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第三章 【王国史】
3-205 東の王国9
しおりを挟む『――じゃあね』
その言葉と共にエイミとセイラは真っ黒な闇の中に放り込まれた。
「……!!」
「……!?」
エイミとセイラは声を出そうにも、制限されていて声が出ない。
身体は動かすことができるが、近くにいたはずの姉妹は手を伸ばしてもその身体に触れることはなかった。
二人は出ない声を張り上げ、ウリエルと自分のもう一人の存在の名を呼ぶ。
しかし、そこには何の反応もなかった。
(落ち着いて……落ち着いて考えるのよ……!?)
エイミは自分に必死に語り掛け、感覚を奪われた恐怖から平常を取り戻そうと努力する。
声は出ない、呼吸はできる、視界は閉ざされてる、自分の身体には触れることができる、脚は地面に接地している……
エイミは頭の中で、一つずつ情報を整理していく。
その結果から、すぐに命に関わる問題が起きることはなさそうであると判断する。
しかし、このような状況が長く続けば命に別状はないにしても精神が崩壊してしまいそうになる。
もし、エイミが生まれ持ってこれらの身体機能が不全で育っていたなら問題はなかっただろう。
それが”当たり前”のこと名になっていただろうから。
しかし、これまで様々な感覚器を使って外界の情報を認識していたため、これらが閉ざされてしまうと一気に情報が閉ざされてしまう。
それによって、エイミの呼吸は浅くなり音は聞こえないが心拍数が早くなっているのがわかる。
エイミは心臓がある胸に意識を集中する……
そこには、心臓の近くに温かいものを感じる。
(これ……って?)
そこには二つのわずかな温かみがあり、それに気付くと次第に身体の中に熱が広がっていく。
すると色など無い闇の中に、少しずつ白い色が付き始める。
「……わぁっ!!!」
エイミは目は開いていないが、脳内に描かれた真っ白な眩しい光に包まれ、その光から逃れようと顔の前を手で隠した。
しばらくして、落ち着いたころを見計らいエイミは顔から手を外した。
すると、白色の世界ではあったが見覚えのある空間に戻っていたことに気が付いた。
居なくなっていたセイラの姿も見え、丁度同じようなタイミングで辺りを見回していた。
『はい、お疲れ様――』
そう遊園地のアトラクションが終わった後のように軽々しく言葉を掛けたのは、この事態を作ったウリエルだった。
『にしても、あなた達本当に仲がいいわね。あの世界を抜けたタイミングも、全く一緒よ?』
エイミもセイラも、ウリエルから何を言われているのかさっぱりわからなかった。
「何が起きていたのでしょう?、真っ暗な世界に閉じ込められていましたが、胸のあたりから暖かいものが流れ込んでそして……」
セイラの話にエイミも、同じ状況であったことを伝えるためウンウンと頷いた。
『そうか……では聞かせてもらおう。あなた達が最後に感じたものは、”何”だったの?』
二人には判っていた、それは精霊の存在だった。
広がっていったときに感じた温もりは、元素が体の中を巡る感じに似ていたからだった。
そのことをセイラが告げると、ウリエルは満足そうに頷いて見せた。
『よろしい……よくあの状況で精霊の存在に気付きました。最後に伝えたかったことは、もうあなた達は精霊と共に生きているということ。どんな時であっても、もうあなた達は一緒なの』
ウリエルは二人の傍に近付いて、更に言葉を掛ける。
『この世界を良いものに……』
ウリエルが告げた最後の言葉は、指導や命令というよりもお願いに近い言葉だった。
その重みを感じ取った二人は、頷いてウリエルと約束する。
「はい、頑張ります!」
「私も!!」
二人のその誠実な返事に、ウリエルは満足した微笑みで応えた。
『それじゃそろそろお別れね……っと。エイミ、これを渡しておくわ』
ウリエルの手の中には、指輪が一つあった。
その内側には見たことの内容な記号が描かれており、淡い光で輝いていた。
「ウリエル様……それは?」
『これは、私があなたを土の精霊使いと認めた証のようなものね。本当はセイラにも渡したいけど、貴方は土の属性と契約していないから……』
セイラは少しがっかりした様子で、エイミが受け取った指輪に目をやる。
『あなたの持っている属性のあの二人にも言っておくから、もう少し待ってて』
不機嫌になったセイラに対し、ウリエルはそう言って慰めた。
『……それでは元のところに戻しますね。練習、続けてくださいね』
「「はい!!」」
その返事にウリエルは満足して、二人を元の場所に返すべく白い光で包み込んだ。
包んでいた光が薄れていくと同時に、耳には木々が風に揺れてサワサワといつもの音が聞こえてくる。
「……ここは」
「戻ってきたみたいね」
結構な時間をウリエルと過ごしていたが、二人はそんなに時間が経っていないことに気付く。
太陽はまだ上にあり、風も夕方の湿ったものではなくさらっとした風が肌を撫でていく。
二人は入り口に置いてあった籠を持ち、中を見るとライナムのつぼみが先ほど積んだばかりの鮮度を保っていることを確認する。
(あの方のお力なら……)
そう思って二人は納得し、村に帰るまで精霊と一緒にその道を共にした。
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