問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

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第三章  【王国史】

3-192 指導

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一行はひたすら山肌をジグザグ進み、山の頂上付近を目指して登る。





先頭には案内役のナンブル、次にブンデルとサナが続いていく。
背の低いサナの歩幅に合わせるために、ナンブルの次にいた方がいいということになった。

その後ろにはアルベルト、エレーナ、ステイビル、ハルナ、ソフィーネと続いて行く。








山道では、ドワーフのような姿の方が実は動きやすいということにハルナは気付いた。



サナの身長はブンデルが頭の上が見える程度の身長で、その位置がハルナたちの胸元の高さにある。

歩幅は少ないが、この坂道を登っていくにはちょうど良い体格だった。
気を抜けば、ハルナとエレーナは置いて行かれそうになる。




この中で一番体力がないことが、浮き彫りになった。






今までの戦闘でも、そこまで体力が必要かと言えばそうでなかった。
精霊の元素を扱い、その物質を変化させ形状化させたり移動させたりするだけで肉体的な体力は特に必要はされていなかった。


あのディヴァイド山脈よりも、グラキース山の方が道も悪く歩きづらい。
行き来が少ないことが、その理由だろう。


ディバイド山脈は危険ではあったが人の往来はそれなりにあり、足場や道が人が通れるようには出来上がっていた。
グラキース山の場合は、道と呼べるものはなく草木の中で一番薄い場所を探して歩いているといった感じだった。


百年以上の間、ほぼ手付かずの状態になっている。
そのため足元も、草木に覆われて確かめることがほとんどできない。
先頭を行くナンブルが歩いた跡を、そのまま追っていく形になっていた。







「ふぅ……ふぅ……」







始めの頃は言葉を交わしながら歩いてきたエレーナも、中腹を超えた辺りでは既に言葉は無い。
アルベルトも歩きやすいようにと、ゴツゴツとしていない足場と草木が抵抗にならないような足場を見つけている。


しかし、この状況ではそんな気遣いもほとんど意味をなさないくらいの疲労が蓄積されていた。





「……ここで一度、休憩にしましょう」



後ろを振り返ったナンブルが、気を利かせて休息をとるようにした。



エレーナとハルナはここで一旦立ち止まってしまうと、次の時に登る気力が生まれてくるかどうか不安になったが、自分の身体に従って休むことにした。











「……ログホルム!」



ここで魔法を唱えたのは、ナンブルだった。

それによって、地面には蔦が規則的にこまめに重なり合い、薄くて頑丈なシートが出来上がる。




「「わぁっ!」」




その出来上がったものを見て魔法を使うブンデルとサナだけでなく、使えないエレーナとハルナも声をあげる。

ナンブルは、ブンデルにも同じことをするように指示した。

気持ちを整え出来上がりのイメージを作り、術式の中に魔力を送り込む。





「……ログホルム!」




「「わぁっ!?」」





出来上がったものは、ナンブルが出したよりも大きく目も荒い雑なシートが出来上がった。



それを見てナンブルはブンデルに、魔法の制御の指導をする。


その様子は親が子に生きる術を教えているかのように、厳しくも優しい指導を行っていた。




ブンデルもまんざらではなく、教え方が上手なのか飲み込みが早いのか。
ものすごい速さで上達ぶりを見せていた。


ナンブルのことを父親と認識はしているが、実際すぐにそのように接することなどできはしない。

まずは、”協力者”として接するように決めていた。



しかし、その期間はあっという間に過ぎ去る。
武術、魔法の扱いに長けているナンブルは、協力者から指導員のような関係に変わっていく。

そこに芽生えたのは、エルフとしての生き方を含めた憧れの感覚。
ずっと一人で生きてきたブンデルにとっては、初めて生まれる感覚だった。



それにサナに対しても優しく、ブンデルに付き添ってくれることにも感謝をしていた。







ハルナの呼吸は随分と落ち着き、ソフィーナから受けた足のマッサージで疲労が抜けていく。
休んでいるハルナとエレーナは、横でナンブルに指示された訓練法をずっと続けている。




「ブンデルさん、休まなくて大丈夫ですか?」




訓練の邪魔をしない様にと、ブンデルから離れてハルナたちの近くに来たサナに聞いてみた。




「えぇ、大丈夫そうです。エルフやドワーフにとっては、山道はそんなに苦ではありませんから……それに今は、凄く楽しそうにあの訓練をやっているんですよ。私が声をかけても、集中して聞こえていないんですから」



ハルナは嬉しそうに話すサナを見て、この二人が三者間の重要な役割を持つことを確信をした。





「それではみなさん、そろそろ出発しましょうか?……ブンデルもその辺にしておきなさい」




額にうっすら汗を見せるブンデル、サナの言葉には反応が鈍かったが、ナンブルの声にはすぐに反応を見せた。




そして再び、ハルナたちは近くに見え始めた山頂を目指して歩き始めた。






本来であればこの距離は、エルフにとってはこの時間では既に到着している時間だった。





慣れていないハルナたちを気遣ったため通常よりも倍の時間がかかっていたことを後で知る。




(この一件が終わったら、少し体も鍛えないと……)



ハルナは、そう心に決めた。






そして、いよいよハルナたちは山頂付近に到着した。





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