315 / 1,278
第三章 【王国史】
3-147 ナンブルとナイール1
しおりを挟む村のために働けると、ゾンデルは今までの知識と経験を存分に発揮した。
その甲斐もあり、村は不当や誰かを貶めるための要求がほぼなくなっていた。
――更に時が流れる
やがて、ゾンデルも家庭を持ち、子宝に恵まれた。
一人は、長男でナンブル、一人は長女でナルメルを授かった。
サイロンも同じ時期に家庭を持ち、女子に恵まれた。
名前はナイールと付けた。
これは二代目の計らいなのかは分からなかったが、同じ時期に子供を授かった。
特にナンブルは頭脳明晰で、魔法や武技にも秀でており同世代のエルフには一目置かれる存在だった。
一方ナイールは知識や武技は得意ではなく、むしろ苦手な方であった。
魔法は五つ習得しており、本人のやる気とは反対に魔法の才能は高かった。
しかし、容姿はこの村一番と評判であった。
ナンブルとナイールは、村に創られた特別な教育施設に入ることになった。
二代目の村長が、村の発展のためと設立した。
ちなみに、その発案者はゾンデルだった。
優秀なナンブル、容姿のよいナイール。
周囲からの期待の声を聞き、初めは興味がなかったナンブルも徐々に気持ちが傾いて行った。
二人の親も、当然そうなる者だろうと思っていた。
サイロンは男の子に恵まれなかったため、、いつかはナンブルが村長の座に就くことを期待していた。
(そうすれば、あの問題も解決してお互いの家のつながりも強くなるだろう……)
だが、思い通りには事が進まなかった。
ナイールは村の外で、人間と出会った。
お互い、初めて見る種族に興味を持ち惹かれていった。
人間は多くの町に旅をして歩き、魔物の討伐や荷物の運搬などを行っているといった。
人間はずっと村の中で他種族との交流もなく、自分たちの限られた範囲でしか物事を知らなかった。
とはいえ、エルフの研究はかなり高度であり、ドワーフたちが行っていた魔法や自然界の仕組みに関してはこの山に住まうどの種族よりも高度な研究であった。
食物、グラキース山にいない生物、近くで建国をしようとしている動き、様々な地域の気候、精霊を操る者、他の種族……
どの話も外の世界を知らないナイールにとって、人間の話はとても興味深い内容だった。
それに、エルフの男性には感じたことのない優しさを人間から感じた。
偶然出会ってから二週間ほど、ナイールは毎日人間と接触して話しを聞かせてもらっていた。
エルフにとっては、あっという間の時間が過ぎた。
人間はそろそろ次の町に向かって出発しなければならないという。
人間は、思い切ってナイールに告げた。
『……一緒についてこないか?』
ナイールの美しい容姿は、人間にも充分に通用していた。
ナイールは内心行きたい気持ちであふれているが、仲間に相談してからと答えた。
人間は、明日の朝この場所で待っているから、それまでに来て欲しいと伝えてその日は判れた。
ナイールは村に戻り、祖父である二代目に相談した。
その話しを聞いた二代目は、今までに見せたことのないくらいに怒り、ナイールをそのまま部屋の中に閉じ込めた。
結局、翌朝人間はナイールが姿を見せなかったため、そのまま出発してしまった。
そこから数か月して、頻繁にグラキース山に人間が出入りするようになった。
どこからか、この山にエルフがいることを聞きつけ捕獲しようとしていたのだった。
そのことを聞いた村長は、ゾンデル、サイエルとナンブルに人間の討伐を命じた。
最初は、遠距離から威嚇をおこなっていた。
森の中で距離の離れたところからの攻撃は、人間には成す術がなかった。
だが、人間も装備を強化し徐々にその戦闘の距離が縮まってくる。
とうとう、接近戦になりナンブルは一人の人間と交戦した。
剣を交わす中で、ナンブルは相手に問いかけた。
「何故貴様らは、我々を襲うのだ!?」
「あるお方からの依頼で、この山に住むエルフを捕獲して欲しいと依頼があったのだ。そこに美しいエルフがいるとのことで、連れてくるように依頼された!」
ナンブルはその話し気を聞き、脳裏にナイールのことを思い浮かべる。
更に剣を交わしつつナンブルは質問した。
「それで、その”美しいエルフ”をどうしようというのだ!?」
「さあな、そこまでは知らないが、あのお方は奴隷を集めるのが趣味のようでな。その中の一つに加えたいのではないか?……他のエルフは始末しても持ち帰っても構わないと言っていたがな!?……それ!」
ナンブルの長い髪に、相手の剣が触れ髪が舞った。
剣技に秀でたナンブルの身体の一部に剣を触れさせるということは、この人間も相当な技術を持った兵士なのだろう。
――だが、人間はそれまでだ
ナンブルは人間からも情報が聞けたため、これ以上の交戦は必要ないと判断した。
少し距離を置き、ナンブルは呪文を唱え始めた。
「……ログホルム!」
人間の兵士に蔦が巻きつけられ、身動きが取れなくなった。
「くっ……!?ほどけ、魔法とは卑怯だぞ!!」
人間は身体を捩らせて何とかこの束縛から逃れようとしつつ、エルフに向かって暴言を吐いた。
その言葉を聞き、この場にもう一人エルフが現れた。
「何をいうか、勝手に我らの領域に踏み込んで荒らす愚か者が。ここでその短い命を終わらせてやろうぞ……”ライトニング”!」
「……!!!」
人間は言葉にならない叫びで、杖の先から発せられた雷を抵抗する術もなくその身に受けた。
「サイロン様……」
ナンブルはその魔法の主の名前を呼んだ。
「こんなモノ達は生かしておいてはならん……さ、戻るぞ」
そう言ってナンブルに村に帰るように指示した。
その途中では、同じような黒焦げになった元人間の姿が二、三体ほど転がっていた。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる