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第二章  【西の王国】

2-110 正体

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「……あなたは一体、何者なの?」



ステイビルは、ここで嘘をついてせっかくの面会できるチャンスを逃してしまうことは避けたいという思いと、フェルノールという人物が答えられるものについては正直に答えてくれたことに対して、こちらも正直に応えなければならないと応じた。




「私は東の国の王子で、名はステイビルという」




その情報を聞き、フェルノールの目が一瞬見開き言葉が漏れる。





「どうりで……ね」


「それでどうなんだ?カステオのところには連れて行ってもらえるのか?」




フェルノールはしばし考え込んで、結論を出した。




「いいわ。連れてってあげましょう。ただし……」


「ただし?」


「ステイビル王子、あなただけという条件ならいいわ」


「な、なりませんステイビル様!そんなの罠です、罠に決まっています!」




興奮するエルメトを横に、ステイビルはその提案について考えを巡らす。

わざわざ一人だけを指定するということは、何か思惑があってのことだろう。
幸い警備兵の装備として剣は一つ所持している。二人同時の相手となると辛いが、フェルノールは剣術を扱うようには見えなかった。

それに、この人数でも一人で堂々とこの部屋にいるということは、それなりの実力を持っている人物だろう。
故に、いまこうして攻撃しないということは、敵対したいわけでもなさそうだという判断に至った。




「わかった、私一人で行こう」


「「ステイビル様!!」」




シュクルスとエルメトは、ステイビルの決断に驚く。
だが、そんな条件を恐れて断るステイビルの姿など見たくなかったという思いもあるが、個人的なステイビルの理想像を押し付けて危険な目に会わせるほど愚かな二人ではなかった。




「流石は、東の国の次期王様ね。その決断力は見事だわ」

「……褒め言葉として受け取っておこう」



その言葉を聞き、フェルノールは背中で抑えてきた扉から少し距離を置き、振り返ってドアノブに手を掛けた。




「それでは時間も勿体ないので、さっそく参りましょうか。ご案内いたします……」


フェルノールはドアを開け、ステイビルに部屋を出るように促した。
ステイビルが部屋を出たあと、続けてフェルノールも部屋を出てドアは閉められた。

エルメトはステイビルの背中を心配そうに眺めていたが、その人物が振り返ることはなかった。









王宮内を進んで行き、フェルノールはある扉の前で立ち止まる。
その扉は、ニーナの部屋よりも立派な装飾が施されていた。

フェルノールはその扉を開き中に入り、ステイビルにも中へ入るように指示した。
ニーナの部屋は入るとすぐに、自身の部屋の様子がうかがえたが、この部屋はどうやら来賓者を迎える応接室のようになっていた。


「では、そちらでお掛けになってお待ちください」


ステイビルは来賓者用のソファーに腰を掛け、部屋の中を見回した。
武器などが飾られているが、部屋の雰囲気を損ねない丁度良い感じで飾られていた。



フェルノールは一度お辞儀をして、部屋の奥の扉に向かっていった。

カステオを待つ間、従者がステイビルにお茶を差し出した。
そのお茶を一口含んで、口の中に残った香りを鼻の奥で楽しみ、その余韻が切れる頃に奥の扉が開いた。



「お待たせした、あなたが私に会いたいという奇特な方か?」


そう言われ、ステイビルはソファーから立ち上がりその男の言葉に返した。



「突然お邪魔して申し訳ない、ご無礼をお許しいただきたい」




そして、男はステイビルにもう一度腰かけるように促し、自身も前のソファーに腰かけた。




「いえ、構いませんよ。ただ、わが国は王選の最中でして、少しピリピリとした空気が流れております。そんな中でお寛ぎ頂けるかわかりませんが、ゆっくりしていってください。東の国の王子よ」


「お心遣い、感謝致します。カステオ殿」


「ところで、今回のご訪問はどのような内容でしたか?」




先程フェルノールが部屋に入って取り次いだ際に内容を聞いているはずだが、カステオは改めてステイビルの口から聞き出そうとしていた。





「この度いろいろとあり、私の国の者たちがこの国の王選に協力し欲しいと要請があった。もう一人の候補者の側からだ」




フェルノールもいつの間にか、カステオの傍に立ち話しを聞いている。
カステオも何も言わずステイビルの顔を見つめ、話しの続きを待っている。





「その間に様々な問題ごとが発生し、誰が何の目的で襲ってくるのか判らなかった。しかし、今回はもう一人の候補者もターゲットになり最初に考えていたことよりも思惑が外れてしまっている」


「それで疑わしい私に、直接聞きに来られたと?」




ステイビルは一つ頷いたが、話しを続ける。




「それ以外に、相手の候補者のこともよく分からないまま敵対するのはどうかと思ってな。こうして話しをしてみたいと思ったのだ」





ステイビルは相手に揺さぶりをかけるために、相手の立場より上の立場からの言葉遣いで話す。
しかし、カステオもフェルノールも、ステイビルの挑発には乗ってこなかった。






「……それで、如何でした?私のことはお気に召されましたか?」




カステオも嫌味たっぷりに、下手に出て対応する。




「うむ、正直なところまだわかっていない。だが、一つだけ分かったことがある」


「ほぉ、それは一体?」





興味深い表情で、カステオはステイビルに返した。





「カステオ殿……お主は一体なぜ、魔物と手を組んでいるのだ?」






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