上 下
306 / 1,278
第三章  【王国史】

3-138 魔力の暴走

しおりを挟む






「大竜神ってもしかして……”モイス”さんのことですか!?」






やはり老いたエルフの耳に、ハルナの声は届いていた様だった。
その証拠に、進んでいた歩みはそれ以降止まっていた。


ハルナは、一旦村長に話しかけるのを止めた。
とっさに話しかけ、意識をこちら側に向けさせることのできたその言葉の反応を待った。






「……?」



「ん?」






村長の方から何か声が聞こえたような気がしたが、その声は背を向けたままで小さく震えており聞き取ることができなかった。


ハルナはエレーナと顔を見合わせて、もう一度視線を村長の方へ戻した。
すると次は先ほどよりは大きな音だったが、震えた声で聴きとりづらい状態ではあった。









「人間……いま、何と言った?」



「……え?あの、”大竜神ってモイスさんのことですか?”って聞いたんですけど」







その言葉を聞いて、エルフの村長は振り返る。







「「――え!?」」







エレーナとハルナは、その表情を見て驚いた。


今までの余裕のある表情とは異なり、真っ赤な顔で鬼のような形相でハルナのことを睨みつけていた。





「お前ごとき……人間風情が……あのお方の名を……軽々しく口にするとは!?」



「村長!!な、何をするおつもりですか……!?」





その後ろを歩いていたマルスが、村長の周りに魔力が集まっていくのを感じてその行動を止めようとする。


そして手にしていた杖をハルナに向け、何か呪文を唱えている。
既に詠唱に入ってしまっていたため、





「はっ――あれは!?」





ナルメルが村長の詠唱を止めようとするが間に合わなかった。




「……の身を天空の槍で貫け、”ライトニング”!!」






――バリッ!バシッ!!!





杖の先から出た光は、一筋の雷となりハルナが避雷針となったように襲い掛かる。








――あ!?





フウカが急いでハルナの元に戻ろうとした時、その目の前には水の壁がハルナの前に現れた。






ジ……ボンッ!!!!




雷は水の中に吸い込まれ、雷を取り込んだ水はその高熱で蒸発し破裂した。





「キャッ!?」












少し行動が遅れたが、ソフィーネが爆発した水蒸気からハルナを庇い、背中には熱湯が降りかかる。



「ぐっ……!?」



「ソフィーネさん!?」





ソフィーネは熱湯のかかったローブを脱ぎ捨て、その下の上着も脱いだ。
サナがヒールをかけようと近寄るが、ソフィーネがそれを制した。

その理由は、”自分で大丈夫と感じたこと”と、”まだ他に使用しなければならない可能性がある”とのことだ。



サナがソフィーネの背中を見ても、幸い発赤は見られたが火傷まではなかったようだ。

ローブの下に来ていた上着が厚い生地でできていたため熱が伝わりにくかったのが幸いしていた。
だが、それを着用していても水の壁が蒸発し爆発するくらいの高温だったことがわかる。




ハルナはソフィーネの無事を確認すると、再び村長の姿に視線を向ける。

村長の次のターゲットはフウカに向けられていた。
フウカは村長を背にしていたため、気付いていない。



杖の先に雷の元ともいえる魔力が集まっていくのを感じ、フウカを呼び戻そうとしても間に合いそうもない。






「……ごめんなさい!」





ハルナは、その突き出された杖に向かって空気の円盤を放つ。






――ザッ!
カランンン……






杖の先の塊が地面の上に落ち、乾いた木材の高い音がいつまでも耳に響いている。






「なっ……!?」






村長の口からたった一言だけ漏れた言葉から、とてつもない緊張感が伝わってきた。
次の瞬間、落ちた杖の先の塊から空気の振動にも似た魔力の圧がハルナたちに襲いかかってくる。










「あ、これヤバいやつ……!?」





危険を察知したフウカが、ハルナのもとに駆け寄る。
ハルナも何とかフウカを守ろうと、両手を伸ばしその中にフウカを隠そうとした。



しかし、その真後ろに迫ってくる魔法を途中で中断させたことにより暴走した魔力の衝撃波がフウカの身体を飲み込もうとしていた。




「フーちゃん!!!」


「ハル姉ちゃん!!!」




後ろに迫る熱量は、フウカなど消えてしまいそうなほどのエネルギーがフウカとハルナの目の前に迫っている。






(――掴まえた!!)





ハルナはその両手の中に、いつも触れている感触があった。
その手の先に見える暴走した白いエネルギーが手の甲に伝わる。


それは氷水の中に手を入れたような冷たい痛みが伝わる。




「――あ」





ハルナの身体を、白い光がゆっくりと包み込んで行く。






「ハルナ!!」


「ハルナァああ!!」





スローモーションで、ゆっくりと時間が流れていく。
白い光につつまれながら、ステイビルとエレーナの声が耳に入ってくる。







(……ごめんね、ステイビルさん、エレーナ)





自分の行動が、こんな結果を招いてしまったことをみんなに詫びた。
あのエネルギーは、ハルナたちを襲った後にはここにいる他の人たちをも襲ってしまうだろう。



多分もう伝えることはできないだろうが、その気持ちが伝わるように感謝の念を心の中に込めた。









(――あれ?この景色……どこかで見た気が)







ハルナは意識の中に、引っ掻かる記憶を探してみた。






(――あぁ、私がこの世界に来た時と同じときと……)








その答えに辿り着いたと同時に、白い光の中で見えないがフウカを包んだ手の中から別のエネルギー吹き出すのを感じた。














しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...