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第三章 【王国史】
3-176 水の大精霊
しおりを挟む「ということは……ナイールさんは今、大精霊様のお近くにいらっしゃるってこと!?」
「うむ……そういうことだな」
驚くナルメルの質問に、普通に答えるナンブル。
「それで……お前は大精霊様をお見掛けしたのか?」
ゾンデルが震える声で問いかける。
「いえ……それはナイールから聞いた話なので、実際にはお目にかかっておりません」
その問いにもナンブルは、何を隠すこともなく普通に答えた。
「エレーナも助けてもらったことはあったんだっけ?」
「うーん……でも、その時の記憶はないし実際にお会いしたこともないわよ」
実際にその場面を見ていたのは、マイヤだけだったのでその話も後から聞かされたものだった。
だがエレーナが今こうしていることが、何よりの証明となっている。
エルフたちは、その話が気になりハルナたちに聞かせてもらうようにお願いした。
エレーナはステイビルの顔を見ると”問題ない”と頷き承諾を得て、あの時の状況を離すことになった。
話し始める前に、ゾンデルが一旦エレーナに待ってもらい退室する。
しばらくして、ゾンデルがこの場に戻ってくる。
その隣には、衰弱しているサイロンもいた。
「なんだ……何故ここに私を連れてきた?もう、お前たちで勝手に……お、お前は、何故ここにいる!?」
サイロンは、ナンブルの顔を見て怒りと驚きが入り混じる感情に支配される。
娘を奪い、自分の跡継ぎの将来をも狂わせた。
……いや、勝手にそう思っていただけだと今ではわかっている。
しかし、あの時から全てが狂っていったことは間違いない。
それを、自分のせいにはしたくはなかった。
ナンブルやゾンデルのせいにすれば、自分の心が壊れてしまうことを防げた。
あの時点で居なくなったナンブルのせいにしてしまえば、全てが片付くと自分を思い込ませていた。
本人が戻って来てしまった以上、自分の犯した罪や判断の過ちを”その”せいにはできなくなってしまった。
ゾンデルに勝手に村のことを決めて欲しいと告げたことも、実際には”自分の罪を責められたくはない”と、その立場から自分を遠ざけたかったことが理由だった。
もちろんゾンデルは、いままでのサイロンの性格からして、そういう理由であることは判っていた。
今もきっと、自分が責められたり責任を追及されるのではないかという恐怖心で支配されてていることも。
ゾンデルは、まずは落ち着いてもらうためにこの場がそういう場ではないことを否定した。
「……サイロン、落ち着いて聞いてくれ。これはお前のことを責めるという場ではない。これからのことを決めていくために、お前も聞いておいた方がいいと思って連れて来たのだ」
「それは……どういう……ことだ?」
ゾンデルは、そのサイロンの言葉に少しでも説明を聞いてもらえる余裕が生まれたと判断し、なるべく再び恐怖に染まらない様にその意図を伝える。
「我々生き物は、様々な自然の加護を受けて生きている……それは判るな?」
サイロンは、ゾンデルの説明に一度だけ頷いて見せた。
その様子を見て、話しを聞く状態が続いていると判断し言葉を続けていく。
「その加護を頂いている存在はいろいろとある……わが村で信仰している”大竜神”様もそうだが、四種類の元素の精霊もまた同じだ。今回のここにいらっしゃる精霊使い殿も、大精霊様の恩恵を受けたことのある方たちなのだよ」
その言葉にサイロンは、二人の精霊使いに視線を移動させた。
ゾンデルはそのタイミングで、エレーナに先ほどの話の続きをしてもらうようにお願いをした。
その言葉にエレーナも頷いて、過去に体験した奇跡の経験を語っていく。
今回の旅は、主に人間が作る国の一つ”東の王国”の行事の王選の旅であることを説明する。
目的は四つの大精霊と大竜神の加護を受けるべく、その存在を探していく旅となる。
その前に、ここから離れた水の町”モイスティア”という町で起きた出来事のことを話した。
闇の存在”ヴェスティーユ”と、その相棒”ディゼール”によってハルナたちは襲われた。
相手の攻撃によって、エレーナは絶命寸前の怪我を負ってしまう。
まずそこに現れたのは、風の精霊と契約しているハルナの身体を通じて姿を見せた風の大精霊”ラファエル”。
闇の力で穢れた現場を、聖なる光で浄化していく。
その後、ラファエルの呼びかけによって姿を現したのは、水の大精霊の”ガブリエル”だった。
本体というより、水の元素を使って分身体を作りその場に姿を見せた。
その力は、瀕死のエレーナの身体を回復させるというものだった。
そして、今でもエレーナはこうして問題なく生きている。
「……話はわかった。で、それがどうしたというのだ?」
”今は人間の話などどうでもいい”といった感情が、サイロンのその言葉には感じられた。
そこでゾンデルは、次にナンブルに合図を送った。
ナンブルはその合図に応え、この場の主導権を引き継いだ。
「……今の話で村長にも、水の大精霊様のお力がお分かりいただけたと思います」
村長と呼ばれたサイロンの表情は、少し濁った顔つきに変わった。
しかし、ナンブル自信はナルメルにいない間の話は聞いていたが、それよりもまともに過ごしていた時期のサイロンのイメージも残っていたため、尊敬の念を込めた呼び方だった。
それに続けて、ナンブルは報告する。
「村長の娘であり私の妻であるナイールはいま、この水の大精霊様のもとで暮らしております」
その言葉に、サイロンの曇った表情に一筋の光が差し込まれた。
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