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第三章 【王国史】
3-141 本物の鱗
しおりを挟むエレーナは、ハルナの手から一枚の鱗を手に取った。
大きさは約二、三センチメートルほど、厚さは数ミリメートルで、形状は扇形をしており色は青が強い蒼色をしていた。
手にしたものを表裏に返したり、息を吹きかけたり、光に透かせてみたりした。
だがそれは少し珍しい色をしているだけで、特段に変わった様子も見られないと判断した。
「ふーん……ただの鱗なんじゃないの、これ?」
エレーナはそう結論付けて、ハルナに手にしていた物を返そうとした。
その時、村長の視界にもその鱗が目に入る。
「待て!?それは!?」
村長は、ハルナが受け取ったその鱗を見てうろたえる。
「なぜ……何故だ。なぜお前が……それを持っているのだ!?」
ハルナが手にしている物を、信じられないといった表情で見る村長。
しかし、全く状況が理解できないハルナは、率直に村長に聞いてみることを決断する。
「村長さん……これが何か、ご存じなんですか?」
「あぁ……もちろんだとも。それは我が一族が大切に保管されている”大竜神の鱗”だ」
「大竜神の鱗ですって!?これが……って、なんでハルナがそんな物を持ってるのよ?」
このタイミングで、今まで別の時空で体験した出来事をエレーナたちに説明した。
モイスののうりょくによって暴発しかけた魔力と、ハルナフウカを別の時空に移動させ、被害が抑えられたこと。
ハルナはずっと別な時間で過ごしていたが、エレーナたちにとってはほんの一瞬のはずだった。
そんなことを唐突に言われても、信じてもらえるのかわからない。
が、ハルナはとりあえず全てのできごとを、嘘偽りなく説明した。
「……ふ、ふーん。そんなことがあったのね」
「信じがたい話ではあるが、モイス様とは一度王都でもお会いしているからな……ハルナは」
「なんにせよ今まで持っていなかったその鱗が、ハルナさんの話が正しいことを証明しているんじゃないか?」
最後のブンデルの言葉に、サナも頷いて見せた。
ハルナに切断された杖を突きながら、村長がゆっくりと近づいてくる。
エレーナはその様子を警戒しながら、目で追っている。
あの様子では抵抗する意思は全く失せている様子だったが、演技の可能性もあるため念のために警戒をする。
「おい……いや、すみません。その鱗を、見せていただけませんでしょうか」
先程とは少し態度が変わり、ハルナに対して口調が変っていた。
そんなことは気にも留めずに、ハルナは掌の上に乗せた鱗を弱ったエルフの前に差し出した。
エルフは、ゆっくりとその鱗を指でつまみ上げて見つめる。
そして口の中で、わからない言葉を数語呟いた。
するとつまんでいた鱗が、淡く蒼色で光り出す。
ハルナたちもその様子を、ただ見守っていた。
次第にその輝きを失っていき、元の状態まで戻っていった。
「…………」
村長の腕は力なく落とし、その目も先ほどまでの光もなく虚ろに一点だけを見つめていた。
そんな状態の村長に、エレーナは近寄って声を掛けた。
「大丈夫……ですか?」
村長はその声で意識が戻り、目の中に光が戻る。
「あぁ……すまんかった」
村長は朦朧とした意識の中で、エレーナに詫びつつ手の中にあった鱗を手渡した。
そのままエレーナに背を向けて、村長のことを心配して横にいたマルスを身体で押し退けてヨロヨロとよろけながら歩き始めた。
「村長……どうされたのですか?」
マルスが村長の身を心配して、声を掛ける。
明らかに、村長の中で何かが起きているのを感じ取っていた。
だが、村長はマルスの問いかけに何も答えなかった。
「村長さん。この鱗……何があったんですか?」
鱗がハルナの手に戻り、依然と変化がないように思いさっきの現象について聞いてみた。
村長は、ハルナの声に反応し歩みを止める。
ゆっくりと振り返ると、表情に始めた会った時の眼力はどこにもなかった。
言い換えれば今までの中で、そうさせてしまう程の事象が起きていたということなのだろう。
ハルナはそれを確かめようと、少しずつ事実を確かめようとした。
「特に何もない……だが、それは本物の竜の鱗だ」
ハルナは本人から渡されたので、本物であることは疑っていなかった。
しかし、情報を引き出すための足止めは成功した。
「あっと……えっと……他にも見たことあるんですよね、この鱗。家宝みたいですし」
何とかこの場を繋げようと、必死で話しかける内容を絞り出した。
ふとこの世界に来る前に、冬美に教わった会話のテクニックを思い出した。
『相手(顧客)の話に出てきたキーワードを掘り下げる』
そのキーワードを掘り下げていくことで、相手が話しを続けてくれる。
特にそのキーワードは相手が得意な分野であることが多いため、進んで離してくれることが多いとのことだった。
実際働いていた時にハルナも、この方法で何度も沈黙を切り抜けた実績がある。
冬美の聞き上手なところも、大いに参考にしていた。
先ほど家宝という内容の話も聴いていたため、ハルナはそのことについて村長に話しを振ってみた。
この質問に村長は少し嫌な顔をしたが、小さなため息を吐いてゆっくりと話しだした。
「我々も同じものを持っているのです……それは家宝として扱うように先代にもいわれていましたので」
心なしか、村長のハルナに対する言葉の使い方が変わった気がしていた。
これも先ほどまでの、出来事の影響なのかもしれない。
「……それは、我が一族が大竜神様を祀る理由になったと聞いています」
村長はそこから、大竜神を祀ることになったと言われる一族に伝わる話しを聞かせてくれた。
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