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山口 犬

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第三章  【王国史】

3-147 ナンブルとナイール1

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村のために働けると、ゾンデルは今までの知識と経験を存分に発揮した。


その甲斐もあり、村は不当や誰かを貶めるための要求がほぼなくなっていた。





――更に時が流れる





やがて、ゾンデルも家庭を持ち、子宝に恵まれた。
一人は、長男でナンブル、一人は長女でナルメルを授かった。



サイロンも同じ時期に家庭を持ち、女子に恵まれた。
名前はナイールと付けた。



これは二代目の計らいなのかは分からなかったが、同じ時期に子供を授かった。






特にナンブルは頭脳明晰で、魔法や武技にも秀でており同世代のエルフには一目置かれる存在だった。


一方ナイールは知識や武技は得意ではなく、むしろ苦手な方であった。
魔法は五つ習得しており、本人のやる気とは反対に魔法の才能は高かった。


しかし、容姿はこの村一番と評判であった。






ナンブルとナイールは、村に創られた特別な教育施設に入ることになった。
二代目の村長が、村の発展のためと設立した。

ちなみに、その発案者はゾンデルだった。





優秀なナンブル、容姿のよいナイール。
周囲からの期待の声を聞き、初めは興味がなかったナンブルも徐々に気持ちが傾いて行った。




二人の親も、当然そうなる者だろうと思っていた。
サイロンは男の子に恵まれなかったため、、いつかはナンブルが村長の座に就くことを期待していた。




(そうすれば、あの問題も解決してお互いの家のつながりも強くなるだろう……)









だが、思い通りには事が進まなかった。







ナイールは村の外で、人間と出会った。

お互い、初めて見る種族に興味を持ち惹かれていった。




人間は多くの町に旅をして歩き、魔物の討伐や荷物の運搬などを行っているといった。

人間はずっと村の中で他種族との交流もなく、自分たちの限られた範囲でしか物事を知らなかった。
とはいえ、エルフの研究はかなり高度であり、ドワーフたちが行っていた魔法や自然界の仕組みに関してはこの山に住まうどの種族よりも高度な研究であった。






食物、グラキース山にいない生物、近くで建国をしようとしている動き、様々な地域の気候、精霊を操る者、他の種族……




どの話も外の世界を知らないナイールにとって、人間の話はとても興味深い内容だった。

それに、エルフの男性には感じたことのない優しさを人間から感じた。




偶然出会ってから二週間ほど、ナイールは毎日人間と接触して話しを聞かせてもらっていた。




エルフにとっては、あっという間の時間が過ぎた。
人間はそろそろ次の町に向かって出発しなければならないという。





人間は、思い切ってナイールに告げた。




『……一緒についてこないか?』





ナイールの美しい容姿は、人間にも充分に通用していた。





ナイールは内心行きたい気持ちであふれているが、仲間に相談してからと答えた。


人間は、明日の朝この場所で待っているから、それまでに来て欲しいと伝えてその日は判れた。






ナイールは村に戻り、祖父である二代目に相談した。


その話しを聞いた二代目は、今までに見せたことのないくらいに怒り、ナイールをそのまま部屋の中に閉じ込めた。





結局、翌朝人間はナイールが姿を見せなかったため、そのまま出発してしまった。







そこから数か月して、頻繁にグラキース山に人間が出入りするようになった。
どこからか、この山にエルフがいることを聞きつけ捕獲しようとしていたのだった。






そのことを聞いた村長は、ゾンデル、サイエルとナンブルに人間の討伐を命じた。



最初は、遠距離から威嚇をおこなっていた。
森の中で距離の離れたところからの攻撃は、人間には成す術がなかった。


だが、人間も装備を強化し徐々にその戦闘の距離が縮まってくる。







とうとう、接近戦になりナンブルは一人の人間と交戦した。


剣を交わす中で、ナンブルは相手に問いかけた。





「何故貴様らは、我々を襲うのだ!?」


「あるお方からの依頼で、この山に住むエルフを捕獲して欲しいと依頼があったのだ。そこに美しいエルフがいるとのことで、連れてくるように依頼された!」





ナンブルはその話し気を聞き、脳裏にナイールのことを思い浮かべる。

更に剣を交わしつつナンブルは質問した。




「それで、その”美しいエルフ”をどうしようというのだ!?」



「さあな、そこまでは知らないが、あのお方は奴隷を集めるのが趣味のようでな。その中の一つに加えたいのではないか?……他のエルフは始末しても持ち帰っても構わないと言っていたがな!?……それ!」




ナンブルの長い髪に、相手の剣が触れ髪が舞った。



剣技に秀でたナンブルの身体の一部に剣を触れさせるということは、この人間も相当な技術を持った兵士なのだろう。




――だが、人間はそれまでだ



ナンブルは人間からも情報が聞けたため、これ以上の交戦は必要ないと判断した。
少し距離を置き、ナンブルは呪文を唱え始めた。






「……ログホルム!」





人間の兵士に蔦が巻きつけられ、身動きが取れなくなった。




「くっ……!?ほどけ、魔法とは卑怯だぞ!!」




人間は身体を捩らせて何とかこの束縛から逃れようとしつつ、エルフに向かって暴言を吐いた。



その言葉を聞き、この場にもう一人エルフが現れた。






「何をいうか、勝手に我らの領域に踏み込んで荒らす愚か者が。ここでその短い命を終わらせてやろうぞ……”ライトニング”!」







「……!!!」




人間は言葉にならない叫びで、杖の先から発せられた雷を抵抗する術もなくその身に受けた。






「サイロン様……」





ナンブルはその魔法の主の名前を呼んだ。




「こんなモノ達は生かしておいてはならん……さ、戻るぞ」



そう言ってナンブルに村に帰るように指示した。


その途中では、同じような黒焦げになった元人間の姿が二、三体ほど転がっていた。










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