上 下
193 / 1,278
第三章  【王国史】

3-24 犯人との遭遇

しおりを挟む





全員が部屋の中に荷物を置いて、そのあとロビーに集合した。
ソフィーネとアルベルトは念のため馬車の扉にカギがかかっていることを確認した。




「よし、集まったな。それではいくとするか」




ステイビルの掛け声とともに、食事ができる場所に向かっていく。


今回は、ソフィーネに案内を依頼した。
条件として、人目に付かず静かに食事ができそんなに高くないところ。
そして、この中で誰も知り合いがいないところという条件だった。




そうなると、町の中心から離れた薄暗い通りの店になりそういう場所だと”下品な輩”も多くいると伝えたが、ステイビルは問題ないとそこに案内するようお願いした。



一応念のため一番先頭をソフィーネが歩き、ステイビル、ハルナ、エレーナ、ノーラン、マーホン、アルベルトの順で町の中を進んでいた。


ステイビルアだけ冒険者用のローブで身を包み、その中にミドルソードを隠し持っていた。



通りのはずれに到着し、小道の中に入っていく。
左右に並んだまだ空いていない店も多く、空いている場所があっても準備中の札が下がっていた。


準備中の札が掛かっていたが、中に人がいる気配の店に入って交渉をしたが既に三軒は断られている。





「あ。あそこにもありますね、”準備中”の札が」




エレーナが指を指した場所に、ソフィーネが向かい店の扉に手を掛ける。
カギはかかっていなかったのでそのまま、扉を開き声を掛けた。





「どなたかいらっしゃいますか?申し訳ありませんが、食事をしたいのですが……」






……
…………
………………






返事がないため、扉を開けて出ていこうとしたその時。




「――何名だ?」




声が聞こえ、カウンターの奥から人が現れた。


ソフィーネは扉に掛けていた手を離して、振り返り応える。




「六名なんですけど……」





「なら、そこの階段を上がった二階の奥のテーブルを使いな」




ソフィーネは外で待っていたハルナたちに声を掛け、中に入れることを伝えた。


誰もいない店の中を六名の足とが響きわたる。
普段ならば店の中が騒がしいのでこういう音も気にはならないが、誰もいない酒場はとても静かなものだった。



ハルナが椅子を引いたとき、指先に触れたべたっとしたものが気になった。
手を見ると何も付いていないので、このまま座ってしまえばと覚悟を決めて座った。



着席後数分経ったが、注文を伺いに来る様子もない。
アルベルトが代表して、下の階まで降りて呼びに行った。





「すみませんが、メニューは無いんでしょうか?」





男は火の付いたパイプを咥え、面倒くさそうに姿を見せる。





「そんなものは無いね。食事なら、ふかしたジャガイモか麺類しか用意できないがどうする?」






口からパイプを外し、横を向いて煙を吐き出しながら言った。






「わかりました、それを人数分お願いします」



「酒は飲まないのかい?メシだけってこともないんだろ?」






そう言われ、アルベルトはエレーナの顔を思い浮かべ、飲めない自分を除いた五名分のグラスと酒も注文した。



「出来たら呼ぶ、聞こえたら取りに来な」




そう言い残して、男は奥の方へ煙と共に姿を消した。





アルベルトは、上に戻ろうとしたが壁に付いたシミが気になった。
よく見ると、血痕が付いている。
見渡せば、テーブルやイスも壊されて補強や修理された痕跡も多くある。
しかも、修復されたばかりの新しいものもあった。




(ふーん……)



アルベルトはその状況を理解し、上の席に戻った。








しばらくすると、カウンターに置いてあるベルが二回程誰もいない店内に鳴り響いた。
その合図にアルベルトとソフィーネが下の階に降りていき、出来上がった食事を受け取りに行く。



「……銀貨二枚だ」



「おい、これでか?」


「お前は、注文してから文句を言うのか?警備兵呼ぶか?」


「いいのよ、アルベルト。南の湿地帯の中で食べてた草の根よりは美味しそうだわ」


「へへ、そりゃどうも」





アルベルトは、銀貨二枚をカウンターの上に置いて食べ物と飲み物が乗ったトレイを手にする。
もう一つのトレイをソフィーネが持ち、アルベルトの後を付いて行った。



「おいおい、なんだコレは。食べ物か?」


「あら、この場所はガヴァスさんの”ご指名”でしたが?」


「む、確かにそうだが……」


「あ……案外美味しいかもしれないわ、食べてみましょう」


ハルナはふかしただけのジャガイモを一つ口に入れた。




「――!!!!」




ハルナは両手で口を塞ぎ、飲み物を要求した。




「大丈夫ですか、ハルナ様!?」


マーホンは慌てて酒を注いで、ハルナに手渡した。


ハルナはそのグラスを受け取って、口に水分を流しこんだ。




口に含んだ酒も度数が強く薬品のような味もしたが、出すわけには行かないのでそのまま我慢をしてジャガイモと一緒に飲み込んだ。



落ち着いた後、ハルナはみんなに感想を告げる。




「いやー、これ塩辛いだけの食べ物よ!?」


「え?そうなの!?……うわっ、本当だ。しょっぱいわね」




「こ、これは……お酒が進む食べ物ですね」



ノーランが、せっかく食事に連れてきてくれたことを気にして、目の前の食べ物を最大限のお世辞で感想を述べる。



「あ、そうかも。そういう場所なんですよ。きっと」



そう告げたのはマーホンだ。




安い酒場で、つまみは塩のみ。
お酒ではなく、アルコールが飲めて酔っぱらえればそれでいい。
そんな人たちが利用するお店なのだろう。


そう聞くと、アルベルトも先ほど見た下の階の壊されたものが修復される理由がわかった気がした。





何とか時間をかけて、テーブルの上に並べた食べ物を六人で食べ尽くした。

”もうそろそろ出て宿場に帰ろう”とエレーナが言いかけた時、店の扉が開き店内に入る数名の足音が聞こえてきた。


しかもその足音は、迷うことなく二階に向かって上がってくる。
もう二階にはハルナたちのテーブル以外に、足音の人数分が座れる場所は無い。


そしてその人物たちは、ハルナたちのテーブルを囲うように並んだ。



「お食事はお済かい?なら、そろそろ金目の物を置いてお帰り頂こうか」




一番最後に階段を昇ってきた男が、腰からゆっくりと剣を抜いてハルナたちに告げた。





その男の顔を見て、ノーランが指を指した。





「あー!あの人、私の荷物を持っていった人です!!」






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...