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第三章 【王国史】
3-121 報告書
しおりを挟む「それとノイエルちゃんに聞いた話ですけど……」
ハルナは、ノイエルに何故エルフの村を飛び出したい経緯をソフィーネとサナで話を聞いていた。
いまエルフの村は、相当困窮した状況が続いている様子だった。
水もなく、食べ物も手に入り辛い期間が続いていた。
ノイエルの母は、ノイエルのために外出禁止期間に村を出て食べ物を探しに行ったまま戻らなくなってしまったという。
ポッドはその話を聞き、自分が同じ状況であるとすれば黙って外に出て愛娘チュリーのために同じような行動に出ていたであろう。
サナも、別な意味で胸を痛めていた。
ポッドたち人間には許してもらえているが、エルフの村にも迷惑をかけたことは事実だった。
俯きそうになる顔を必死に前に向け、膝の上の手は力いっぱい自分の服を握りしめていた。
そんな様子を横目で見ていたブンデルは、そっとサナの脚に手を乗せた。
サナは驚いてブンデルの顔を見るが、ブンデルも必死に目の前だけを見つめ続けていた。
その表情はどんな状況でも決して逃げ出さず、問題に立ち向かおうとする顔だった。
サナはそんなブンデルの顔を見て、一度深呼吸をして下唇を噛み締めて気持ちを持ち直した。
数日後、一つの手紙が物資搬入の際にマーホンに届けられた。
それはアイリスの父親の、”グリセリム”からの手紙だった。
グリセリムはあの後、東の国のモイスティアの商業者ギルドのギルド長代理という実質ギルド内のトップの位置に就いていた。
『マーホン・エフェドーラ様へ
時間がかかり、申し訳ありませんでした。アーテリア様とティアド様の協力を得て、マイヤ様に相手の正体を探していただいておりました。そこから得た情報をもとにギルド内で信用できる人物に調査させたところ、”通常の商品”として扱われない品物が出回っていることを確認致しました――』
「通常じゃない商品ってなんですか?」
カイヤムが不思議に思い、そう質問した。
「以前私たちが遭遇したハンターだと、”ギガスベアの心臓”を集めていたわね」
エレーナは簡単に、森の中で遭遇した出来事を説明した。
「ヒドイ!!人間ってなんて酷いことを!?……あ、ごめんなさい」
サナは思わす口にした言葉が、ハルナを含めここにいる人間を傷つけてしまったと思い言葉を止めて詫びた。
「いいんだ、サナさん。人間にも悪い者はたくさんいる。国としても対策はしているのだが、全てを駆逐するというのは難しいことなのだ」
「いや、悪いこと考えるのはエルフにも……もちろんドワーフの中にもいますよ。人間は少し他種族を見下しているところはありますけどね……」
ブンデルはステイビルをフォローしようとしたが、ついつい人間という種族に対する今までの愚痴が出てしまった。
もちろん、ハルナたちがそういう人間ではないことは知っているが、ハルナたちのような考えで無い者の方が圧倒的だろう。
「うむ、その通りかもしれん。この先、多種交流を盛んにし国民の意識改革を……」
「ステイビル様。いまはそういことを考えるときではありません。マーホンさん、報告書の続きを」
ソフィーネに注意され、ステイビルはハッとした。
「え……はい。えーっと」
『――そのアジトの場所はモレドーネから離れた”ジ・マグネル峡谷”にあるようです。しかし、我々の力で調べられる範囲はここまででした。これ以上は、我々の安全が危うくなるのでこれで調査は中止とさせていただきます。ですが、また新しい情報がありましたら、お知らせいたします。
皆さまのご無事をお祈り申し上げます。
――グリセリム・スプレイズ』
「……とのことです」
マーホンは手紙を折りたたみながら、手紙の終わりを知らせた。
「ジ・マグネル峡谷か……ポッドさん。ここからどのくらいかかりますか?」
「歩くと三、四日……馬車ですと二、三日といったところでしょうか。あの場所には、そんなに用事もないので行くことは滅多にありませんので良く分からないのです」
「確か、モレドーネからここに来る途中に分かれ道がありましたね?あそこを行けば確か峡谷に行けるはずです」
「ならば、早速準備に取り掛かろう。……マーホン、馬車を二つ程化しても貸してらえないか?」
「……そう思って、丁度多めに馬車を用意しております。あと、移動用の物資も今回手配しておりますので」
「流石マーホンさんね!?」
ハルナの賞賛の声に少し、照れるマーホン。
そして、ハルナたちは明日の出発に向けて準備を開始した。
そして翌朝……
準備は整っているが、少し出発が遅れていた。
ノイエルが一緒に連れてって欲しいとハルナにお願いしていた。
だが、危険な場所に幼いノイエルを連れて行くことはできない。
万が一”最悪”な状況となった場合、ノイエルには見せたくなかった。
それに、その場所には。”あの”危険な女がいる可能性が高い。
そんなところに自分の身を守れない、小さな子を連れて行くわけには行かなかった。
何とか説得し、ノイエルをここで待ってもらうようにした。
チュリーがその間、ノイエルの相手をしてくれることになった。
二人は、背丈も近いせいかすぐに打ち解け遊ぶようになった。
「ねぇ、ノイエルちゃん。お母さんのお名前は?」
ノイエルは母親のことを思い出し少し思い出したのか泣きそうな顔をしたが、必死に堪えてハルナに母親の名前を告げた。
「お母さんの名前は……”ナルメル”」
「そう、ナルメルさんね……必ず助け出すからね!」
ハルナは、涙を我慢するノイエルを抱きしめて絶対に助けると誓った。
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