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第三章 【王国史】
3-64 落とし物
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3-64 落とし物
カイヤムからの連絡を聞き、ハルナたちは顔を青ざめる。
つい数時間前まで一緒にいて、幼い子特有の体温が抱きかかえるハルナたちの心を和らげていたのだ。
ショックな出来事で呆けているハルナたちに、厳しい声が飛ぶ。
「しっかりしろ!落ち込んでいる場合ではない。カイヤム、すぐに用意をする。現場に移動するまで間、状況を聞かせてくれ」
「はい!」
ハルナたちも用意を終え、カイヤムに付いて現場まで移動した。
その間カイヤムは、自分が知りうる現在の情報をステイビルたちと共有した。
チュリ―をさらっていったのは、今からおよそ30分ほど前。
遊んでいたチュリーが急に大人しくなったので、ポッドが部屋に様子を見に行ったところ顔を布で隠した人物が三人でチュリーをさらって行ったという。
「……昼間のやつか?」
ステイビルは走りながら、先頭を行くカイヤムに問う。
「わかりません……顔は見えなかったようですが、その可能性は充分にあると考えています」
ポッドの家に、人が集まっているのが見えた。
チュリ―の母親だろうか?
泣きながらポッドの腕にしがみつき、娘がさらわれた真っ暗な夜の闇に向かって必死に名前を呼ぶ。
悲痛な叫びにも似た声は、ハルナたちの胸を締め付け苦しめた。
「あ、ステイビル様……」
泣き崩れる妻を座らせて毛布でその体を包み、近くにいた人にお願いをしてポッドは気付いたステイビルに近寄った。
「遅くなってすまない、お前たちに怪我はないか?」
ステイビルは、ポッドたちの身体に問題はないかを確認した。
こんな時に掛ける言葉は、いつも難しかった。
「お心遣い、ありがとうございます。私たちは無事です……娘が……娘が」
ポッドもやはり、動揺していた。
それはそうだろう、目の前で娘を連れ去られた状況をみていたのだ。
しかも、どうすることもできないままに。
「ポッドさん、家の中を調べさせていただきます。カイヤムさん、お二人を見ていてもらえませんか?」
ステイビルのお願いに二人は、頷いてい見せた。
カイヤムは、一緒にいた方がいいだろうとポッドを妻の隣にまで連れて行った。
「アルベルト、ここに残って村の者たちを守ってやって欲しい。ソフィーネは、この周辺で痕跡を探してくれないか?他は、私に付いてきてくれ」
「「はい!」」
それぞれが行動を開始する。
「ここがチュリーの部屋なのね」
ステイビルたちは、チュリーの部屋の中に入り何か情報がないか探っていく。
床は、積み木などのおもちゃが散らばっていたが、これは連れ去られたときのものではなく普段からこのような状態だったのだろう。
ハルナも昔は遊んだもので片付けなくて、父親に起こられて大事な変身セットを捨てられた苦い記憶を思い出す。
「は、ハルナ様……これを」
マーホンが見つけたのは、床に落ちていた一枚の紙。
そこに書かれていたのは、自分と三人の女性が楽しそうに遊んでいる絵だった。
その女性の特徴からして、ハルナたちであることは間違いなかった。
「許せないわね……誰が、こんな酷いことを」
「今頃、怖くて泣いているんじゃ……」
「そうだ、だから一刻も早くチュリーを助け出さなければならない」
再びハルナたちは、何か証拠がないか探して回る。
しかし、壊された窓の見事な刃物による切断以外にその痕跡は見当たらなかった。
途方に暮れていたその時、窓の外からステイビルを呼ぶ声がした。
「ステイビル様、こんなものが落ちておりました」
ステイビルは、ソフィーネから穴の開いた金貨を手渡された。
「――?」
手に取ってみると、東の王国で使用されている金貨に穴を開けられていた。
金貨には大精霊をモチーフにした模様が刻まれ、丁度大精霊の胸の部分に穴があけられていた。
「ほう……我が王国に対する宣誓布告か?」
「その意図は分かりませんが、念のため持ち帰ってまいりました」
金貨といえば、王国内で最高の通貨である。
その一枚で、店や宿でもかなりの贅沢ができる程の金額だ。
だが、その金額を無駄に穴を開け、丁度大精霊を打ち抜く形で穴を開けている。
何かに対するメッセージのようなものが含まれているのではないかとステイビルは感じ、その金貨をポケットに仕舞った。
結局その夜はこれ以上の成果はなく、ハルナたちはポッドの家の近くで休むことした。
集落の人たちは、いつもよりも人数を多めにし夜の見回りを強化した。
その中にアルベルト、ソフィーネも加わり何か起きた時の対応に備えた。
時間が経過し、夜から朝に変わろうとした。
山に向かって吹いていた風が、その向きを変える。
そして、変化が起きる。
日が昇り始めた頃、集落の入り口に向かって馬を引き連れて人が歩いてくるシルエットが見えた。
馬の上には、小さな子供の影も見える。
入り口を警戒していた門番が、その人影に向かって止まるように命令した。
だがその男は、制止を無視して集落の中に入っていった。
門番は、それを停めることが出来なかった。
馬の上には、一晩中探していた少女の姿が見えたから。
男はようやく歩みを止め、門番に向かって話した。
「おい、拾った金貨を持ってこい。この少女と交換だ……」
カイヤムからの連絡を聞き、ハルナたちは顔を青ざめる。
つい数時間前まで一緒にいて、幼い子特有の体温が抱きかかえるハルナたちの心を和らげていたのだ。
ショックな出来事で呆けているハルナたちに、厳しい声が飛ぶ。
「しっかりしろ!落ち込んでいる場合ではない。カイヤム、すぐに用意をする。現場に移動するまで間、状況を聞かせてくれ」
「はい!」
ハルナたちも用意を終え、カイヤムに付いて現場まで移動した。
その間カイヤムは、自分が知りうる現在の情報をステイビルたちと共有した。
チュリ―をさらっていったのは、今からおよそ30分ほど前。
遊んでいたチュリーが急に大人しくなったので、ポッドが部屋に様子を見に行ったところ顔を布で隠した人物が三人でチュリーをさらって行ったという。
「……昼間のやつか?」
ステイビルは走りながら、先頭を行くカイヤムに問う。
「わかりません……顔は見えなかったようですが、その可能性は充分にあると考えています」
ポッドの家に、人が集まっているのが見えた。
チュリ―の母親だろうか?
