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第三章 【王国史】
3-216 東の王国20
しおりを挟む二人は村長である父親の命を受け、村の外れの森の中で待機しているという近隣の村から来た二人を探していた。
詳しい場所は聞いておらず、二人の場所を探し当てるのは容易ではない。
だが、二人はいつもなら気軽に口にする状況に対する不満の言葉も頭の中に浮かぶことさえしない。
それは自分の友人の状態が、非常に切迫した状況であると判断したためだった。
必死に森の中を、村の領地の縁に沿って走り探して回った。
二人で手分けをして探すことも考えたが、万が一何者かに襲われた場合を考え二人で行動することにした。
その代わり人の目だけでなく、四つの精霊の力も借りて探すことにしたのだった。
「――ま、待って……お待ちください!」
二人は突然、後ろから声を掛けられた。
二つの影の男性はエイミとセイラを追いかけてきた様子だった。
二人の歩みは相当早かったようだ、二人は森の影から二人の姿を見つけて追い掛けてきたが、追っ手の確認や状況を探りながら歩く分その歩みは遅かった。
声をかけられた二人は、その場に止まり振り返る。
「あ、ここにいらっしゃったんですね!」
「エンテリア様、ブランビート様」
名前を呼ばれた二人の男性は、息を乱してはいなかったが呼吸を整える。
エイミとセイラも、その様子を黙って見守る。
心拍が落ち着いたところで、改めて自分たちを探していたように見えた二人に問い掛けた。
「何か急いでいた様子でしたが、私たちをお探しでしたか?」
「そうです、この前お聞きしたお話の特徴に似た方を見つけました」
その事実を悲しそうに話すエイミに、二人の男性は言葉を口にすることを躊躇う。
しかし、エイミからその先の言葉が続かなかったため、ブランビートは重く感じる口を開く。
「……それは村民の方ですか?」
当たり前のことだが、告げることを苦しそうにしているエイミに対して、心に土足で踏み入るような真似はできなかった。
ましてや、二人に対し好意を持つ者として、不用意な言葉や行動で嫌われたくはなかった。
「私たちの……大切な親友です」
セイラは声を震わせながら、話を前に進めるために情報を提供した。
「お願いです、助けてください!」
エイミが二人の男性に助けを求める。
その言葉を聞き、二人にの目に力が宿る。
「もちろんです!」
「我々にお任せください!」
二人はようやく手がかりが見つかったことよりも、この二人に頼られる喜びの方が勝っていた。
「それでは もう少し詳しい情報を頂けますか?」
エンテリアは嬉しい気持ちを抑え、エイミとセイラの友人を助けるべく頭を切り替える。
サミュの変化の経緯、村の中での家の位置、村民に与えられた仕事の役割など、襲撃に際して被害の出ないような計画を立てる必要がある。
そして、明日の夜にその者を捉えることに決まった。
エイミとセイラは、ここで決まったことを村長に説明しに戻っていく。
明日の作戦が成功するために、村でやらなければならないこともあった。
戦闘となった場合村民を避難させる必要がある、それも相手に気付かれない様にしなければならない。
そのことは他所から来た者からの指示ではなく、村長からの指示命令でなければ動かないだろう。
その話しを聞いた父親は、本日中にそのことを一軒一軒回って村民に説明した。
中には村長の話しを疑う者もいたが、それはもう個々の判断に任せることにした。
ただ、その話しを漏らしたりした場合、大きな罰則や村からの追放も考えていることを付け加えていた。
それ程の状況が迫っていることを、村長は説いて回った。
「よし、これで全ての村民に伝えることができたよ」
父親は差し出された、セイラの精霊の力によってグラスに注がれた冷たい水をゆっくりと数回に分けて喉の奥に流し込む。
そして”ふぅー”と息を吐き、額に浮かんだ汗を布で拭った。
「最初はお前たちの話が信じられなかったが、サミュのあの姿を見てしまっては……な」
現在サミュは、母親と一緒に村民が知らない場所に隔離している。
エンテリアたちの話が正しいとすると、今のサミュはその者によってこのような状態になったと考えるべきだ。
村の中では、そのような不審者を見たものはいない。
最も近くにいた、サミュの母親でさえも。
それと、その者活動はやはり日中よりも夜間に活動をしていることが考えられる。
その時を狙って、襲撃しようと考えたのだ。
襲撃の前に、サミュの身の安全を確保する。
エンテリアたちの情報では、その女性は未だに意識が戻っていないとのことだった。
心臓と呼吸だけが動いており、生きているのか死んでいるか分からない状態だという。
”サミュをそんな状態にはさせない”
これは母親と、エイミとセイラの強い願いだった。
――翌日
朝日が昇り始め、村人たちは活動を始める。
まずは食事、それから各村民が決められた仕事をこなしていく。
太陽が頭の上を通るころ、次の食事を身体に摂取する。
そうすることにより空腹も満たされ、午後もまた仕事に力を入れることができた。
そして、また太陽はあの山脈の向こうへと沈んで行く。
再び闇が訪れ、長く慌ただしい夜が始まる。
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