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第三章 【王国史】
3-60 抱えている問題
しおりを挟む「なぜ、この村は何とか自分たちだけでやろうとしているのですか?さっきも”風”一族だとかなんとか……」
カイヤムはハルナの問いに、応えようとする。
「この村には、二つの大きな家があるのです。それは、信仰している”精霊の力”によって生まれたとも言われています」
この集落には初め、二つの家族が住んでいた。
”山”側に住むブーム家、”川”側に住むシジャー家。
お互いが協力し合い水を引き、畑を耕し、山に入り猟をや木の実を取って生活をしていた。
食料や生活が安定していき、二人の家は家族も増えて繁栄していく。
中には旅の途中、この村の居心地の良さを気に入り、定住する者もいた。
そうして次第に、今のような集落が出来上がるようになった。
争いは、とある一言から発生する。
”そろそろ、この集落も数が増えてきたので、代表者が必要なのではないか――”と。
その当時も、ブーム家になじみがある家と、シジャー家になじみのある家があった。
それは単純に家の場所が近く、よく付き合いがあるからというのが理由だった。
そのため、今まで二つの家の間において争いは起きていなかった。
だが、代表となればどちらか一人となる。
それぞれの家は、信仰している自然の力があった。
ブーム家は”風”、シジー家は”水”の精霊をそれぞれ信仰していた。
当時四元素の力は、古い時代ではしばしば信仰の対象として扱われていることがこの世界では多く見られた。
この二つの家も山間から通り抜ける風と、山からえ間なく流れ続けれ水を信仰の対象としていた。
もしこの集落がまとまり一つの村となった場合、どちらの自然の力を村の振興として掲げていくのか。
そこに、大きな対立が生じてしまった。
「……そこから、二つの家の間で主導権争いが始まったと聞いています。私も幼い頃は、”シジー家の者に絶対に負けてはならない”とそう教え込まれてきました。ですが、そのことに意味を感じなくなったのが、この村の状況の変化です」
「水が流れてこなくなったこと……ね?」
エレーナのその言葉に、カイヤムは頷いた。
「私の友人の”ポッド”と一緒に、長きにわたるこの問題と現状の問題を解決していこうと話し合って決めたのです……私は、すでにこの家を出ていましたので、外からの情報や物資などでこの村を支えていき、ポッドはこの村の治安の維持を守ってもらうことにしたのです」
「いい流れだと思うが……先程のカイヤムのお父上の様子では、上手くいってなさそうに見えるな?
ステイビルは先ほどの家でのやりとりを思い出し、カイヤムに確認する。
「……恥ずかしながらその通りです、ステイビル様。この状況で未だに、自分の家が主導権を握ることしか考えておりません。正直なところ、村の方々も呆れられております」
「そうだろうな……きっと」
「とにかく、明日川の様子を見いってみませんか?もし精霊の力で何とかなるなら……」
「そうだな、いろいろと問題が絡んでいるようだからな。一つずつ解いていくか」
そう言って、この場は一旦この問題をおいて一同は食事を採ることにした。
食事は、困っている住人への考慮と、次にいつ補給が受けれるか分からなくなったので質素なメニューにした。
翌朝、ハルナたちはカイヤムに川があった場所へ案内される。
「道は、ここで途切れているのね。……あら、ここは?」
エレーナは道が途切れた先にある、少し窪んだ円形の広場に気が付く。
「今歩いてきた道が、川だったところです。いまは干からびていて、道のように泣ていますが。そしてここの円形の中心から水が湧き出て、この川を流れて村を中を流れていっていたんです」
「いま水は、足りているのですか?」
「こことは違う場所から、井戸の中に湧水が出ています。ですが、そんなに多くはありません」
「その……奪い合いとかには……なっていないのですか?」
「今のところは大丈夫です。そこまで酷い関係ではありません、助け合って暮らしております」
マーホンも、この現状を見て厳しい顔をする。
何とか手助けしたいが、今の状況では何もできない状況と判断した。
「ん?カイヤムか?」
後ろから声を掛けられて、カイヤムは振り向く。
「ポッド……か?どうしたんだ、こんなところで」
ポッドは娘と二人で手をつないで少し高いこの場所まで歩いてきた。
その手には、途中で積んだ花が、小さな手に握られていた。
「どうしたも何も、ここは我が”水”の家の神聖な場所だからな。この状況を何とかしてほしくて、いつもここに許しを請いに来ているよ。こいつと一緒にな」
まだ幼い娘は、ハルナたちの顔を見てキョトンとする。
知らない顔ばかりなので、驚いているのだろう。
その反応を見て、カイヤムが険しい顔をする。
「お、おい。ポッド……念のために確認するが、その子は……生贄とか……じゃないよな?」
「え!?」
ハルナが、いけにえという言葉を聞いて思わず声を挙げた。
「何をバカな!?大事な”チュリ―”を……そんな恐ろしいことするか!!!」
ポッドはカイヤムに対して、本気で怒った。
それが、決して怪奇な行動に出ないという証拠と判断した。
「そ……そうだよな。スマン、一応聞いておきたかったんだ」
「俺も水の精霊様を祀っているが、そこまで怪しい考えは持たないよ!!」
ほっといたハルナも、安心してチュリ―の顔見て笑顔を向ける。
小さな子は戸惑いながらも、警戒しつつ信頼したいような板挟みのような心理状態になっていた。
その戸惑いを無くしたい思いに駆られ、ハルナは膝を曲げてその子に近い目線に合わせた。
「チュリ―ちゃん……っていうんだね?私ハルナっていうの。いまいくつ?」
チュリ―は父ポッドの顔を一度見て、警戒しなくてもよいと判断し複雑な指の形で数字の二を現した。
「「「かっわいいー!」」」
その子供らしい仕草にハルナ、エレーナ、マーホンはメロメロになった。
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