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第三章 【王国史】
3-208 東の王国12
しおりを挟む「その通りだ……中にまだ、子供が一人取り残されている……」
その事実を知ったとき、エイミもセイラも下肢の力が抜けその場にへたり込みそうになる。
『……中の様子見てこようか?』
その声は火の精霊のミカだった。
そしてセイラたちは思い出す、自分たちには精霊が付いていることを。
(ただ、このままいかせていいものか……)
精霊の力とその存在をこの場で見せるのは非常に危険であると、セイラの勘が告げる。
しかし子供の命がかかわってる以上、一刻も早く行動しなければならない。
――ガラガラガラ!!!
その時、家の端に隣接されていた納屋が大きな音を立てて崩れ落ちた。
皆の視線が、一斉にそちらに送られる。
(いまだ!!)
一応セイラの影に隠れるように、ミカは燃え盛る炎の中に入っていく。
そして、しばらくするとセイラの鼓動の音とパチパチと木が燃える音を割り込んで精霊の声が響く。
『いた!!!』
『どこ……どこにいるの!?』
頭の中での会話だが、その報告に思わず口に出しそうになる。
『今セイラたちがいる場所の反対側!丁度壁があるけど、床に倒れ気絶して外に出られないみたいだよ!』
その報告を受け、エイミとセイラは家の裏側に向かって走り出した。
外から見ても火の勢いは強いが、内側はまだ何とか大丈夫な空間があるようだ。
だが、外壁が崩れればこの構造であれば家は簡単に倒壊するだろう。
ともかく、一刻を争うという状況には変わりはなかった。
「どうするの、セイラ?水を掛ける?でも、それだと周りの勢いが強いからすぐに元に戻ってしまいそうだし……火さえ消えれば」
「……それよ!エイミ!!」
エイミは中にいる精霊に、炎を消してもらえるか聞いた。
すると問題ないと答えるように、ある一定の空間だけ炎が消え、そこに真っ黒に焼け焦げた壁が姿を見せる。
その壁は今にも崩れ落ちそうな様相を呈しており、どんな状態であれ早く救出しないと家全体が崩れ落ちてしまう可能性が高い。
「ねぇ、セイラ。あなた、中にいる精霊と繋がっているんでしょ?その子が今どのあたりにいるか分かる?」
「何をするつもり?」
エイミは、下向きのコの字型の壁を作って見せた。
「これを中に入れて、落ちてくる瓦礫や炎から守るの!」
セイラもこれしか方法がないと考え、子供が倒れている場所を指示する。
精霊の話では、この壁の向こうには左側に壁に沿ってベットがあり、その手前に子供が倒れているという。
壁の向こう側に、倒れている子供との間には障害物はない。
「それじゃあ……いくわよ!」
エイミの掛け声に、祈るように胸の前で手を組んだセイラは頷いて応える。
何か起きた場合は、セイラも水の力で助けられるようには準備をする。
――ドン!!
大きな音と共に、岩がもろくなった壁を打ち抜いて行く。
黒い煙と共に貫通した、しかし急に外気が入ってきた炎は外に出ていこうとその石の壁の通路を通って子供を飲み込もうとする。
「「あぁ!!!」」
その様子を見て、二人は愕然とする。
自分たちが手を加えてしまったために、子供が炎に飲み込まれてしまうことを。
だが、その勢いは途中で消えている。
火の精霊”ミカ”が炎から子供を守ってくれていた。
それに気づいて、エイミは家側の穴に壁を作って塞いだ。
「ふぅ、これで安……あぁっ!?」
……ガラッ!
屋根の部分が崩れ落ちて、大量の火の粉が舞う。
その合図を皮切りに、家がその形を失っていく。
セイラは慌てて、もう一つの穴も塞き救助した子供の中に崩れ落ちたものが流れ込まない様にした。
だが、このままではこの空間の中で熱されてしまう。
「キャー!!!」
この状況を見て炎の向こう側から、悲痛な叫びが聞こえてくる。
今のところ、炎に遮られ二人の姿は見られていない。
次の行動を迷っている間に、エイミが作り出した石の箱の部分だけ姿を現す。
火の精霊が、その力で火を消し去った。
セイラがその場所に水をかけ熱を冷まし、エイミに声を掛ける。
「エイミ、今のうちに中にいる子供を!」
その言葉に頷いたエイミは一面の壁を解き、穴の中に入っていく。
そしてぐったりとした煤けて黒く汚れた男の子を抱えて救い出す。
炎から離れ、その子を地面に置き確認する。
汚れてはいるが、奇跡的に火傷のような症状はなく自発呼吸もしていた。
そのことに安心した二人は、地面に力なく座り込む。
煤で汚れた顔を手で拭い、助けた小さな命の存在を噛み締める。
――ビュオオオオオッ!!!
その時間は、約一分間。
突風が村の中を通り抜けていく。
家が崩れて勢いが弱まっていた火が、この風によって勢いを取り戻す。
その勢いが、火の粉となり他の家や近くの木々に降り注いでいく。
――それが、また新たな火種となる。
近くにある二件の家の屋根から火の手が上がり、さらには木々の葉から炎が徐々に吹き荒れる風によって拡大していく。
「何をぼおっとしている、水だ!各家から水をもって消火に当たれ!!」
炎の向こうから聞こえたのは、村長である父親の声。
燃え移った火が、更に村の中の家や木々を炎で浸食し始めていく。
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