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第三章  【王国史】

3-96 水の精霊使い

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「そこまでよ、ブウム!!」



「サナ!あなた、!どうして戻ってきたの!?危なかったら逃げなさいって言ったでしょ?」




イナとニナは、サナの姿を見て思わず叫んだ。





「いい加減、わたしを子供扱いするのやめてよね!?私たち三つ子なんだから同じでしょ!」










三つ子とはいえ容姿以外のところは、それぞれの個性が分かれていた。
どうしても一番最初にこの世に出てきた順番で姉妹の上下が生まれた。




この三姉妹は、親の顔を知らない。
記憶がある時には、既に孤児院の施設の中にいた。
そこには親の代わりに指導員が常駐しており、その中でジュンテイも指導員として施設に携わっていた。





サナは小さな頃、末っ子という位置に安心感を覚えていたが、成長するにつれて自分たちは”同じ立場”であることがわかってきた。
その子ども扱いをする同い年の二人の姉のことへ、月日が流れるごとに反抗心と不満がサナの中で積み重なっていった。





そんな状況に、変化が生まれ始めたのは長老の元にお手伝いとして呼ばれるようになってからだった。



長老は、厳しく三姉妹と接した。
時には、まだ少女の三姉妹では難しいことと思われることもやらせていた。

三人同時にではなく、各一人一人に厳しい仕事を与えていた。
しかし、サナはそれが嬉しかった。


いつも上から庇っていた二人とは別な仕事を与えられ、何度か失敗を繰り返しながら自分一人でもこなすことが出来るようになっていた。

そこからサナは、自分に自信がついてくる。
さらに、自信がつくような出来事が起こった。





――”魔法の習得”




長老から働きが認められ、三人にそれぞれの魔法を習得できる機会を与えてくれた。


その修業の成果で、三人は運よくそれぞれに合った魔法を習得することが出来た。
サナは”ヒール”、ニナは”キュア”、イナは”ヴェリタム”という魔法を習得した。


魔法を習得した三人は次期長老に直々に指名され、魔法を習得した実力が認められこの町を三人で守ることになっていった。










「あぁ、サナ。戻って来てくれたんだね、ずっと探していたんだよ?……ところで今のは何だい?」





ブウムは投げたグラスが、ニナに当たる前に何かにぶつかって壊れたことを気にしている。

この場では誰も動いていなかったし、サナたちの力がそういう類の魔法ではないことも知っていた。
それは、この場にサナたち以外の者が入ってきた可能性を考えた。






「……良く分かったわね。うまく誤魔化せたと思っていたんだけどね」





セナの後ろから、ゆっくりと姿を見せるハルナ。

その手には杖を持ち、それを掌の上で打ち付けながらサナの横に並ぶ。





「お前……報告にあった、一度この町に来ていた人間の一人だな?」




「そうですよ?それがどうかしました?」




「他の人間はどうした?お前ひとりなのか?」




「えぇ、今は一人よ。でも、後から応援に駆けつけることになってるの」




「ふ、なら好都合だ。お前たちの中にはとても強いやつが一人いると報告を受けている。そいつが来て面倒なことになる前に、お前を片付けさせてもらおう!」






ブウムが片手を挙げて合図をすると、この場にいた数名のドワーフがハルナを扇状に囲んだ。




「私も黙ってやられるわけには行かないのよ……ちょっとこれで頭を冷やしなさい」




ハルナが杖を前に向けると、杖の先から大量の水が放出された。






「グワっ!」

「ギャア!」




その放水された水の勢いは、ハルナに襲いかかろうとした小柄なドワーフを片っ端から弾き飛ばしていく。






「お、お前。水の精霊使いか!?」



ブウムは目の前の出来事に対し瞬時に反応し、放水の直撃を免れていた。




「残念ね……ちょっと違うのよ」




「何?それは一体……」




ブウムがハルナ言葉の違和感に質問をしようとした時、この場にまた新しい声が響き渡る。




「ハル姉ちゃん!こっちは、もう大丈夫だよ!!」





「――な!?」





ブウムはその声の方向に目をやると、この場にいなかった小さな生き物が捕えていたハイト、グレイ、ジュンテイの束縛が解かれていた。

そしてその瞬間、ブウムたちとの間に厚い氷の壁が築かれ、ブウムたちから危険を遠ざけることに成功した。







「サナさん、今です!!」



ハルナの言葉にサナは頷いて、氷の壁の向こう側に走っていった。
そしてジュンテイの近くに行くと、ヒールの魔法を施し始めた。




先ほどまで順調に進んでいた計画が徐々に綻びはじめ、今では完全に予定と異なる事態になってしまったことを、顔を真っ赤にしてブウムは怒りを見せる。





「ふざけるなぁ!!!あと少しで、あと少しでドワーフの町が良くなろうとしていたのに……お前たちが来たせいでぇぇ!!」




ブウムは腰の剣に手をかけ、引き抜こうとしたその時自分の上肢が言うことを効かないことに気付いた。






その上半身は、水の輪で身動きが取れなくされていた。






「……すごいわね、ハルナ。あなたの計画で、こんなにうまく事進むなんて!ヴィーネちゃんもよく頑張ったわね」






ハルナの後ろのローブに隠れていた精霊が、本来の契約者の元に帰っていった。

エレーナの後ろからは、ステイビルやデイムたちもその姿を見せた。






「よくやったな、ハルナ。自分の属性を偽って攻撃し、その間、自分の精霊で囚われている者を救出……見事な作戦だったぞ」




「えへへ、でもヴィーネちゃんがタイミング併せてくれたりしたお陰です。それに、一番危なかったのはフーちゃんですし。ありがとうね!」


フウカは、ハルナに褒められて照れながらフウカの肩に座った。






「くそ……ったれ……あと少しで……あと少しでぇぇぇえぇぇえ!!!」







ブウムは急に大声をあげた途端、水の輪が真っ黒に染まりフウカしていった。




「おの……れ……許さんぞ、許さんぞニンゲン!!」






ブウムは剣を抜き、構えるとその剣から真っ黒な瘴気が剣から漂っていた。












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