問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

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第三章  【王国史】

3-151 ナンブルとナイール5

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ナンブルは魔法を使って草の周りを蔦で巻き、巻き藁のような標的を作り出した。
離れたナイールに向かって手を挙げて、こちらの準備が整ったことを合図する。




ナイールはその合図に手を挙げて返し、用意された草の塊に向かって対峙する。





目を閉じて、新しく授かった魔法の術式を頭の中でもう一度確認する。
失敗して、魔力が暴走すると大惨事を招くことになる。
しかも今回の魔法はその存在は知られていたが、今の村の中では誰も習得したことがない魔法だった。
それ故に、村人はその魔法のことをこう呼ぶようになっていた。





”エルフを束ねるものが持つ魔法”……と。






ナイールゆっくりと肺に空気を入れてその息を意識に流れ込んでく言葉をそのまま口に表しながら、頭の中に描いた術式通りに魔力を流し込んで行く。
ナイールの身体から魔力があふれ、伸ばした手の前に光の文字と魔法陣が浮かび描かれる。





「我は誇り高き森の戦士、秩序を乱す者たちを光の矢で貫け……”マジックアロー”!」









――シュッ!!







その魔法陣の中から、一本の光輝く魔法の矢が放たれた。
誰かが弓で引いた矢をそのまま放った時のように、発出時には最高速度に達していた。








しかしナンブルはその軌道を予測し、思わず声をあげる。





「あ!マズい!!」







放たれた直後魔法の矢は、ナイールと草の塊を結んだ直線上よりもやや右に逸れていく。
あらかじめ込めた魔力は少なくして速度も少しは落としておいたはずだったが、わずかな魔力の量でも威力のありそうな矢は、その先を屋敷の方に向かって飛んでいった。



ナンブルはログホルムでもう一つの草の壁を作ろうとしたが、草木が壁を形成する速さと光の矢が建物に衝突するまでの時間がを比べるとは誰からみても間に合わないと判断されるものだった。





だが、そのナンブルの心配も徒労に終わることなる。




放たれた光の矢は、自らの意思で軌道を修正していった。

そして描いた光の軌道の先は、目標物の草の塊に迷うことなく向かっていく。






――ドンッッッッ!!!!







魔力でできた光の矢は、目標部を突き抜けた後その勢いで爆発した。






「こ……これは!?」



「ふえぇぇぇ……魔力の流入を発動する最小限まで抑えてこれだけの威力だなんて……ねぇ?」





他の者が聞けば、ナイールのその言葉はまるで他人事のような発言だった。
だが、ナンブルは理解していた。



その発言は、全ての状況を理解した上の発言であるということを。
それは決して自分の責任を放棄しているわけではなく、取るべき責任や行動の結果、その間に起きた確率や変動要素を全て把握したうえでの発言であると知っていた。









「ほんっ……とうに、お前は、いつも暖気だなぁ」




「ふふっ……いいじゃない。”このくらい”の方がいいんでしょ?」










その言葉にも、ナンブルは思い当たる節がある。




それはまだ二人が幼い頃、家の地位や年齢や性別などを意識しなかった年代の頃のこと。



”村長の子供”というレッテルを意識しない年齢で、サイロンは自由気ままに自分の娘を普通に触れあわせていた。




ナイールは同年代にしては、賢くて大人のような考え方を持っていた。
幼い頃負けず嫌いなナイールは、はしゃぎ過ぎて男の子と喧嘩をしたことがあった。




ある日、ナイールよりも年上の男と言い争いになった。
ナイールはずっと言葉で対応していたが、年下で生意気に見えたナイールを力で従わせようとした。


そんな方法が一番嫌いなナイールは、当然抵抗する。
だが体格や筋力などの差で、負けてしまった。





ナイールは悔しくて、泣いた。
大声で泣くのではなく、一人でその悔しさを噛み締めながら泣いていた。


その様子を見つけたナンブルは、そっとナイールに近付いて慰め言葉を掛ける。







「泣くなよ、ナイール。喧嘩に負けたのは仕方ないよ、体格も違うし腕力も違うんだ。だから……」



「あ、ナンブル……違うのよ……違うの」







目を真っ赤にして、ナイールはその言葉を否定するがナンブルにはその意味が分からなかった。






「何が……違うの?」

「私の……自分の性格が……女の子なのに……こんなに勝ち気で……優しくできなくって……」







どうやら、ナイールは自分の性格を悔やんでいたようだった。
もう少し賢く、上手く立ち回れるはずだと……




普通の子供が考えないようなことで悩んでいる、ナイールの頭をナンブルは自分の胸の中に抱き寄せた。







「ナイールは悪くない。そういう考えができるなんて、誰でも出来ることじゃない……それに、ナイールはそれくらいじゃないとナイールじゃないよ。そのくらいが丁度いいんだ」




ナンブルは、ゆっくり自分の妹を諭すようにナイールを慰めた。
















「……あぁ。そうだったな、そういうこともあったな」



ナンブルは昔のことを思い出して照れながら、頭を恥ずかしそうに掻いた。





「……ねぇ、ナンブル」




「ん?」



「ずっと私の味方でいてくれる?」



「あぁ、もちろんだとも。困ったことがあったら何でも……」





ナンブルはすべてを言い終える前に、言葉が途切れた。
ナイールの真剣で優しい目が、ナンブルの顔を見つめていた。






ナイールはゆっくりと、ナンブルの傍に近付いて行く。
そして、ただぶら下がっていたナンブルの左手を優しく両手で包み、ナイールの胸の高さまで持ち上げた。







「お願い……ずっと私の傍にいて欲しいの」










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