上 下
368 / 1,278
第三章  【王国史】

3-200 東の王国4

しおりを挟む






「ねぇ、あれはあなたがやったの?」



エイミは危険が去った安心感から、地べたにへたり込んだセイラに話しかける。




「わからないの……でも、身体の中に何かが通っていくのを感じて……気が付くとあんな風に」







エイミはその時の状況を見ていたが、あの”白い粒”が何かをしたのではないかと考えた。
セイラ自身の意思によるものでなければ、実際にその現象を起こしたのものは白い粒である可能性が高い。






「ねぇ……もしかしてそれって”精霊”っていうやつなんじゃない?」






セイラは、頭の中に浮かんだもっとも適切な言葉を使って表現をした。
だが、その言葉は数年に一度村を巡っていた詩人から聞いた、物語の中に出てきていただけの存在だった。






その物語は精霊には自然界を司る四つの力を持ち、それらがうまくこの自然界のバランスを保っているという話だった。



その物語を聞いた二人は、よくできている話だとは思っていた。
自然の恵みによって生きる我々にとって、その感謝を忘れないための物語である――と。









「「――!?」」







そんな話をしていると、エイミの周りを二つの白い粒が回り出した。
二人の話を聞き、その推測が間違っていないと証明しているかのように。




それに応じたのか、セイラの周りにも先ほど姿を見せた二つの白い粒が姿を見せ、クルクルとその周りを回っていく。







「な……!?」



「なんなの、これ!?」







姉妹はこの白い粒が、自分たちも攻撃しないかという不安を持っていた。

だが、いつまでたってもそれぞれの周りをクルクルと回るだけで、攻撃を加えようという雰囲気ではなかった。



落ち着きをとりもどしつつあるエイミの頭の中に、ある行動が思い浮かびすぐに実行した。






「……ねぇ、さっき助けてくれたのは……アナタなの?」





セイラの周りを横軸に回っていた二つの粒は動きを止め、交互に上下に移動している。






「え、まさか!?……本当に?」






セイラもその様子を見て、驚きを隠せない。
確かにエイミの話した言葉を理解し、その動きを変えて見せた。



次にセイラが、白い粒に向かって話しかけた。




「それじゃ、またさっきの”水”と”火”を出せる?……あ、さっきほど強くなくていいからね!?」




クルクルと小さくその場で回転し、二つの白い粒は横に並んだ。




(――あ)




セイラの身体の中を何かが通り抜ける感触が生まれる。

それと同時に、それぞれ一本ずつ水と炎がこの場に現れた。




あまりに、流れていく力にセイラは身体の力が抜けてその場に膝を付いた。

それと同時に、白い粒から出された二つの力は消滅した。









「……やっぱり……精霊……なんじゃない……・?」





セイラは走った後のような疲れに見舞われ、途切れ途切れに言葉を発した。








「そうみたいね……」





エイミもここまでくれば、そう思わざるを得ないと判断する。

そのまま視線をセイラから、自分の目の前をクルクルと回っていた精霊たちに向けた。




「ねぇ、……あなた達も同じことができる……の?」





そういうと、エイミから現れた二つの精霊は横に並んだ。



エイミの身体も、初めて体験する感覚に見舞われる。
身体の中から、何かが流れ抜け出していく感覚が襲う。
極度な虚脱感を必死に堪え、目の前の現象に注視した。



すると、一つの精霊から石の礫がポロポロとこぼれ落ちていく。
もう一つの精霊は、何も起こっていないように見えた。




セイラはあの詩人の話しを思い出し、水、火、土ともう一つのこの世界を作っている精霊を思い出した。







セイラはその辺りの葉を一枚千切り、その精霊の前にかざした。



「……あ!」



その様子を見てエイミも、その力を思い出した。





「――風だわ!」





葉はパタパタと揺れていた、手を離すと落下をせずに風が吹く方へ葉はヒラヒラと飛んでいった。



身体から力が抜けていく感覚が終わると、精霊からの力の放出も止まった。






二人の身体に異変は起きていないが、何かが変わっていると判断した。





「もしかして……あの森の」


「あそこで何かが変わったのかも」









二人は同じ結論に達したと同時に、これから何か変化が起きるのではないかという恐怖に見舞われた。


エイミは籠を持ち立ち上がり、セイラは取っ手のとれた籠の中に散乱したつぼみを集めて入れていった。





「と……とにかく村に帰らないと」



「そうね、お母様も心配しているわ。きっと」





そう言って二人は身体に付いた土をできる限りはたいて落とし、心配されない様に身なりを整えた。



精霊には、姿を消してもらうように伝えると二人の身体の中に消えていった。
だが、二人の身体に変化はない。




準備が整い、再び村に向かって早足で歩きだした。


自分の身に起きたこと、これから何かが起きそうな不安をぐっと喉の奥に飲み込んで。






とりあえずこのことは、二人だけの秘密にしようと約束した。


そして精霊にも”人の前では出てこない様に”と、心の中で伝えると先ほどのように上下に動いている感覚がする。
それは、二人のこと言ったことが伝わったのだと解釈した。



そこからは二人は無事に、日が暮れる前に村に辿り着いた。


母は二人の心配をよそに、汚れた服をみて二人を叱った。
だが、ライナムのつぼみを見ると一つ咳ばらいをし、早く着替えるようにだけ促した。



二人はこのつぼみが母の好物だと知っていた。








しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...