256 / 1,278
第三章 【王国史】
3-87 一旦集落へ
しおりを挟む「あー……また、これに乗るのね」
エレーナはこのドワーフの町に入ってきた高いエレベータを見上げてつぶやく。
「目をつぶって、息を止めて置けば大丈夫だよ。
「そ、そうね。目をつぶって息を止めれば……って、あんなに長い間止められるわけないじゃない!?」
「さぁ、早く乗ってエレン。我々はなるべくこの場所にいない方がいいんだから」
「そうは言っても、既に町中を歩いているからな……」
アルベルトの言葉に、ステイビルが続ける。
確かに、デイムの後ろに連れられて町の中を歩き回っていたため、いまさら感はあった。
ただその時は状況を知らなかったので、これほどまでの緊張感はなかった。
「ちょっとすみません……もう少し奥に詰めてもらえませんか?」
ブンデルのお腹が箱からはみ出してしまい、手動で閉めるシャッター式の扉が閉じなかった。
「は、入りました!」
ブンデルは自分で扉を閉めて、昇降用のレバーが近くにあるアルベルトに声をかける。
ステイビルはその声を合図に、レバーを握りロックを外して地上に登るためにスイッチレバーをを引き上げようとした。
「おい!そこの者たち、止まれ!!」
遠くから箱中に、声が掛けられた。
「何でしょう、何か用事ですか?」
一番外側にいたブンデルが、その呼びかけに応えた。
比較的装備を整えた風貌のドワーフが二人近付いてきて、エレベーターの中の様子をみる。
「お前たち、ジュンテイのところから出てきたな。中で一体何を話していたんだ?」
明らかにこのドワーフが、ハルナたちのことを疑っていることが見て取れた。
ジュンテイはなるべくことを荒立てない様に気遣っていたので、ステイビルはこの場は誤魔化してみることにした。
「こちらに腕のいい鍛冶屋があると聞いて、剣の調整をお願いしていたのですが?」
「嘘をつくな!この町には誰も入ることができんはずだ、なぜこんなところに人間とエルフがいるのだ?」
「それについては、いろいろと事情がありこちらの町に連行されてきたのです。事情をお話ししたら、用事は済ますことができましたがね」
「とにかく怪しいな……そこから一旦降りてもらおうか」
「そう言われましても、我々も早くここから立ち去るように言われておりますので……」
「このぉ!つべこべと……!?」
ドワーフはエレベータの扉に手をかけて強引に開こうとする。
しかし、ブンデルのお腹の圧力でなかなか思う通りに扉が開かない。
「おい、お前たち!そこで何をしている!?」
この場に別なドワーフが姿を見せたが、その声は先ほどまで一緒にいた声だった。
「ぐ、グレイ様……!?」
扉を開けようとしていた別のドワーフが声をかけられた方向を見て、その名を呼んだ。
「その者たちの町の中への許可は、長老方が認めており何の問題もない。どこに連れて行こうというのだ……お前たち?」
ドアをこじ開けようとしていたドワーフはその言葉を聞き、手を離してハルナたちから距離を置く。
「そ、そうでしたか。ならば、連行する必要はありませんな。この者たちがジュンテイ殿の店から出てきたところを発見し怪しいところがないか見張っておったのです。人間がこの町にいることは、初めてのことですからな……」
「まぁ、よい。とにかく用事が済んだのだ、帰ってもらって良いのだ」
「……は、はい。わかりました」
ドワーフは悔しそうに、グレイの言葉を受け入れる。
「すまなかったな”人間”よ。気を付けて帰るがいい」
「ありがとう、立派に調整していただいた上にお見送りまで。本当にこの技術がここだけなのは勿体ないお話しですな……」
「用事が済んだのなら、早く行ってくれ……」
「あぁ、すまない。それでは、世話になったな」
ステイビルはアルベルトに合図し、エレベータを動かした。
少しずつ上っていき、先ほど苦労して昇った長老の屋敷があっという間に同じ高さまで上がった。
ジュンテイの店から出る蒸気も確認できた。
ステイビルは何とかこの話をまとめたいと思うが、先ほど声をかけてきたドワーフが反対派なのだろうと推測する。
「何かと厄介だな……」
「……そうですね」
ステイビルのつぶやきに、アルベルトが答える。
そしてエレベータは岩の洞窟の出口まで到着した。
どういう仕掛けか分からないが、外からは洞窟の中が見えなかったが、ここからは外の様子が見える。
外は日が落ちかけていて、暗くなりそうになっていた。
ステイビルたちは集落に戻り、ポッドとカイヤムにドワーフのことを話した。
それが、水が出なくなった原因であることも。
何か言いたいことがありそうだったが、ポッドはその言葉を飲み込んだ。
「どうした?何か言いたいことがあったんじゃないのか?」
ステイビルが、そのことを察してポッドに話しかける。
「え、えぇ。思うところはあります……ですが、彼らもこの山の中で生きている種族として行ってきた行動でしょうから……」
うつむいたまま話すポッドを、何も言わずに見つめるステイビル。
ポッドは顔上げて、そのままステイビルの顔を見る。
「ですが……ですが、ステイビル様ならばドワーフの方々ともうまく交渉を行っていただけるのでしょう?我々は、ステイビル様を信じておりますから」
「うむ、そういってもらえると助かる。まだまだ先は長いが、きっと皆が水に困らない生活にしてみせるぞ」
(交渉……成功させなければな)
ステイビルはそう告げて、ゆっくりと揺れる部屋の明かりの蝋燭の炎を見つめた。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる