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第三章 【王国史】
3-27 モイスティアからモレドーネへ
しおりを挟む「おはよぅ……ございますぅ」
いつも眠そうなハルナの朝は、さらに眠そうな顔をしている。
結局昨夜はソフィーネも一緒になって、身のない話で三人で盛り上がってしまった。
「ハルナ……なんて顔してるの?」
ステイビルもちょっと呆れた顔をして、何も言わずに立ち去った。
「あ、ハルナさん。おはようございます!昨夜はとっても楽しかったですね!」
ノーランは若さのおかげか、ハルナより元気な顔で挨拶をする。
もちろんソフィーネも、寝不足や疲れた顔は一切見せない。
どうしてそんなに平気なのか尋ねると、”鍛え方……ですかね?”と一言だけ告げた。
朝食は、普通の場所で普通のお店で食事を採った。
昨夜の食事は塩の塊を食べているだけの食事だったため、普通の軽食でも十分に美味しく感じ大満足だった。
「さて、これからだがいよいよモレドーネに向かおうと思うが、なにか意見のある者はいるか?」
「ガヴァスさ……ま。用意している荷物なんですが」
そう声をかけたのは、もう少しで誤って”様”付けで呼びそうになったマーホンだった。
荷物に関しては城下町を出る際にある程度の準備はしていたが、今回ノーランも一緒に同行することになり余裕がなくなる計算であると告げた。
だが、ほんの若干の量を増やすだけで良いという結論に達し、早速行動を起こすことにした。
「では、手分けして準備に取り掛かろう。今日の午後にはモイスティアを出発したい。では、メイル、ノーラン、エレーナとハルナでお願いできるか?」
ハルナは不満そうな顔を見せたが、日中の光を外で浴びて動いた方が眠気も覚めると言われこのメンバーの中に加わることになった。
四人は町の中を歩いて、必要なものを集めていく。
途中、エレーナの提案でお茶でも飲んで休憩しようということになり、以前オリーブたちと食べたシュークリームのようなお菓子を出す店で休憩をする。
「な……何ですか、コレ!?」
ノーランは初めて食べるお菓子に、目を丸くして驚く。
マーホンも一つ食べ終わった後、もう一つ買いに行くほど気に入ったようだった。
四人はすっかり仲が良くなり、モイスティアの町で買い物を堪能した。
もしも時間さえ許せば、このままずっと見て回りたい気持ちになった。
そして四人は買い物を終えて、宿場まで戻る。
そこには、ステイビルが四人を長い間待っていたという態度で出迎えた。
「……遅かったな。出発の準備はすでに整っているぞ」
四人は夢のような楽しかった時間から、急に現実に引き戻される。
唯一、ハルナだけがすていびるに対し、”ヤレヤレ……”といった空気を作っていた。
それから今回購入してきたものを馬車に積め、今までの荷物も問題ないかを確認した。
「それではいくぞ!」
ステイビルのその掛け声とともに、馬車はゆっくりと動き始める。
二台の馬車は宿場を出て、街中の通りを駆けていった。
ノーランは小さな窓から、流れていく街の景色を名残惜しそうに眺めてつい先ほどまでの楽しい時間を思い出していた。
馬車は賑やかな町を抜けて、静かな道に姿を変えていく。
いよいよハルナたちは、モレドーネに向かう道につながる森の入り口の関所へ到達した。
今回はソフィーネが事前に通達していたようで、関所の警備兵は軽いチェックを行い、何も問題がないとのことで通行を許可した。
モイスティアから、モレドーネまでの道程は長い。
だが、山谷を越えたり難関が多いというわけでもない。
ただひたすら、その道を進んで行くだけでよかった。
モレドーネの人口は、モイスティアの約三割程度のようだった。
その多くは、エフェドーラ一族の者たちがそこに住まわっていた。
だが、いつまでもその地にいるものは少なかった。
貴族だが、多くは町を出て自分たちの場所を見つけその拠点を築いていくもの達が多くいた。
全員が才能があり、開花するわけではない。
ほんの一粒の者たちだけが、拠点となる先々の場所で信頼を得るのだった。
エフェドーラ家の旗を掲げながら……
後方の馬車は、ノーランの荷物が増えていたこともあってモイスティアまでと異なり、モレドーネまではハルナたちと一緒の馬車に乗っていた。
日が過ぎて、馬車の荷物が減っていったとしてもノーランの席が代わることはなかった。
それ程モレドーネまでの旅の中で、ノーランはハルナたちの中に溶け込んでいた。
幸いなことに、ここまでの道程で特に大きな問題も発生していなかった。
四日目にして、明日にはモレドーネに到着できる距離までに近付いていた。
その夜――
「ノーランさん……眠れないのですか?」
「あ、メイルさん」
マーホンはテントから出ていくノーランの姿に気付き、周りを起こさない様に静かに後を追って出た。
ノーランも周りを気遣い、少し離れた場所で倒れている木の上に腰かけていた。
マーホンはノーランに許可も得ず、無言で隣に腰かけた。
それくらい、この数日間でお互いの距離は近いものになっていた。
「メイルさん……一族ってどう思います?」
「どう……とは?」
「一族って、繋がれた鎖みたいなものじゃないですか?他の貴族の方のお話しを聞いていると、序列や家の規則などで縛られていて窮屈なものだと思っていたんです」
「今は違うの?」
「はい。こうして皆さんと短い間ですが旅を同伴させて頂いて、そんな考えが馬鹿らしくなってきてしまっている自分に気付いたんです」
「エフェドーラ家は特に、そういう縛りは聞いたこと……ないわね。それはノーランが勝手に思い込んでただけなのでしょ?」
「そうなんです。勝手に”貴族の理想”を自分で持っていたんですね、多分。私たちの一族は、基本的に自由なんです。ですが、一族は廃れてもいませんよね。そういうことを大事にしている一家なのかなーって思って」
「ふふふ、そうかもしれないわね。人生はね、一度きりであなただけのものなのよ。変な鎖に勝手に繋がれる理由なんて、どこにもないわ!」
「……」
「ど、どうしたの?」
「いえ。メイルさんが、ウチの一族に居たらよかったかなーなんて……」
「え、えぇ……。さ、もう寒くなってきたし、戻りましょ!明日は、いよいよモレドーネよ」
そう言ってマーホンはノーランの肩をポンッと叩き、一緒にテントへ戻るように促した。
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