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第三章 【王国史】
3-69 同じ問題
しおりを挟む『ハル姉ちゃん、誰かいるよ!!』
「え!?」
ハルナの頭の中に、フウカの声が響き渡る。
その声の表情は、敵を見つけたような感じではなく何か珍しいものを見つけたような感じだった。
「どうしたの、ハルナ?」
驚いて声を出したハルナに、エレーナは声をかけた。
「え、あ。うん、フーちゃんが誰か近くにいるって」
その言葉を聞いて、アルベルトが警戒態勢をとる。
アルベルトもまた、あの日から自分の弱さを痛感していた。
決して弱くはないはずなのだが、先日のような敵に遭遇した場合はエレーナを守れないと感じ何とか力をつけたいと考えていた。
「で、今どこに?」
アルベルトがハルナに確認する。
「いってきていいの?」
フウカがソワソワして、姿を現した。
明らかに楽しそうな、雰囲気を出していた。
「ヴィーネちゃん、念のためにあなたも行きなさい!」
「えー、またぁ……あっ!!」
「行ってきまーす!!」
嫌々ながら現れたヴィーネは、その腕をフウカにつかまれて林の中に消えていった。
後ろからお掛けられる気配を感じ、急いでその場を離れる。
先ほど人から盗んだパンを口にくわえたまま、木の枝から枝へ飛び跳ねていく。
だが相手は空を飛んでいるのか、その距離はどんどんと縮められていく。
「――くっ!このままじゃ、追いつかれる!?」
逃げ切ることを諦めて、やり過ごす作戦に変更した。
『健やかなる成長を……”ログホルム”!』
言葉を唱えると、辺りに蔦が急速に生い茂りドーム状を形成する。
「あ、消えた。どこ行ったんだろう?」
「ねぇ、フウカちゃん。それ、本気で言ってる?」
「え?なんで?ヴィーネちゃん、どこにいるのかわかるの?」
「うん……多分だけど。っていうか、目の前の草の塊が怪しいなって思わない?普通」
「あ、本当だ。よし、コレ切り刻んでみよう!」
フウカは風の円盤を複数個浮かべ、蔦でできた塊に襲い掛かろうとした。
「わぁ。ちょっと待って、ちょっと待って!!早まんないで、このパン返すから!?」
塊の中から、飛び出してきたのは人型をした生き物だった。
フウカは振り上げた手を下ろし、円盤はそのまま浮かべておいた。
「あなた、誰?」
フウカは、不思議そうな顔でその生き物を見つめる。
「私か?私はエルフ族の”ブンデル”という。お前たち、見たところ妖精か?」
「僕たちは妖精ではありません、精霊です。契約者もいます」
ヴィーネは、不満そうに告げる。
「そうか。それでは、これを返すから見逃してくれ。それじゃあな!」
――ザシッ!
蔦の塊の一部が、フウカの攻撃で切り刻まれた。
その攻撃が、何事もなかったように帰ろうとするエルフの動きを止めた。
「あのねぇ。そのパンにはもう歯型が付いちゃってるし、涎も付いてるから他の人が食べられないじゃないの!?それにね、悪いことをしたら謝らないと、”謝りなさい”ってハル姉ちゃんに怒られるんだよ!!」
「あわわわわ……」
ブンデルは、恐怖のあまり地面に座り込んでしまった。
「……とにかく、みんなのところに一緒に行ってもらうよ。逃げようなんて思わないことだね、その子案外怖いよ」
「は、はい……」
フウカたちは一人のエルフを連れて、ハルナたちの元へ戻っていった。
「えー……っと、フーちゃん?その方は」
「なんとか族の何とかって言ってたんだけど……」
「それじゃあ、なにも分からないわ。フウカ様」
エレーナが戸惑ったところで、ヴィーネが紹介する。
「こちらの方は、エルフ族のブンデルさんっていうそうです」
(エルフ?ホントにいたのね!?)
ハルナは、初めて見る空想の生き物に驚いた。
だが、よく考えればコボルトもフウカもハルナが元いた世界では空想の生き物だった。
「ねぇ、……エレーナ!?」
ハルナは、慣れていると思われるエレーナに対応をお願いしようとしたが、その表情は固まっていた。
「エルフ……初めて見たわ。っていうか、ほんとにあなたエルフなの?もうちょっと、スラっとしてるイメージが」
エレーナはふくよかに肥えたブンデルの姿を見て、素直な感想を述べた。
「でも、尖って長い耳はエルフの特徴的な構造だよ」
「うーん……確かに」
アルベルトの指摘に、信じがたいが納得するエレーナだった。
「何なんだ、アンタたち!?勝手に連れてこられて、好き勝手言っちゃってさ、失礼にもほどがあるぞ!!」
「……誰が悪いことしたんだっけ?」
「はい、すみませんでした……」
待遇の悪さに憤るブンデルだったが、珍しく落ち着いて話すフウカの言葉と空に浮ぶ円盤で素直に詫びた。
「どうしてパンなんか盗んだの?もしかして食べるものがなかったとか?」
「いや。ハルナ、見てごらんなさいよ。これがどこに食料不足の問題がある身体に見えるのよ」
エレーナは冷静に、ハルナの発言の問題点を指摘した。
「どうしてなの?」
フウカが、ハルナの代わりにもう一度聞く。
「はい!それは美味しそうだったからであります……しかし、食料の問題ではないですが、水の問題はあります」
その言葉に、ハルナたちの視線はブンデルに注がれる。
「それってまさか、水がでなくなった……とか?」
「その通りです。それにより、森の中の状況が少しずつ変わってきてしまっています」
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