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第三章 【王国史】
3-200 東の王国4
しおりを挟む「ねぇ、あれはあなたがやったの?」
エイミは危険が去った安心感から、地べたにへたり込んだセイラに話しかける。
「わからないの……でも、身体の中に何かが通っていくのを感じて……気が付くとあんな風に」
エイミはその時の状況を見ていたが、あの”白い粒”が何かをしたのではないかと考えた。
セイラ自身の意思によるものでなければ、実際にその現象を起こしたのものは白い粒である可能性が高い。
「ねぇ……もしかしてそれって”精霊”っていうやつなんじゃない?」
セイラは、頭の中に浮かんだもっとも適切な言葉を使って表現をした。
だが、その言葉は数年に一度村を巡っていた詩人から聞いた、物語の中に出てきていただけの存在だった。
その物語は精霊には自然界を司る四つの力を持ち、それらがうまくこの自然界のバランスを保っているという話だった。
その物語を聞いた二人は、よくできている話だとは思っていた。
自然の恵みによって生きる我々にとって、その感謝を忘れないための物語である――と。
「「――!?」」
そんな話をしていると、エイミの周りを二つの白い粒が回り出した。
二人の話を聞き、その推測が間違っていないと証明しているかのように。
それに応じたのか、セイラの周りにも先ほど姿を見せた二つの白い粒が姿を見せ、クルクルとその周りを回っていく。
「な……!?」
「なんなの、これ!?」
姉妹はこの白い粒が、自分たちも攻撃しないかという不安を持っていた。
だが、いつまでたってもそれぞれの周りをクルクルと回るだけで、攻撃を加えようという雰囲気ではなかった。
落ち着きをとりもどしつつあるエイミの頭の中に、ある行動が思い浮かびすぐに実行した。
「……ねぇ、さっき助けてくれたのは……アナタなの?」
セイラの周りを横軸に回っていた二つの粒は動きを止め、交互に上下に移動している。
「え、まさか!?……本当に?」
セイラもその様子を見て、驚きを隠せない。
確かにエイミの話した言葉を理解し、その動きを変えて見せた。
次にセイラが、白い粒に向かって話しかけた。
「それじゃ、またさっきの”水”と”火”を出せる?……あ、さっきほど強くなくていいからね!?」
クルクルと小さくその場で回転し、二つの白い粒は横に並んだ。
(――あ)
セイラの身体の中を何かが通り抜ける感触が生まれる。
それと同時に、それぞれ一本ずつ水と炎がこの場に現れた。
あまりに、流れていく力にセイラは身体の力が抜けてその場に膝を付いた。
それと同時に、白い粒から出された二つの力は消滅した。
「……やっぱり……精霊……なんじゃない……・?」
セイラは走った後のような疲れに見舞われ、途切れ途切れに言葉を発した。
「そうみたいね……」
エイミもここまでくれば、そう思わざるを得ないと判断する。
そのまま視線をセイラから、自分の目の前をクルクルと回っていた精霊たちに向けた。
「ねぇ、……あなた達も同じことができる……の?」
そういうと、エイミから現れた二つの精霊は横に並んだ。
エイミの身体も、初めて体験する感覚に見舞われる。
身体の中から、何かが流れ抜け出していく感覚が襲う。
極度な虚脱感を必死に堪え、目の前の現象に注視した。
すると、一つの精霊から石の礫がポロポロとこぼれ落ちていく。
もう一つの精霊は、何も起こっていないように見えた。
セイラはあの詩人の話しを思い出し、水、火、土ともう一つのこの世界を作っている精霊を思い出した。
セイラはその辺りの葉を一枚千切り、その精霊の前にかざした。
「……あ!」
その様子を見てエイミも、その力を思い出した。
「――風だわ!」
葉はパタパタと揺れていた、手を離すと落下をせずに風が吹く方へ葉はヒラヒラと飛んでいった。
身体から力が抜けていく感覚が終わると、精霊からの力の放出も止まった。
二人の身体に異変は起きていないが、何かが変わっていると判断した。
「もしかして……あの森の」
「あそこで何かが変わったのかも」
二人は同じ結論に達したと同時に、これから何か変化が起きるのではないかという恐怖に見舞われた。
エイミは籠を持ち立ち上がり、セイラは取っ手のとれた籠の中に散乱したつぼみを集めて入れていった。
「と……とにかく村に帰らないと」
「そうね、お母様も心配しているわ。きっと」
そう言って二人は身体に付いた土をできる限りはたいて落とし、心配されない様に身なりを整えた。
精霊には、姿を消してもらうように伝えると二人の身体の中に消えていった。
だが、二人の身体に変化はない。
準備が整い、再び村に向かって早足で歩きだした。
自分の身に起きたこと、これから何かが起きそうな不安をぐっと喉の奥に飲み込んで。
とりあえずこのことは、二人だけの秘密にしようと約束した。
そして精霊にも”人の前では出てこない様に”と、心の中で伝えると先ほどのように上下に動いている感覚がする。
それは、二人のこと言ったことが伝わったのだと解釈した。
そこからは二人は無事に、日が暮れる前に村に辿り着いた。
母は二人の心配をよそに、汚れた服をみて二人を叱った。
だが、ライナムのつぼみを見ると一つ咳ばらいをし、早く着替えるようにだけ促した。
二人はこのつぼみが母の好物だと知っていた。
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