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第三章  【王国史】

3-34 エフェドーラ家の役目

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――コンコン





ノックした扉の中から、入室を促す返事が聞こえる。







カチャ


「……お呼びですか?祖母様」


「あぁ、忙しいところすまないね。”マーホン”」







マーホンは、今までとは異なる雰囲気をすぐに肌で感じた。
何度も来たことがあるこの部屋も、今はどこか仕事で重要な契約を結ぶ前のような緊張感が漂う。








「おや、お前はさすがだねぇ、この部屋の空気が読めるようだね。流石、現在エフェドーラ家で一番の功績を残しているだけはあるねぇ」

「……それで、一体何のご用でしょうか?」






マーホンは、ヴェーランの前に対峙して腰かけた。



先程ハルナたちの元へ行こうとしたら、部屋にはおらず全員ヴェーランの部屋にいることに気付いた。
その後に、呼ばれたことに対し苛立っているのか、それとも強い警戒か。
マーホンは、少し声に力を入れて老婆に問い直した。








「おぉ、そんなに怖い顔をしないでおくれ。年寄りは大切にしておくれよ」







そんな言葉に騙されないといった感じで、答えを待つべく視線は老婆の顔を見つめたままだった。








「これから話すことは、本家の者しか伝えてこなかった話じゃ。その役目をお前に引き継いでほしい」


「本家の者の役目ですと、わたくしの母や父がいるではありませんか」


「伝えるものを選別するもワシの役目じゃよ。すまんがお前の両親は当てはまらなかったということじゃ」


「それは、選ばれて光栄ですこと。で、その役目とは”王選”に関することでしょうか?」








ヴェーランは驚く。
先ほどの話は、マーホンには伝わっていないはず。
ここまで地位を高めてきた優れた勘が、成せる業なのかもしれなかった。





「そうじゃよ。本当は、少し早いがお前にここ、モレドーネに残ってこの役目を……」




バン!


マーホンは、テーブルを叩いて立ち上がる。






「それは、お引き受けできません。なんでモレドーネに残らないとダメなんですか!?祖母様は好きでここにいらっしゃるんでしょ?私まで巻き込まないでいただきたい!」





マーホンは、王国の町で責任をもって生活をしている。
マーホンの下で働いている者もいる。
王国でやりかけた、仕事もたくさんある。

ハルナたちの王選を応援したいとの思いもある。



その話を聞くと、このモレドーネから出られない気がしてマーホンは途中で話しを切った。







「マーホンよ。お前はエフェドーラの家をつぶす気かい?」






その一言で、マーホンは王選がらみであると確信した。

今では、そこの辺の商業ギルドよりも大きな資産をもつエフェドーラ家。
地域の問題よりは、国政に関する任務であると察したのだった。







「わたくしも、王国の町では仕事もありますし従業員もいます。それを全て捨ててまで、モレドーネに縛られるつもりはありません」


「ならば……お前たち一家は、エフェドーラの紋章を返してもらうことになるがいいのか?」






ヴェーランは、無駄だとわかっていたが脅しをかけてみた。






「えぇ、私は一向にかまいませんわ。両親も私の力で面倒を見ていきます」







ヴェーランとしては紋章返還による貴族のはく奪。
王国や他の貴族たちに投げ掛けての迫害も臭わせての発言だった。

しかしマーホンはそれ以上に、王国内でそんな影響を受けにくい地位や実績を持つ。
まして、ステイビエルや王選の精霊使い達もいる。

そんな不正が、マーホンに通用しない状況であることは確かだった。






「ぐっ!?」






ヴェーランに対してはこのような態度をとれる孫娘に対して怒りを覚えるわけでもなく、むしろこれからのエフェドーラ家に必要な人物であると確信した。







「それでは、失礼します」


「あぁ!わかった。モレドーネに残らなくてもいいよ。この役目はノーランに持っていくとしよう。だが、本家の責任としてこの話は知っておいておくれ」






面倒臭そうな顔をするマーホンは、重要な話だけ聞くという約束でこの場に残ることにした。


















――コンコン


ノックした扉の中から、入室を促す返事が聞こえる。


カチャ


「……お呼びですか?祖母様」


「あぁ、忙しいところすまないね。”ノーラン”」







ノーランは、部屋の中にマーホンが既にいることに何かあったのだと感じた。




(家に関する話?それとも祖母様がマーホンさんを探してた理由のことかしら?)







ノーランは、ヴェーランに言われてマーホンの隣に座る。






「ノーランや、お前はずっとこのモレドーネに居てくれるかい?」






突然、当たり前のことを聞かれたノーランは困惑する。
それよりも、改まって聴かれることに関して警戒心が芽生えた。







「え?えぇ。そのつもりですが……な、なにか?」



「ノーラン。お前に、このエフェドーラ家がこの地で任されてきた役目を引き継いで欲しいんじゃ」







またしても、ノーランは驚く。
本家のマーホンを前にして、ノーランはエフェドーラ家に任されてきたと言われる役目を任されると言われ状況の判断が行えなくなってきた。






「大丈夫、私はこの話をお断りしているから」







マーホンのその話しも驚いた。
エフェドーラ家の重要な仕事を、本家が断る。
既に、ノーランの思考は追いついていなかった。







「では、この話を聞いて欲しい。これはワシの母様がいた頃の話じゃ……」







ヴェーランは自分がこの役目を引き継いだ時の話を、孫の二人に話して聞かせた。



そうして、二人を池の前まで連れて行き、大竜神”モイス”と会わせてノーランに引き継ぐことを報告した。









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