上 下
196 / 1,278
第三章  【王国史】

3-27 モイスティアからモレドーネへ

しおりを挟む








「おはよぅ……ございますぅ」



いつも眠そうなハルナの朝は、さらに眠そうな顔をしている。

結局昨夜はソフィーネも一緒になって、身のない話で三人で盛り上がってしまった。



「ハルナ……なんて顔してるの?」




ステイビルもちょっと呆れた顔をして、何も言わずに立ち去った。



「あ、ハルナさん。おはようございます!昨夜はとっても楽しかったですね!」


ノーランは若さのおかげか、ハルナより元気な顔で挨拶をする。
もちろんソフィーネも、寝不足や疲れた顔は一切見せない。



どうしてそんなに平気なのか尋ねると、”鍛え方……ですかね?”と一言だけ告げた。





朝食は、普通の場所で普通のお店で食事を採った。
昨夜の食事は塩の塊を食べているだけの食事だったため、普通の軽食でも十分に美味しく感じ大満足だった。




「さて、これからだがいよいよモレドーネに向かおうと思うが、なにか意見のある者はいるか?」



「ガヴァスさ……ま。用意している荷物なんですが」



そう声をかけたのは、もう少しで誤って”様”付けで呼びそうになったマーホンだった。
荷物に関しては城下町を出る際にある程度の準備はしていたが、今回ノーランも一緒に同行することになり余裕がなくなる計算であると告げた。

だが、ほんの若干の量を増やすだけで良いという結論に達し、早速行動を起こすことにした。



「では、手分けして準備に取り掛かろう。今日の午後にはモイスティアを出発したい。では、メイル、ノーラン、エレーナとハルナでお願いできるか?」



ハルナは不満そうな顔を見せたが、日中の光を外で浴びて動いた方が眠気も覚めると言われこのメンバーの中に加わることになった。










四人は町の中を歩いて、必要なものを集めていく。
途中、エレーナの提案でお茶でも飲んで休憩しようということになり、以前オリーブたちと食べたシュークリームのようなお菓子を出す店で休憩をする。




「な……何ですか、コレ!?」




ノーランは初めて食べるお菓子に、目を丸くして驚く。
マーホンも一つ食べ終わった後、もう一つ買いに行くほど気に入ったようだった。


四人はすっかり仲が良くなり、モイスティアの町で買い物を堪能した。
もしも時間さえ許せば、このままずっと見て回りたい気持ちになった。












そして四人は買い物を終えて、宿場まで戻る。
そこには、ステイビルが四人を長い間待っていたという態度で出迎えた。





「……遅かったな。出発の準備はすでに整っているぞ」






四人は夢のような楽しかった時間から、急に現実に引き戻される。
唯一、ハルナだけがすていびるに対し、”ヤレヤレ……”といった空気を作っていた。



それから今回購入してきたものを馬車に積め、今までの荷物も問題ないかを確認した。





「それではいくぞ!」





ステイビルのその掛け声とともに、馬車はゆっくりと動き始める。
二台の馬車は宿場を出て、街中の通りを駆けていった。


ノーランは小さな窓から、流れていく街の景色を名残惜しそうに眺めてつい先ほどまでの楽しい時間を思い出していた。





馬車は賑やかな町を抜けて、静かな道に姿を変えていく。

いよいよハルナたちは、モレドーネに向かう道につながる森の入り口の関所へ到達した。




今回はソフィーネが事前に通達していたようで、関所の警備兵は軽いチェックを行い、何も問題がないとのことで通行を許可した。






モイスティアから、モレドーネまでの道程は長い。
だが、山谷を越えたり難関が多いというわけでもない。


ただひたすら、その道を進んで行くだけでよかった。








モレドーネの人口は、モイスティアの約三割程度のようだった。
その多くは、エフェドーラ一族の者たちがそこに住まわっていた。

だが、いつまでもその地にいるものは少なかった。
貴族だが、多くは町を出て自分たちの場所を見つけその拠点を築いていくもの達が多くいた。

全員が才能があり、開花するわけではない。



ほんの一粒の者たちだけが、拠点となる先々の場所で信頼を得るのだった。
エフェドーラ家の旗を掲げながら……




後方の馬車は、ノーランの荷物が増えていたこともあってモイスティアまでと異なり、モレドーネまではハルナたちと一緒の馬車に乗っていた。



日が過ぎて、馬車の荷物が減っていったとしてもノーランの席が代わることはなかった。
それ程モレドーネまでの旅の中で、ノーランはハルナたちの中に溶け込んでいた。






幸いなことに、ここまでの道程で特に大きな問題も発生していなかった。
四日目にして、明日にはモレドーネに到着できる距離までに近付いていた。





その夜――



「ノーランさん……眠れないのですか?」


「あ、メイルさん」



マーホンはテントから出ていくノーランの姿に気付き、周りを起こさない様に静かに後を追って出た。
ノーランも周りを気遣い、少し離れた場所で倒れている木の上に腰かけていた。




マーホンはノーランに許可も得ず、無言で隣に腰かけた。
それくらい、この数日間でお互いの距離は近いものになっていた。



「メイルさん……一族ってどう思います?」


「どう……とは?」


「一族って、繋がれた鎖みたいなものじゃないですか?他の貴族の方のお話しを聞いていると、序列や家の規則などで縛られていて窮屈なものだと思っていたんです」


「今は違うの?」


「はい。こうして皆さんと短い間ですが旅を同伴させて頂いて、そんな考えが馬鹿らしくなってきてしまっている自分に気付いたんです」


「エフェドーラ家は特に、そういう縛りは聞いたこと……ないわね。それはノーランが勝手に思い込んでただけなのでしょ?」


「そうなんです。勝手に”貴族の理想”を自分で持っていたんですね、多分。私たちの一族は、基本的に自由なんです。ですが、一族は廃れてもいませんよね。そういうことを大事にしている一家なのかなーって思って」


「ふふふ、そうかもしれないわね。人生はね、一度きりであなただけのものなのよ。変な鎖に勝手に繋がれる理由なんて、どこにもないわ!」


「……」




「ど、どうしたの?」


「いえ。メイルさんが、ウチの一族に居たらよかったかなーなんて……」


「え、えぇ……。さ、もう寒くなってきたし、戻りましょ!明日は、いよいよモレドーネよ」




そう言ってマーホンはノーランの肩をポンッと叩き、一緒にテントへ戻るように促した。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...