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第三章  【王国史】

3-210 東の王国14

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ここは激動の一夜が開けた村長の家。
二人はまた、父親の書斎に呼ばれている。


以前と同じように、父と母がローテーブルを挟んで向こう側に座っている。



真剣な顔つきで、二人の娘を見つめる両親。
前と違うのは、二人の娘の両肩にそれぞれの契約精霊が姿を見せていること。




二人はまず、昨夜のことを順を追って説明した。
火の手が上がった家の子供を助けた方法、突風で拡がりかけた火を押さえて見せたこと。




娘が話していることは夢の内容ではなく、実際に昨夜起きた出来事。
その証拠に、現在火事は無事に収まっている。






子供を親に連れて帰る際、父親から言われたのは服を濡らすこと。
それによって助けてもらった夫婦は、エイミが水を被り火の中に飛び込んで救助してくれたものと思い込んでいた。




その後の消火活動も、村民は皆自分たちの仕事で必死だったため精霊の存在には幸いにも気付いていなかった。







「ううむ……信じられ……いや、目の前の精霊がその証拠なのだろうな」







父親は精霊の姿をみて、自分の娘たちが話したことが嘘ではないことを理解しようとしている。







「しかし、これは大変なことになるぞ!?」






父親は頭を両手で抱えながら、身体を前に倒し首を横に振りながら嘆く。






「アナタ……何がそんなに?」








その母親の言葉に父親はゆっくりと顔を上げて話す。








「よく考えてみろ……この子達はもう、普通ではなくなった。我々は我が子だから何とかしてあげたいという気持ちから接することができる。だが、他のものはどうだ?火や水を出せる娘を誰が貰ってくれるというのだ!?」



「そんな、考えすぎではないですか?みたところ、普通の人としての変化は起きていないようですし、この小さな生き物……精霊でしたっけ?いつかはいなくなるかもしれないし、隠していればバレないかもしれないじゃないですか」


「それはそうだが……」








母親の言葉にうまく言い返すことができない父親は、頭をポリポリと掻きながら必死に落ち着こうとする。
そこにエイミが言葉を被せていく。








「わ……私、精霊たちと離れるつもりはないわ」


「な……お前は何を!?」









エイミの言葉に、瞬間的にローテーブルを叩きつけ怒鳴ってしまった父親は一瞬にして冷静さを取り戻し、場の空気が自分の声の大きさによって凍ってしまったことに気付いた。


娘たちの視線は、明らかにいま自分を恐れている。
父親はゆっくりと視線を下にずらして娘たちを視界から外した。









「と、とにかくお前たちは当面この家から出てはならん!いいな!!」



「そんな……」










二人は撤回してもらおうと交渉したが、これについては取り消してくれることはなかった。

いつもは味方をしてくれる母親も、今回ばかりはどうしていいかわからず父親の決めた意見に従っていた。










「もう、結局お父様は私たちを嫁がせることしか考えてないんだから!!!」





エイミの怒りを宥めるかのように、精霊はクルクルとエイミの周りをまわる。


そして自分のベットに坐りうつむいたセイラが、エイミに問う。





「ねぇ……エイミ。私たちのやったことって……悪いことなの?精霊の存在……変なことなの?悪いことなの……ねぇ!?」




「セイラ……」





セイラは、精霊を隠すことに疑問を持ち始めていた。

この力は、この村の生活を助ける力になりえるとそう思っていた。
だからこそ、早く父親にこのことを告げるべきだとエイミに話していた。


しかし、エイミの答えは慎重だった。

未知なものに対する反応、異能の力を持った人間への反応。
先程父親が抱いていた不安を、エイミもそのまま持っていた。



確かに全ての村民が不快感を抱くわけではないだろうが、村長の娘という立場とそこから生じた亀裂が大きな問題へと発展する可能性は十分に考えられた。


そのことは村をまとめる父親の付け込まれる弱みとなってしまうう可能性があった。
このところ、村の間ではある悪いうわさが広がっていと聞いた。

その者たちは、父親のもつ”村長”という座を狙い引きずり降ろそうと企んでいるとのことだった。



父親や以前の村長としての家系がこれまで気づき上げてきた信頼は、噂程度の話題であればその批判的疑いを信じるものはいなかった。


だが、その者たちを取り締まることをしなかったことが徐々に状況を不利な方向へ流れていった。


村民自体は信じることはなかったが、村を短期間訪れるだけの者たちはその不確かな噂話を信じてしまっていた。




噂話も否定されなければ、時間と共に事実に近い形で信頼されるようになってきた。
外の者から話しを聞けば、信憑性が増すのだろうか。
一部の村民が、今の村長が私服を肥やしているなどの戯言を信用する者が出てきた。



そんな中、娘が”普通の人間ではなかった”などと悪いイメージが広がってしまうと、そこも付け込まれてしまうネタになってしまう。


エイミもセイラも、それだけは避けたいと思っていた。







二人は、二週間ほど家で大人しくしていた。
部屋の中や家の裏側にある庭で。誰にも見られない様にウリエルに教わった精霊の力を使う訓練をしながら。







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