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第三章 【王国史】
3-212 東の王国16
しおりを挟む夕日が落ち、夜の闇に包まれた村。
家とは違う離れた場所に、納屋の立て掛けの窓からオイルで灯した明かりが揺れていた。
その中で男女二人、絡み合いながら快楽を貪っていた。
事が済んで、二人は息を整えながら快楽の余韻に浸っている。
そして男は上半身を起こすが、相手はその身体を逃がさない様に抱きついている。
「サミュ……どうだった?何か聞き出せたか?」
「い……いえ、何も」
その答えに男は、今まで胸の中で寄り添うサミュの髪を撫でるのを止めて両手で自分の身体から冷たく引き離した。
「ま、待ってよ!今まで、あの子たち今まで休んでたのよ!それにいきなりだと怪しまれちゃうのよ、あの子たち頭がいいのよ……もう少しだけ、お願いもう少し時間をちょうだい……ねぇお願い、トライア!?」
トライアと呼ばれた男は、サミュに背中を向けている。
サミュはその背中を引き留めるように、後ろから抱き着いている。
そこには、サミュの二つの柔らかいものが押し付けられていた。
「……わかった。そこまで言うなら、待つことにするよサミュ。かわいいお前の”頼み”だからな」
トライアはそう言って、再びサミュの方へ身体を向け、再び厚い胸元に来るように手を広げる。
サミュはそれに疑うことも抵抗することもなく、オイルランプの明かりに向かう虫のように引き寄せられていく。
「――痛っ!」
男の香りのする胸に顔をうずめようとした直前、トライアはサミュのきれいな髪を鷲掴みにして顔を引き上げる。
「……俺はなぁ、そんなに気が長くないんだ。判ってるよな……俺の言うことを聞く女は、お前以外にもいるんだからな?」
「わ……判って……ます」
怯えた目で男の目を見るサミュは、痛みよりも男が自分の傍を離れていくことに恐怖を感じている。
「分かればいいんだ……わかればな。さぁ、おいで……」
男はそのままサミュを自分の胸の中に引き寄せ、再び髪を撫でる。
サミュは再び、大好きな場所に帰ってこれたことに目を閉じて喜びを噛みしめる。
(誰にも渡さない……トライアは、私だけのものよ……)
ディヴァイド山脈の頂上が、薄黒い厚い雲に覆われている。
遠くの空からは、時折ゴロゴロといった音が聞越えてくる。
そんな空の下、エイミとセイラは歩いているとよく見た顔を見つけた。
「おはよう、サミュ!」
家の外の桶の水で顔を洗っていると、後ろから聞き覚えのある声を掛けられた。
「おはよう。エイミ、セイラ」
二人は声とは裏腹に、まだ眠たそうな顔をしている。
村の中で養鶏を営んでいる村民から、卵を分けてもらってくるようにと母親に言われたのだった。
「サミュも早いわね、あれ?その首……」
エイミは、サミュの身体に起きている異変に気付いた。
「サミュ……その首元どうしたの?赤くなっているけど」
「え……あ。こ、これ……昨日虫に刺されちゃってね。……かゆみとか痛みは無いんだけど……」
「ふーん……あなたは、肌がきれいなんだから注意しなさいよね」
「そうよ、せっかくのきれいな肌が勿体ないわよ」
サミュはこの二人は知らない振りをしているのか、本当に分からないのか判断に迷った。
しかしこれ以上はこの話題を引きずりたくないため、サミュは急いで話題を切り上げた。
「ありがとうね、気を付けるわ。……それじゃ、朝食の支度があるから、またあとでね」
「「あとでねー」」
二人は寝ぼけた顔で、サミュに手を振り家に入るのを見送った。
「……今日は天気が悪そうね」
「そうね、私の風で吹き飛ばせないかしら?」
「そんな力あるわけないでしょ、エイミ?さ、早く行きましょお腹が空いたわ!」
そう言って、二人は卵を分けてもらため再び歩みを進めていく。
空は黒い雲に覆われ、時折光を発しながら遠くの空で雷が落ちる音が轟く。
次の瞬間村に大粒の雨が降り注ぎ、瞬く間に視界が奪われていった。
「あー。今日の仕事、これじゃできないじゃないの」
「何を言っているのセイラ?家の中でもやることはたくさんあるのよ?」
母親は、何とかさぼろうとするセイラに怒りながら告げる。
「洗濯はセイラの水で、お願いしようかしら?」
「私の精霊の力をそんなことに使う!?」
だが、ガプと名付けられた水の精霊は嬉しそうに、手伝う意思を母親に告げていた。
家族の中では、すっかり精霊の存在は馴染んできていた。
人型に進化したおかげで意思の疎通もでき、母親は我が子以上にかわいがっている。
父親も精霊との接し方に戸惑いながらも、二人と母の態度から学習をして少しずつ接するようになってきた。
(本当に良かった……)
そんなことを頭に浮かべながら、エイミは母親に言われた食器を洗っている。
――コン……コン
エイミの耳には、玄関の扉から様子を伺うノックのような音が聞こえた。
しかし、土砂降りの雨の音に紛れて本当に扉を叩いた音か分からなかった。
振り返ると、精霊とじゃれ合っていた母親とセイラもその音に気付いたみたいようだった。
動きを止め誰も反応せず、耳を澄まして待ってみる。
――コン……コン
確かに扉をノックする音が聞こえた。
村人であれば、村長もしくはその名を呼びドアをノックするはずだが、その声は雨の音が混じっていたとしても聞こえなかった。
父親は槍を持ち、扉の前に立つ。
「……どなたかな?」
「私たちは、近くに住む村からやってまいりました”エンテリア”と申します。突然の訪問をお許しください」
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