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第三章 【王国史】
3-38 自責
しおりを挟む結局、ハルナの目が覚めたのは翌朝だった。
少しだけ眠るつもりが、そのまま朝まで目が覚めなかった。
周囲もハルナの身体の疲れを心配し、途中で眠りを遮ることはせずそのままにしておいた。
マーホン自身も今までに経験したことのない危険な場面に遭遇し、相当に疲れているはずだった。
それよりもハルナの身体を心配し、落ち着かない様子だった。
その様子を見てソフィーネとエレーナは、私たちが傍で見ているからと説明し、マーホンは安心して眠りについた。
残ったもので話し合った後、アルベルトとステイビルは現場となった池の周辺を警戒した。
しかし、ハルナが遭遇した後は特に問題は発生していなかった。
翌日ノーランとノーブルは池から引いている川などに問題がないか確認して回った。
特に問題や被害はなく、水はきれいに浄化されているようだった。
念のため、水に関して問題があった場合は、エフェドーラの家に報告に来てほしいと各家に伝えて回った。
これでひとまず、昨夜の影響の確認を全て終えた。
「ご気分はいかがですか、ハルナ様」
「大丈夫です。ありがとうございます」
起きてきたハルナに声をかけたのは、ノーランだった。
ハルナは起きて間もないが、そんなに広くないこの屋敷の中を歩いていても、マーホンの顔を一度も見ていないことに気付く。
「あの、マーホンさんは?」
「マーホンさんですか?おりますが、昨夜の一件で酷く落ち込んでおられます。その、ハルナ様からお声かけしていただけませんでしょうか……」
「わかりました。後で、お部屋に伺います」
その言葉を聞いたノーランは、お辞儀をして自分の仕事に戻っていった。
ハルナは、マーホンが心配になる。
今まで、あの様な場面に出くわした事がないマーホンが、命の危険に晒されてしまった。
そのショックは、とてつもなく大きなものだろう。
ハルナは、マーホンの身を守れた事だけに安心してしまっていたことに対して、自分を責めたい気持ちになる。
いつもマーホンから心配されているのに、反対になると気遣いが出来ていないことを恥じた。
――コンコン
扉をノックして返事を待つが、何も応答がない。
――カチャ
カギは掛かっていないため、ハルナは扉を開き静かに中の様子を伺った。
「……マーホンさん、大丈夫ですか?」
部屋の中を覗くと、テーブルの上で伏せているマーホンの姿がみえた。
「ま、マーホン……さん?」
ハルナは、恐る恐るマーホンの背中に手を当て、声をかけた。
「……はぁわっ!」
触れられたことに驚き、マーホンは飛び起きた。
ハルナもその声につられて、驚いた。
「だ、大丈夫ですか?」
マーホンは額に伏せていた腕のあとをつけたまま、ハルナの顔を見た。
「ハルナ様、どうしてこちらに!?」
「マーホンさんが落ち込んでて、具合が悪いとお聞きしたので……ちょっと様子を」
その言葉にマーホンは目が真っ赤になり、ウルウルしながら震えだした。
「どうしました?どこか痛いんですか!?」
今にも泣きだしそうなマーホンを見て、ハルナは慌てる。
「い、いえ。違うんです……ハルナ様は、なんて……お優しい方かと……」
「え?」
今のどこにそんな優しい場面があったのかと、ハルナは思い返してみるが全く身に覚えがなかった。
「ハルナ様の昨日の出来事は、わたくしのせいなのです。私が、ハルナ様を外に連れて行かなければ、あの者たちとも遭遇することはなかったでしょう。ハルナ様はわたくしを庇って戦ってくださいました。あの場面で何の役にも立たない私がいなければ、もっと楽な戦いができたでしょうに……」
そういうと、思いがあふれて我慢ができなくなり、マーホンの目から涙がこぼれていった。
「そ、そんな。あの時は、私も必死で……で、でも。マーホンさんが傍にいてくれたおかげで、一人じゃないって思って……助けなきゃって思って……」
マーホンの姿を見て、ハルナも涙が移ってしまい泣きそうになるのを堪えながら、マーホンに当時のことを伝えた。
二人は泣き顔のまま向き合い、お互いのくしゃくしゃになった顔を見つめ合う。
「うふふふ……」
「えへへへ……」
お互い相手の顔をみて、不思議と笑いが込み上げてきた。
「マーホンさんのきれいな顔が台無し……」
「ハルナ様だって……素敵なお顔が台無しですわ」
二人は大声で笑い合った。
「……もう、大丈夫です。ハルナ様、ありがとうございました」
「私もこれから、もっともっと頑張るわね。いろんな人を守っていけるように!」
「わたくしも、私ができることを……ハルナ様たちを守って行ってみせます!」
「よろしくお願いしますね、マーホンさん!」
「こちらこそよろしくお願いします、ハルナ様!」
二人は手をがっちりと握り合って、握手を交わした。
扉の外ではノーランが自分の荷物を取りに来ていたが、中に入りづらい雰囲気だったためずっと待っていた。
だが、その口元は少しうれしそうでうらやましそうに笑みを作っていた。
「……いいなぁ。マーホン様」
そうつぶやいて、ノーランは自分の用事を後回しにして扉を後にした。
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