泣きながらポッドの腕にしがみつき、娘がさらわれた真っ暗な夜の闇に向かって必死に名前を呼ぶ。
悲痛な叫びにも似た声は、ハルナたちの胸を締め付け苦しめた。
「あ、ステイビル様……」
泣き崩れる妻を座らせて毛布でその体を包み、近くにいた人にお願いをしてポッドは気付いたステイビルに近寄った。
「遅くなってすまない、お前たちに怪我はないか?」
ステイビルは、ポッドたちの身体に問題はないかを確認した。
こんな時に掛ける言葉は、いつも難しかった。
「お心遣い、ありがとうございます。私たちは無事です……娘が……娘が」
ポッドもやはり、動揺していた。
それはそうだろう、目の前で娘を連れ去られた状況をみていたのだ。
しかも、どうすることもできないままに。
「ポッドさん、家の中を調べさせていただきます。カイヤムさん、お二人を見ていてもらえませんか?」
ステイビルのお願いに二人は、頷いてい見せた。
カイヤムは、一緒にいた方がいいだろうとポッドを妻の隣にまで連れて行った。
「アルベルト、ここに残って村の者たちを守ってやって欲しい。ソフィーネは、この周辺で痕跡を探してくれないか?他は、私に付いてきてくれ」
「「はい!」」
それぞれが行動を開始する。
「ここがチュリーの部屋なのね」
ステイビルたちは、チュリーの部屋の中に入り何か情報がないか探っていく。
床は、積み木などのおもちゃが散らばっていたが、これは連れ去られたときのものではなく普段からこのような状態だったのだろう。
ハルナも昔は遊んだもので片付けなくて、父親に起こられて大事な変身セットを捨てられた苦い記憶を思い出す。
「は、ハルナ様……これを」
マーホンが見つけたのは、床に落ちていた一枚の紙。
そこに書かれていたのは、自分と三人の女性が楽しそうに遊んでいる絵だった。
その女性の特徴からして、ハルナたちであることは間違いなかった。
「許せないわね……誰が、こんな酷いことを」
「今頃、怖くて泣いているんじゃ……」
「そうだ、だから一刻も早くチュリーを助け出さなければならない」
再びハルナたちは、何か証拠がないか探して回る。
しかし、壊された窓の見事な刃物による切断以外にその痕跡は見当たらなかった。
途方に暮れていたその時、窓の外からステイビルを呼ぶ声がした。
「ステイビル様、こんなものが落ちておりました」
ステイビルは、ソフィーネから穴の開いた金貨を手渡された。
「――?」
手に取ってみると、東の王国で使用されている金貨に穴を開けられていた。
金貨には大精霊をモチーフにした模様が刻まれ、丁度大精霊の胸の部分に穴があけられていた。
「ほう……我が王国に対する宣誓布告か?」
「その意図は分かりませんが、念のため持ち帰ってまいりました」
金貨といえば、王国内で最高の通貨である。
その一枚で、店や宿でもかなりの贅沢ができる程の金額だ。
だが、その金額を無駄に穴を開け、丁度大精霊を打ち抜く形で穴を開けている。
何かに対するメッセージのようなものが含まれているのではないかとステイビルは感じ、その金貨をポケットに仕舞った。
結局その夜はこれ以上の成果はなく、ハルナたちはポッドの家の近くで休むことした。
集落の人たちは、いつもよりも人数を多めにし夜の見回りを強化した。
その中にアルベルト、ソフィーネも加わり何か起きた時の対応に備えた。
時間が経過し、夜から朝に変わろうとした。
山に向かって吹いていた風が、その向きを変える。
そして、変化が起きる。
日が昇り始めた頃、集落の入り口に向かって馬を引き連れて人が歩いてくるシルエットが見えた。
馬の上には、小さな子供の影も見える。
入り口を警戒していた門番が、その人影に向かって止まるように命令した。
だがその男は、制止を無視して集落の中に入っていった。
門番は、それを停めることが出来なかった。
馬の上には、一晩中探していた少女の姿が見えたから。
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