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第三章  【王国史】

3-133 村民との遭遇

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マルスが”侵入者”に気付き、背中の弓を抜いて押し寄せる人間に構える。




「待って……あの人たちは!?」




ナルメルがその言葉が言い終わる前に、マルスは走ってくる人間に向けて矢を数本同時に放った。







――カカカン!!!





エレーナの出した氷の壁が、エルフの放った矢を弾き返す。








「ちょっとぉ!!いきなり何すんのよ!?」





「なっ!?……精霊使いか!!」





その様子を見て、マルスは腰から更なる矢を弓に準備しようとする。

マルスは指先に水が濡れたような感覚を感じたが、そのまま弦を引きすぐさま矢を放つ。
……が、矢が弓から放たれることはなかった。




「な……なにぃ!?」







マルスは手元を見ると弦と矢の間に氷で凍らせてあった。





(あんな距離から、こんな小さな的を……!?)







マルスは、エレーナの実力を見て驚いた。
走りながら弦と矢の小さな点を凍らせるその正確性は、かなりの腕前だと判断し攻撃による威圧は諦めた。






「ちょっと……待ちなさいって言ってるでしょ!?」






ナルメルは腕を組んで、マルスの前に立ちはだかった。






「マルスって昔から、そうなんだから……一度あることに気持ちが囚われると他の声が聞こえなくなるのは悪い癖よ?」




「あぁ……すまない」





マルスは、久々のナルメルからの説教が妙に嬉しくなり、自分の知らない人間が近寄ってきていることなどどうでも良くなってきていた。


そうしていると、ハルナたちはナルメルの元に到着した。





「ナルメルさん、急に走りだして……どうしたんですか一体?」







ナルメルは、ハルナに言われて自分の感じた違和感を思い出した。








「そうだ!この村どうしたの?どうしてこんなに誰もいないの!?」






マルスもナルメルとの再会で忘れていたが、ここには用事があってきていたことを思い出した。







「ナルメル……もうここは捨てられたんだ。みんな新しい場所に移動しようとしているんだ」



「な……なんで?どういうことなの!?」




「それは……」







「……それは、ナルメルさんが人間に捕まってしまったことがしられたからでしょうね」








マルスが言い辛かったことを、ブンデルが代わりに告げた。




「……あ」




ナルメルは、ブンデルの言葉で一連の流れを悟った。






「ナルメルさんが人間に捕らえられたという情報が村に入ったのでしょう。もしかしたら、村の場所や入り方を漏らされるかもしれない……そうすれば、この村の平穏が脅かされてしまうことになる」



「その前に、村を捨てた……ってこと?」







ハルナが告げた言葉に、ブンデルとマルスが首を縦に振る。





「ちょっと待って!?だとしたら、どうやってナルメルさんが捕まったことを知ることができたの?まさか、その様子を隠れて見ていたとかじゃないわよね!?」


「多分、後ろからつけていた者がいたんだろうな。それで、ナルメル殿が人間に捕まったことを知ったのだろう」






ステイビルの推測に、マルスは目線を下げる。
ある意味その動作が、答え合わせであることはここにいる全ての者がそう感じていた。




「そんな……酷い!!ナルメルさんが……仲間が捕まったというのに、誰も助けないなんて!?そのせいで、ノイエルちゃんも捕まってしまったじゃない……あ。もしかしてノイエルちゃんの時も」





アルベルトが、これ以上言わせないようにエレーナの肩に手を置いて制する。
アルベルトの目線の先には、何かを堪えているマルスの姿があった。






「すまない、ナルメル。見ていたんだ……だが、村長の命令は絶対だ。私は……俺は、お前ほど強くはない。許してくれ……」






マルスは力が抜けて、地面に両膝を付ける。






「マルス……」





その事実を知り、ナルメルは一度だけ幼馴染の名を口にした。







「もしその時に助けてしまっていたら、この辺にエルフの村があると気付かれてしまう可能性もあったかも。そうなったら、エルフも”抗戦”するか、逃げ出すしかない……ってこと?」




ハルナが、どちらの立場も考慮した上で発言する。







「ドワーフなら、徹底的に戦っていたでしょうね……」



「エルフはそういうわけにはいかないんだよ……サナ」






サナの言葉に、ブンデルが優しく返す。
しかしその言葉の裏には、エルフの性格に対して批判も少し含まれていた。








「だから、私たちはこんな目にあったのよ……マルス。もうそろそろ他種族と協力しなければいけない時が来ているの」










その言葉は、ナルメルがずっとエルフの村の中で言い続けていたことだった。
ナルメルだけではなかったが、その声に対し村長は掛け合う価値もないとして取り合うことはなかった。


しかし、水の問題がさらにエルフの村の生活にのしかかり、外とのつながりを求める声は大きくなっていった。
だが、村長は頑なにそのことに対し許可をすることはなかった。






「とにかく、みんなのところに案内して。もう水の問題は解決しそうなの!」






マルスはその言葉に対し、すぐに返事ができないでいた。
このまま脱走者のナルメルと人間や他の者たちを連れて行けば、そのことを批判され自分自身もこの村を追い出されてしまうことになるだろう。
そうなれば自分の両親は悲しむだろう、そして村の中で酷い扱いをされるに違いない。





ナルメルの力にもなりたいが、自分のこともやはり大切なのだ。
だが、ナルメルに嫌われたくもない……





(うぅ……俺はどうすれば)








「マルス……もういいわ、あなたはみんなのところに戻って。もう戻ってくることはないかもしれないけど、水の問題も解決することを伝えて。あと、できたら私のお父さまに私たちの無事を伝えてほしいの……心配してると思うから」





ステイビルは、マルスに背を向けて歩いてきたナルメルに確認した。
その言葉に無言で頷き、ナルメルは来た道を戻っていった。







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