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第三章 【王国史】
3-195 ペット
しおりを挟む「くそっ!あの大トカゲ……どこにいきやがった!?」
長い髪の女性は、空を見上げモイスが飛び立った方向を眺める。
そしてイライラしながら、左手の親指の爪を噛みブツブツと途切れることのない文句を誰に聞かせるわけでもなく言い続けている。
思い出したように、一緒に来ているもう一人を呼んだ。
「ヴァスティーユ!ヴァスティーユ!どこだ、どこにいる!?」
「はい……ここに」
ヴァスティーユは命令をされてモイスの洞窟の中を調べていたが、呼ばれたことに気付き洞窟の外へ歩いていく。
「グズグズすんじゃねーよ!あいつは……あのトカゲはどこにいった!?」
ヴァスティーユは自分が洞窟の中を探ってこいと命令されたことを”また”忘れてしまったのかと思った。
が、そんなそぶりは見せずに、聞かれたことだけを応えることにした。
口答えをしても何も変わらないだけではなく、自分が傷付いてしまうことがわかっていた。
「ダメージを受けた竜は、洞窟を飛び出し空高く上がってそのまま姿を消してしまいました」
爪を噛んでいた手を横に薙ぎ払い、ヴァスティーユの方へ向く。
その指は、バスティーユの前髪をかすり目の前を通り過ぎていった。
それに対し、ヴァスティーユは瞬きをすることなく命令した者の顔だけを見つめていた。
「わかってんだよ、そんなことはぁっ!!!ソレガどこに消えたか聞いてるんだろ!きいているんだろーが!!」
「すみません……」
「謝ってる暇があったら、さっさと探しに行け!この役立たず!!」
「はい……”お母様”」
ヴァスティーユはお辞儀をして、そのままモイスが飛んでいった方向へ走っていった。
どこへ行ったか分からないが、わかることは今このままこの場所に居続けることは、ヴァスティーユの絶対的支配者の機嫌を更に損ねてしまうことになるということだけ。
「なんで、なんで、なんで、アタシがこんなことしなきゃならないのよ……やっぱりアイツのせいなのよ!!くそっ!!……!?」
ヴァスティーユが去った後、一人でもボロボロになった親指の爪をかじりながらブツブツと誰に聞かせるわけでもない恨みの言葉を呟いている。
そんな時目の前の空間が歪み、真っ暗な世界の中に引き込まれてしまった。
「……」
それでもその女性は驚きもせず、ひたすら爪を噛み続けている。
『……どうやらお前の仕業のようだな』
「……」
だが、話しかけた女性からの返答はなく、ずっと一つの動作だけを繰り返していた。
『どうやら、それが答えか。一体何の目的でワシのことを狙うのだ?』
「…ットよ」
『――?』
モイスは、爪を噛みながら喋る女性の言葉が聞き取れずにもう一度聞き返した。
「ペットよ!!ペットが欲しいの!!強くてアタシに懐くペットがね!?そうすれば、私がいちいち動かなくても気に入らないものは壊してくれるでしょ!」
『ということは、ワシをお主の”ペット”というものにしたいのだな?』
「そういうこと……だから大人しく闇に飲まれて欲しいのよ!」
女性は掌を合わせて、中で黒がうねる球状の塊を作りだす。
この色のないこの時空では、それが何かは見えないはずだったがこの女性はお互いの存在を理解していた。
「――ふんっ!」
女性は十分に圧縮された黒い塊を、モイスに向かって放つ。
だが、この時空はモイスが生み出したもの。
その中の存在は、すべてモイスの手の中にあった。
モイスは正確にこの身を狙ってきていることを不思議に感じながらも、危険と感じた黒いものを握りつぶした。
黒いものはモイスの手の中からはみ出して対象を飲み込もうとするが、モイスの力で押さえ込まれる。
モイスはその存在をこの時空から消し去り、モイスはその力を解析する。
『……これは、闇の力だな。どうやってお主がその力を手に入れたかは知らぬが、その力を持つ者をここから出すわけにはいかんな』
「アタシもね、お前をペットにするまで諦めるつもりはないんだよ!!」
女性は、モイスに向かって飛び掛かる。
その手には、どこからか取り出した闇の剣を手にして、
モイスは斬りつけられた剣を片手で受け止め、同時に剣を掴み動けなくした。
剣を引き寄せ、その持ち主と共に口元に運ぶと大きく息を吸い込んだ。
――ゴォオオオォオオオォ!!!!
モイスは氷のブレスを吐き出した。
女性は剣を握る反対側の手で、外から中心に向かって渦を巻く球を作りだしブレスに対抗し突き出す。
ブレスはその中に吸い込まれていく……が、半身はまともに喰らい氷づけにされてしまった。
しかし、それだけでは終わらない。
黒い渦は、さらにモイスの身体を飲み込もうと突き進んでくる。
モイスは凍った剣を地面に叩きつけようとしたが、黒い剣は粒子の粒となり消えていく。
それによって、女性の身はモイスから解放された。
ブレスでも凍ることのなかった力を危険と感じ、首を捻りその攻撃の軌道上から逸らした。
だが、羽が黒い渦に触れてしまい、身体は引きずり込まれていいく。
『――グォッ!?』
「悪いけど、それ一度捕まえたらはなさないから!これであんたはアタシのペットになるのよ!!!」
そういって女性は闇の力で半身の氷を溶かしながら、勝利が確定するまでの時間をゆっくりと眺めることに決めた。
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