387 / 1,278
第三章 【王国史】
3-219 東の王国23
しおりを挟む「お前ら……俺のエサをどこにやった?」
「ちょっと、あなた!?エサって……」
相手の言葉に思わず声を荒げそうになったセイラは、ブランビートから肩に手を掛けられて言葉を制された。
そのままブランビートはエイミとセイラを後ろに下げ、二人の前に立ち盾と剣を構える。
その男はやや髪の毛が長く肩に付くほどの長さで、容姿も普通の女性であれば大半が好意的にとらえられるほど中々なものだった。
だが、エイミとセイラはその姿に嫌悪感を抱く。
上半身は何も身にまとっておらず、下はダボついたサルエルパンツを着用していた。
その人物から漂ってくる臭いは、熱と湿気を帯びた生臭い何とも言い難い匂いを発している。
目はうつろで焦点が定まっておらず、この当時にはない薬物を使用して理性が感じられない目をしている。
「おとなしく捕まれ、もうお前は逃げられない」
エンテリアは、納屋の入り口からブランビートと放射状の範囲の逃げ場を塞ぐ。
この男が逃げるとすれば、納屋に逃げ込むかその壁を突き破って出ていくしかない。
男は立ちはだかる目の前の男たちに、不思議そうな顔をする。
「お前……どこかで……合ったか?」
「忘れられてしまうとはな……まぁいい、私の名は”エンテリア”、そしてもう一人は”ブランビート”だ。お前に弄ばれた”レヴュア”の兄だ」
目の前の男は、その名を聞いても不思議そうな顔をする。
ふたりにとってはその動作が、怒りの感情を更に増大させる。
二人は、グッと息を呑みこみ自分の感情をコントロールする。
そして、二人の悪い流れを断ち切るかのようにエイミがその男に話しかけた。
「あなた……名前は?」
話しかけられた男は長い髪を手でかき上げ、声がした方へ眼だけを動かす。
離れた存在が視界の中に入り、その姿を上から下まで嘗め回すように見入っている。
エイミはその異常な視線に対し、背中に寒気を感じる。
その目は異性を見るよりももっと邪悪な、女性を玩具のような認識で見ているのがわかった。
「……おい、聞こえなかったのか?」
視線の直線上にいたブランビートが、エイミの質問に答えない男に声を掛けた。
その行動は別な意味を持っており、嫌らしい視線をエイミから自分に向けさせる意味も含んでいたのだった。
男の眼球は動かないが、焦点はエイミから手前のブランビートに切り替わりまたエイミの方へ移っていった。
「あぁ……名前……だったか……”トライア”だ」
名乗ることが億劫なのか、けだるい感じで自分の名を答えた。
エンテリアは、剣先を名前を名乗る男の方へ向け鋭い視線を向ける。
これが村を守る者であり、村の責任者としての表情なのだろう。
「では、トライア。……我々に捕まり、自分の犯した罪の罰を受ける気はあるか?」
初めて名を呼ばれた男は、呆れた顔でエンテリアに視線だけを向け、そしてその言葉を鼻で笑う。
「なんで俺が罰を受けなければならないんだ?……そもそも言い寄ってきたのはアイツ、”レビュア”の方からだぜ?俺は何も悪くねー」
「嘘を言うな!レビュアがお前みたいなやつを……!?」
可愛い自慢の妹が侮辱されているように感じ、ブランビートは声を荒げてトライアの発言を否定した。
しかし、返ってきた言葉は、そんな気持ちを小馬鹿にするかのような内容だった。
「ホントだって……あの女の方から俺に近付いてきたんだよ。それで勝手に俺の世話をし出したんだって」
トライアは両手の掌を上に向け、ヤレヤレといった感じのポーズをとる。
「食事や隠れる場所……全部用意してくれたんだよ。村長の娘だけあって、随分といいものを用意してくれたな。だから言ったんだ、”お礼に何が欲しい?”ってさ……そしたらあいつ、何を望んだと思う?」
次にトライやは腕を組み、垂れ下がってきた前髪の間からまとわりつくような目線でブランビートを見る。
トライアの質問には答えずに、ブランビートは両手に握った剣を下段に構えたまま相手を見据える。
「ふんっ、無視かよ……まぁ、いいさ。あいつは”俺のカラダが欲しい”って言ったんだ!卑猥にもの程があるだろうよ!!」
「――ぐっ!?」
「――ゴミが!」
双子の兄は妹に対する最低な言葉に、いまにも爆発しそうな感情を必死で抑える。
しかし、向けた剣先は溢れそうな感情のエネルギーに反応し小刻みに震える。
トライアは、その反応を愉しむかのように更に言葉を続ける。
「ククク……いい身体してたぜ、アイツ。毎晩毎晩毎晩毎晩、俺のことを求めてきたんだ……それでいい声で鳴くんだよな。お前たちは聞いたことがあるか?あいつが泣きながら悦ぶいい声をよぉ!!」
――ガギッ!
トライアは、片手でブランビートの上段からの剣を受け止めている。
やせ型の体格からは想像できない動きと力で、怒りを込めた渾身の一撃を止めてみせた。
ブランビートは驚く間もなく、状況を判断し剣を引き掌ごと切りおとそうとしたがそこには金属が擦れる音がした。
一旦距離をとり、再び剣を構える。
「危ないじゃねーか、いきなり襲い掛かるなんてよぉ!?」
そう言いつつ、剣を塞いだ手から石をポトリと地面に落とした。
剣を受け止めたタネは分かったが、二人は警戒度をさらに上げる。
あの石で剣を受け止めたとしても、並みの者にはブランビートの剣を平気で受けることができない。
「それより……後ろの女。お前たち……」
トライアは興味をブランビートから、その後ろにいる二人に移した。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる