、二人の前に立ち盾と剣を構える。



その男はやや髪の毛が長く肩に付くほどの長さで、容姿も普通の女性であれば大半が好意的にとらえられるほど中々なものだった。


だが、エイミとセイラはその姿に嫌悪感を抱く。
上半身は何も身にまとっておらず、下はダボついたサルエルパンツを着用していた。


その人物から漂ってくる臭いは、熱と湿気を帯びた生臭い何とも言い難い匂いを発している。
目はうつろで焦点が定まっておらず、この当時にはない薬物を使用して理性が感じられない目をしている。




「おとなしく捕まれ、もうお前は逃げられない」






エンテリアは、納屋の入り口からブランビートと放射状の範囲の逃げ場を塞ぐ。
この男が逃げるとすれば、納屋に逃げ込むかその壁を突き破って出ていくしかない。


男は立ちはだかる目の前の男たちに、不思議そうな顔をする。



「お前……どこかで……合ったか?」






「忘れられてしまうとはな……まぁいい、私の名は”エンテリア”、そしてもう一人は”ブランビート”だ。お前に弄ばれた”レヴュア”の兄だ」






目の前の男は、その名を聞いても不思議そうな顔をする。
ふたりにとってはその動作が、怒りの感情を更に増大させる。


二人は、グッと息を呑みこみ自分の感情をコントロールする。


そして、二人の悪い流れを断ち切るかのようにエイミがその男に話しかけた。







「あなた……名前は?」


話しかけられた男は長い髪を手でかき上げ、声がした方へ眼だけを動かす。
離れた存在が視界の中に入り、その姿を上から下まで嘗め回すように見入っている。


エイミはその異常な視線に対し、背中に寒気を感じる。
その目は異性を見るよりももっと邪悪な、女性を玩具のような認識で見ているのがわかった。




「……おい、聞こえなかったのか?」



視線の直線上にいたブランビートが、エイミの質問に答えない男に声を掛けた。
その行動は別な意味を持っており、嫌らしい視線をエイミから自分に向けさせる意味も含んでいたのだった。


男の眼球は動かないが、焦点はエイミから手前のブランビートに切り替わりまたエイミの方へ移っていった。








「あぁ……名前……だったか……”トライア”だ」




名乗ることが億劫なのか、けだるい感じで自分の名を答えた。





エンテリアは、剣先を名前を名乗る男の方へ向け鋭い視線を向ける。
これが村を守る者であり、村の責任者としての表情なのだろう。







「では、トライア。……我々に捕まり、自分の犯した罪の罰を受ける気はあるか?」





初めて名を呼ばれた男は、呆れた顔でエンテリアに視線だけを向け、そしてその言葉を鼻で笑う。






「なんで俺が罰を受けなければならないんだ?……そもそも言い寄ってきたのはアイツ、”レビュア”の方からだぜ?俺は何も悪くねー」


「嘘を言うな!レビュアがお前みたいなやつを……!?」





可愛い自慢の妹が侮辱されているように感じ、ブランビートは声を荒げてトライアの発言を否定した。

しかし、返ってきた言葉は、そんな気持ちを小馬鹿にするかのような内容だった。



「ホントだって……あの女の方から俺に近付いてきたんだよ。それで勝手に俺の世話をし出したんだって」




トライアは両手の掌を上に向け、ヤレヤレといった感じのポーズをとる。



「食事や隠れる場所……全部用意してくれたんだよ。村長の娘だけあって、随分といいものを用意してくれたな。だから言ったんだ、”お礼に何が欲しい?”ってさ……そしたらあいつ、何を望んだと思う?」




次にトライやは腕を組み、垂れ下がってきた前髪の間からまとわりつくような目線でブランビートを見る。
トライアの質問には答えずに、ブランビートは両手に握った剣を下段に構えたまま相手を見据える。





「ふんっ、無視かよ……まぁ、いいさ。あいつは”俺のカラダが欲しい”って言ったんだ!卑猥にもの程があるだろうよ!!」


「――ぐっ!?」


「――ゴミが!」







双子の兄は妹に対する最低な言葉に、いまにも爆発しそうな感情を必死で抑える。
しかし、向けた剣先は溢れそうな感情のエネルギーに反応し小刻みに震える。

トライアは、その反応を愉しむかのように更に言葉を続ける。





「ククク……いい身体してたぜ、アイツ。毎晩毎晩毎晩毎晩、俺のことを求めてきたんだ……それでいい声で鳴くんだよな。お前たちは聞いたことがあるか?あいつが泣きながら悦ぶいい声をよぉ!!」





――ガギッ!




トライアは、片手でブランビートの上段からの剣を受け止めている。
やせ型の体格からは想像できない動きと力で、怒りを込めた渾身の一撃を止めてみせた。


ブランビートは驚く間もなく、状況を判断し剣を引き掌ごと切りおとそうとしたがそこには金属が擦れる音がした。


一旦距離をとり、再び剣を構える。




「危ないじゃねーか、いきなり襲い掛かるなんてよぉ!?」



そう言いつつ、剣を塞いだ手から石をポトリと地面に落とした。





剣を受け止めたタネは分かったが、二人は警戒度をさらに上げる。
あの石で剣を受け止めたとしても、並みの者にはブランビートの剣を平気で受けることができない。






「それより……後ろの女。お前たち……」



トライアは興味をブランビートから、その後ろにいる二人に移した。






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