上 下
238 / 1,278
第三章  【王国史】

3-69 同じ問題

しおりを挟む




『ハル姉ちゃん、誰かいるよ!!』



「え!?」




ハルナの頭の中に、フウカの声が響き渡る。


その声の表情は、敵を見つけたような感じではなく何か珍しいものを見つけたような感じだった。





「どうしたの、ハルナ?」


驚いて声を出したハルナに、エレーナは声をかけた。



「え、あ。うん、フーちゃんが誰か近くにいるって」




その言葉を聞いて、アルベルトが警戒態勢をとる。
アルベルトもまた、あの日から自分の弱さを痛感していた。
決して弱くはないはずなのだが、先日のような敵に遭遇した場合はエレーナを守れないと感じ何とか力をつけたいと考えていた。






「で、今どこに?」




アルベルトがハルナに確認する。




「いってきていいの?」



フウカがソワソワして、姿を現した。
明らかに楽しそうな、雰囲気を出していた。



「ヴィーネちゃん、念のためにあなたも行きなさい!」


「えー、またぁ……あっ!!」



「行ってきまーす!!」




嫌々ながら現れたヴィーネは、その腕をフウカにつかまれて林の中に消えていった。





















後ろからお掛けられる気配を感じ、急いでその場を離れる。
先ほど人から盗んだパンを口にくわえたまま、木の枝から枝へ飛び跳ねていく。


だが相手は空を飛んでいるのか、その距離はどんどんと縮められていく。




「――くっ!このままじゃ、追いつかれる!?」






逃げ切ることを諦めて、やり過ごす作戦に変更した。





『健やかなる成長を……”ログホルム”!』





言葉を唱えると、辺りに蔦が急速に生い茂りドーム状を形成する。















「あ、消えた。どこ行ったんだろう?」


「ねぇ、フウカちゃん。それ、本気で言ってる?」


「え?なんで?ヴィーネちゃん、どこにいるのかわかるの?」


「うん……多分だけど。っていうか、目の前の草の塊が怪しいなって思わない?普通」



「あ、本当だ。よし、コレ切り刻んでみよう!」






フウカは風の円盤を複数個浮かべ、蔦でできた塊に襲い掛かろうとした。





「わぁ。ちょっと待って、ちょっと待って!!早まんないで、このパン返すから!?」



塊の中から、飛び出してきたのは人型をした生き物だった。





フウカは振り上げた手を下ろし、円盤はそのまま浮かべておいた。






「あなた、誰?」






フウカは、不思議そうな顔でその生き物を見つめる。




「私か?私はエルフ族の”ブンデル”という。お前たち、見たところ妖精か?」





「僕たちは妖精ではありません、精霊です。契約者もいます」




ヴィーネは、不満そうに告げる。





「そうか。それでは、これを返すから見逃してくれ。それじゃあな!」





――ザシッ!





蔦の塊の一部が、フウカの攻撃で切り刻まれた。

その攻撃が、何事もなかったように帰ろうとするエルフの動きを止めた。







「あのねぇ。そのパンにはもう歯型が付いちゃってるし、涎も付いてるから他の人が食べられないじゃないの!?それにね、悪いことをしたら謝らないと、”謝りなさい”ってハル姉ちゃんに怒られるんだよ!!」






「あわわわわ……」





ブンデルは、恐怖のあまり地面に座り込んでしまった。



「……とにかく、みんなのところに一緒に行ってもらうよ。逃げようなんて思わないことだね、その子案外怖いよ」



「は、はい……」







フウカたちは一人のエルフを連れて、ハルナたちの元へ戻っていった。





「えー……っと、フーちゃん?その方は」




「なんとか族の何とかって言ってたんだけど……」




「それじゃあ、なにも分からないわ。フウカ様」




エレーナが戸惑ったところで、ヴィーネが紹介する。



「こちらの方は、エルフ族のブンデルさんっていうそうです」




(エルフ?ホントにいたのね!?)





ハルナは、初めて見る空想の生き物に驚いた。
だが、よく考えればコボルトもフウカもハルナが元いた世界では空想の生き物だった。




「ねぇ、……エレーナ!?」




ハルナは、慣れていると思われるエレーナに対応をお願いしようとしたが、その表情は固まっていた。





「エルフ……初めて見たわ。っていうか、ほんとにあなたエルフなの?もうちょっと、スラっとしてるイメージが」




エレーナはふくよかに肥えたブンデルの姿を見て、素直な感想を述べた。




「でも、尖って長い耳はエルフの特徴的な構造だよ」



「うーん……確かに」





アルベルトの指摘に、信じがたいが納得するエレーナだった。





「何なんだ、アンタたち!?勝手に連れてこられて、好き勝手言っちゃってさ、失礼にもほどがあるぞ!!」


「……誰が悪いことしたんだっけ?」


「はい、すみませんでした……」




待遇の悪さに憤るブンデルだったが、珍しく落ち着いて話すフウカの言葉と空に浮ぶ円盤で素直に詫びた。





「どうしてパンなんか盗んだの?もしかして食べるものがなかったとか?」



「いや。ハルナ、見てごらんなさいよ。これがどこに食料不足の問題がある身体に見えるのよ」




エレーナは冷静に、ハルナの発言の問題点を指摘した。




「どうしてなの?」





フウカが、ハルナの代わりにもう一度聞く。






「はい!それは美味しそうだったからであります……しかし、食料の問題ではないですが、水の問題はあります」



その言葉に、ハルナたちの視線はブンデルに注がれる。




「それってまさか、水がでなくなった……とか?」



「その通りです。それにより、森の中の状況が少しずつ変わってきてしまっています」









しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...