上 下
208 / 1,278
第三章  【王国史】

3-39 池の探索

しおりを挟む







翌日、ハルナたちは池の周りに集まった。
大竜神”モイス”の居場所を探るため、この水がいったいどこから流れてきているのかを調べる必要があった。




前々日の騒ぎを感じさせない程、池の水面は時折吹く風で穏やかな水紋が広がっていた。
水をのぞき込むと、底がはっきりと見えるくらいの透明度の高い水が湧き出ていた。






「さて、これからどうするか」


「池の中を潜って調べてみますか?」





アルベルトが、いざとなったら自分が潜るつもりで提案した。


だが、これだけきれいな水でこの町の家庭でも使用している水。
迂闊に入ってしまっても良いものなのかと、ステイビルは疑問を感じた。。





「……ノーラン。ここでこの池の中に入るものはいるのか?」


「いえ、一応ここは生活で使用する水でもあります。この中に入って泳いだりするものはおりません」




”やはりか……”とステイビルは唸った。
王選のためとはいえ、普段の生活で使用している水を汚すことは許されないと感じたからだ。




「となると、どこから水が出ているか調べるのは難しいな……ところで、ハルナ。なぜお前たちはそんなに近くにいるのだ?」






ステイビルがそう指摘するのは、間違いではない。



先程から、皆の視線がハルナの方へちらちらと向けられていた。
ハルナの横には、マーホンとそれに対抗してノーランがハルナの横にピッタリと付き添っていた。




「いえ、私もよくわかりません。マーホンさん、ノーランさん。少し離れましょ……ね?」





そういわれて、マーホンもノーランも少しだけハルナから距離を置いた。
だが、二人の目は突き刺さるようにお互いをけん制し合っていた。


今朝からそんな様子に、ハルナも困ってしまっていたのだった。





「ハルナ……モテモテじゃないの!」


「ちょっと、エレーナ。何笑ってんのよ!?」





確か夜遅くまでソフィーネと三人で話した時、ノーランはアルベルトのことを気に入っていたはずだった。

何故だか今は、ノーランはハルナの傍を離れようとはしなかった。
その理由は、何となくわかっていた。


ノーランは、明らかにマーホンに対抗していた。
何故マーホンに対抗しているかはわからないが、一族間の確執のようなものがそうさせているのだろうとハルナは自分を納得させた。



「エレーナ!それにハルナ様も、今はお戯れになられている場合ではございません。……マーホンさん、ノーランさん。少しの間、ハルナ様からお離れ下さい」



ハルナたちは普段注意されないアルベルトから怒られ、おとなしくその言葉に従った。





「やれやれ……それで、誰か何かいい案がある者はいないのか?」



ステイビルは、呆れた顔をして見回した。




「あ……」




ハルナが一つ声をあげた。





「どうしたハルナ?何かいい案でも?」


「いい案かどうかは判りませんが、フーちゃんにお願いしたらどうかと思って」




フウカは自分が呼ばれたのだと思って、その姿を見せる。





「それは……その、できるのか?」




ステイビルは、自分のことではないため期待はしたいがうまく判断がつかず自身なくハルナに確認する。




「ねぇ、フーちゃん。この池の水がどこから流れているか調べたいんだけど……調べに行けるかなぁ」



「アタシは精霊だから水の中でもハル姉たちみたいに息をしなくても平気だけど、水の気の流れまではわからないよ……」


「それじゃ、水の精霊だとわかるってこと?」






フウカはその質問に対し、ウンウンと頷いて見せた。



この場の視線が一斉に、エレーナに集まった。







「ヴィーネ、いるんでしょ?出てらっしゃい」






エレーナは、自分の契約精霊の名前を呼んだ。






「……はーい」



明らかに嫌々な感じで、エレーナの精霊はその場に姿を見せた。






「なんで、嫌々なの?同じ水だしずっと潜っていられるんでしょ?」






エレーナは少し子供を叱るように、ヴィーネに話しかける。





「た……確かにそうだけど……嫌なんだよ。この先に”怖い”のがいるんだもん……」



「怖い……何が?」


「それは判らないけど……できれば近寄りたくないなぁ」


「ちょっと見てきなさい。危なくなったら戻ってきていいから」


「えー!やだよぉ。怖いよぉ」






維持でも拒否をするヴィーネに、ステイビルが話しかけた。







「エレーナの契約精霊、ヴィーネ様。どうか、我々のためにあなたの力をお貸しいただけないだろうか?」






ヴィーネはあまり知らないステイビルに話しかけられ、困惑している。
その上、やりたくないことを頼まれたのだ。

よく知っているエレーナなら、我が儘を言ってしまうところだが、ここは何とか断りたい理由を必死になって探す。





「なら、フーちゃんも一緒に行くから……ね。どう?」


「えー……」


「あたしも行くよ!」


「……」



「精霊様、どうか。お願いを聞き届けて頂けませんか?このマーホン、出来ることならなんでも致します」







ヴィーネは最後のマーホンの頼みに、心が動く。





「ほら、こんなに期待されているのよ。ここで、やらなかったら男が廃るわよ」






止めを刺したのは、契約主のエレーナだった。






「わかった、わかったよ!僕が、やるしかないんでしょ!?……行くけど、危なくなったらすぐ逃げるからね!?」





「もう……かっこ良いんだか、悪いんだか。頼りにしてるからね!?」






そういって、エレーナは自分の精霊に発破をかけた。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...