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第三章 【王国史】
3-142 真偽
しおりを挟む――この掟は、現村長の祖父から始まったという。
祖父といっても、エルフの寿命はとても永い。
その時の内容は人間で言う、東の国ができる前の話しだった。
グラキース山の周辺で暮らしていたエルフたちは村というものを形成しておらず、それぞれの集団で暮らしていた。
その中のとあるひとつの集団で生活をしていた村長の祖父は、今日も食料を求めてグラキース山に入っていった。
その時、石の下敷きになっていた傷付いたトカゲのような生物を見つけた。
いつもなら見過ごしていたが、その時はなぜかそのトカゲを助けることにした。
石の重みから解放されたトカゲは、ゆっくりと茂みに向かって進んでいった。
茂みの直前でエルフの方を振り返り、一目視線を合わせて再び振り向いて茂みの中に姿を消していった。
その日から数ヶ月が過ぎた時、エルフは再び山の中に食料を求め入っていく。
いつもの道を通っていると、先日トカゲを助けた場所に出た。
トカゲの上に乗っていた石はまだそこに転がっており、エルフはその大きめな石を手にとってあの時のことを思い出しながら眺めていた。
ひとしきり考えを巡らせ、こうしてはいられないことを思い出し石を地面に放り投げた。
すると、目の前に青白い光の精霊が現れ、何かを訴えるようにエルフの周りをクルクルと回り始めた。
「――?」
下位の精霊は言葉を話すことができないため、エルフはその精霊を手で捕まえようとした。
だが、精霊はその手をうまく逃れ、再びクルクルと回り始めた。
「……ついてこいと?」
その言葉を聞き精霊はエルフの周りで回るのやめ、山の奥方へ移動をしていった。
思わず口にした言葉が正しいと判断し、エルフは精霊の後を追って山の奥に入っていく。
精霊の後を追って進んだその先に、大竜神が住まう洞窟を発見する。
エルフは臆せず、洞窟の中突き進む。
そこには大きな大龍神がおり、横脇の辺りに傷を負っていた。
エルフは、驚きよりも傷の手当てを行った。
聞けばあの時のトカゲのような生き物が、この大竜神であったとのこと。
大竜神はエルフの行動に感謝し、この山に住まうの種族をまとめるように大竜神から命令された。
そして、今後も大竜神に忠誠を捧げれば、エルフの村を守護すると約束してくれた。
「……その約束の証として、大竜神様は傷ついて剥がれた自分の鱗を祖父にお渡しになり、祖父はその命令に従いエルフの村をまとめたと聞いております」
「ふーん……でも、なんでそんなにハルナが持っていた鱗をそんなに驚いたの?」
「そ、それは……」
エレーナの意見に、明らかな動揺を見せる村長。
そのことに追い打ちをかけるように、ナルメルが口を開く。
「それは……その話が、嘘でできているからでしょ?」
「……っ!?」
村長はそのナルメルの言葉に、今までのような反発を見せず言葉を飲み込んでいた。
ナルメルは反論を待っていたが、何も出てこないことを感じ自分の知っている話を続けた。
「実は、その時のこをと見ていた人がいるのよ」
「な、なんだと!?」
「私の父、”ゾンデル”よ」
「な、なに……ゾンデルが!?」
ナルメルは静かに、父ゾンデルから聞いていた話しを口にする。
「あの時父ゾンデルもグラキース山に入り、食料の調達を大人に混じって手伝っていたそうよ……」
そこでゾンデルは、事の一部始終を目撃していたという。
確かにあの時、大竜神はいた。
ただ、その時の状況はその村長の祖父との話とは内容が異なっていた。
ゾンデルは、食料を集めている際に大竜神が大空を羽ばたいているのを見かけた。
その姿はすぐに魔法か何かで消えてしまったが確かに大空に向かて飛んでいた。
ゾンデルは初めて見る物語の生き物に、恐怖よりも好奇心が勝っていた。
飛び出したと地点まで、必死に山を登り場所を探した。
ついに大きな洞窟を見つけて、その場所に行こうかどうか迷っていた。
その時、もう一人のエルフが同じ場所を見つけ、恐る恐る入っていく姿を見かけた。
祖父が、大竜神のねぐらを見つけ洞窟の中に入っていく様子を見ていた。
幼いゾンデルは、見つからない様にその後を追って入っていく。
「……あの者が言ってた通りだ。ここに住んでいたとはな。預かった魔矢が一本しかなかったため、外してしまわない様に気を付けていたが、あの大きさならばそんな心配は無用であったな」
更なる洞窟の奥に入っていき、大竜神が横たわっていた場所に歩いて行く。
祖父は、地面に散らばっている鱗を一枚手に取り小さな革袋の中に仕舞い腰のカバンに入れた。
そして、辺りを警戒しながら洞窟を後にする。
エルフが気付かずに出ていったことを確認し、ゾンデルは洞窟の奥に入っていく。
「”エルライツ”……うわっ!?」
ゾンデルは、魔法を唱え明かりをつけて洞窟の中を明かりで照らした。
そこは大きな空洞になっており、天井の方は明かりが届かないほどだった。
明かりが照らした足元には、粘り気のある緑の液体で濡れていた。
そこいらに散らばっていたのは粉々に砕けた鱗の破片があった。
ゾンデルは、その濡れた鱗数枚を布でふき取り自分の籠にしまい、この恐ろしい場所から急いで離れていった。
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