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第三章 【王国史】
3-134 マルスの案内
しおりを挟む「……本当にいいのか?」
「えぇ、もういいんです。どうせ、戻ることはできないのだし……」
そう言い残して、ナルメルは今来た道を戻り村を出ていこうとする。
ハルナはずっと下をうつむいて震えているようにも見えるマルスと、未練を切り離そうと強い思いで背中を向けるナルメルを交互に見ていた。
「――ナルメル!ま、待ってくれ!!」
マルスは青褪めた表情で、ナルメルを呼び止める。
ナルメルは、気付かない振りをしてそのまま歩いて行く。
ハルナたちも、挟まれた二人の間でハラハラしながら様子を見守る。
「案内するよ、みんなのところへ!!だから……待ってくれ、お願いだ!!!」
その言葉を聞き、ナルメルは足を止める。
「今すぐ連れて行ってくれる?」
「あ、あぁ。今すぐにだ……た、ただしお願いがある」
マルスは、何か言いにくそうに下を向く。
「お願い……って何?」
「私が……村を……村から追いだされたら……私とその……一緒に……なって欲しい」
「……はぁ!?」
ナルメルから今まで聞いたことのない声色が聞こえてきた。
「こ……これは」
「プ……プロポーズ!?」
「だけど、こんなところでいう台詞じゃないですし……何だか言われても、嬉しくなさそうな気がします」
それを聞いていたハルナとエレーナとサナが、好き勝手なことを口にした。
「私ね……あなたのことを嫌いじゃなかったわ。小さな頃から、ずっと一緒だったものね」
「な……なら、一緒になって……」
その言葉に対してナルメルは、静かに顔を横に振った。
「マルス、あなたは……いつも、そう。自分のことだけしか考えていないのよ」
「何を言ってるんだい。ナルメル?私はいつも、みんなのことを考えて……」
「そうね……自分が他の者たちからどう見られているかは、よく考えているみたいね」
マルスの周りでは、そう思っているエルフが多かった。
そのため自然とマルスの周りには人がいなくっていった。
それでもナルメルは、幼馴染であるマルスのことを気に掛けていた。
勿論その感情は愛情以外のものであった。
マルスの方は、ナルメルに対してそれ以上の好意を持っていた。
いつしかその感情はマルスの独占欲に繋がっていく。
しかし、ナルメルは同世代のエルフには人気があった。
マルスと釣り合うことはないと、誰もがそう思っている。
そんなマルスのことをナルメルが気にかけていることは周りのエルフは面白くなかった。
「そんな条件……それであなたが……みんなが幸せになれると本当に思ってるの……マルス?」
「――?」
不思議そうな顔で、マルスはナルメルの顔を見る。
「ダメ……なのか?」
マルスからの次の言葉がコレで、ナルメルは目を閉じる。
「悪いけど、あなたとは一緒になれないわ。でも、他のエルフのためにも、村長のところへ連れて行って欲しいの……お願いよ!!」
二人だけに任せるとマルスの方がナルメルに甘えてしまうと感じ、ステイビルは途中で話に割り込んだ。
「マルス殿……お願いできないか?今後の交友関係は別として、エルフの民のための話し合いを行いたいんだ。勿論村の場所の漏洩や交渉を含めた取引は一切行わないと大精霊と大竜神に誓って……約束しよう」
マルスはステイビルのその言葉に、身体と視線をステイビルに向けた。
「大竜神……我々にその名で誓うとは。お前、その言葉に偽りはないな?」
マルスの言葉と表情が先ほどまでナルメルと話していた時とは異なり、真剣な表情が伝わってくる。
だが、そんなことよりもエルフたちの命を救うため、このマルスの気持ちの変化を逃してはならないと感じた。
「勿論だとも……その言葉に偽りはないよ。でなければ、その名など軽々しく口にはできないさ」
ステイビルもまた、その言葉に対し真剣に答えた。
「わかった、付いてくるがいい……村長のところへ案内しよう」
その言葉に一番驚いたのは、ナルメルだった。
「ま、マルス……いいの、本当に!?」
「あぁ。大竜神様の名で誓われたなら、我々も無下に扱うことはできないのは知っているだろう?」
「それは……そうだけど」
「それこそ、断れば私たちの信仰心が疑われるというものだよ……ナルメル」
そう言ってマルスは向きを変え、元あった村の道とは違う道を歩き出した。
しばらく歩くと、また魔法が掛かったような怪しい雰囲気の茂みが目の前に出てきた。
そこでマルスはナルメルの力で、身体を蔦で繋げてもらうようにお願いした。
「ここは新しい道だからね、ナルメルも知らないだろ?ここは私が先頭を行くから、蔦が引っ張られた通りについてきて欲しい」
ここで、不安そうにエレーナがマルスに問いかける。
「あの……本当に連れて行ってくれるんでしょうね?途中で置き去りにしたりしないでしょうね??」
「ふん。我らの寿命のほんの僅かしか生きられない人間が、エルフのことを疑うとは。私も大竜神様の名のもとに誓ったのだ、安心するがいい」
先程のマルスからは考えられない程、立派に受け答えしている。
ハルナはここでも、精霊やあの竜がこの世界では大きな影響力を持っていることを改めて知ることになった。
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