上 下
182 / 1,278
第三章  【王国史】

3-13 我慢の限界

しおりを挟む










「聞きましたよ?ハルナ様は、ジェフリー様がお気に入りなんですって?」


「え!?」





次の日からハルナの周りの世話をしてくれる従者は、ハルナの顔を見るたびに”奇妙”なことを口にし始めた。

事前に知らされていたが、実際に言われてみると嬉しくもないし嫌なものだった。




そして一日中言われた次の日の朝食のテーブルに、ジェフリーは自信満々の顔をしてハルナたちに近寄ってきた。


「どうも、皆様。おはようございます、もうこちらには慣れましたか?何かあれば、遠慮なくおっしゃってくださいねぇ。……あ、それとハルナ様。従者どもが変な噂を立てているようですね。どうか、お気になさらずに」



いやらしい笑みを作りながら、ジェフリーは流し目でハルナを見てこの場を去っていく。





「もーう、イヤッ!我慢できないわ!?」


「ハルナ、ちょっと落ち着いて……これもソフィーネさんの作戦なんでしょう!?」


「そ……そうだけど、あのネットリとした視線がね……もう嫌なのよ、エレーナ代わってよ!?」




そう言いながら、逃げるエレーナを追いかけるハルナ。
一旦、四人はハルナの部屋に戻った。




「ハルナ様、よろしいですか?今回の作戦は、ハルナ様が”気はあるが、接近し過ぎない距離感を保つ”ことが重要なのです」




(そんなことが出来ていたなら、元の世界では告白され放題だったんじゃ……)

ハルナは、その言葉を喉の奥にグッと飲み込んだ。



「そして、あのジェフリーという男は今までの話しから思うに我慢ができない性格だと思われます。いつかその”距離感”に我慢が出来ずに何かを仕掛けてくる……」


「その時を待って証拠を掴み、追いつめるということよね?」



エレーナは自分に被害が及ばないためか、全くの他人事のような言い方だった。
ただ、その分ハルナとジェフリーの距離感を近い位置から見ていられた。




「ハルナ様、アナタしかいないのです。この状況で、ジェフリーに対し交渉できそうなのは。物や金では、あの男に対して交渉の材料にはなりえないのです」


「だから、ワタシが……ってことなんでしょ?……嫌だけど」


「聞き分けの良い娘は、好きですよ」




ソフィーネはハルナに向かって、にっこりと笑った。








その日から、ジェフリーの行動はエスカレートしていった。


ハルナを見かけては、話し掛けはしないが近くまで寄ってきたり、ハルナたちの部屋の外でわざと大きな声で取引の話しをしたりと自己アピールが火を追うごとにその行動が面倒臭くなっていく。


そんな状況に、ジェフリーも進展がないためイラつき始めたが、ハルナも相当ストレスが溜まっていた。



ここまでくると、ハルナも意地になっていた。
自分が爆発してしまっては、今までの我慢が無駄になってしまう。

自身にそう言い聞かせて、この作戦の最終局面を勝利で乗り越えようと努力した。



そして、我慢比べは終わりを迎える。






――ドンドンドンドン!


夜、ハルナの部屋の扉を力強く叩く音がする。

その音に紛れて、狂ったように叫ぶ声も聞こえてくる。




ソフィーネはゆっくりとドアに向かい、ドアの先の人物に声を掛けた。




「こんな夜に、どなた様でしょうか?」




叩きつける音とハルナの名前を叫び続けているため、その問いは聞こえていなかったようだ。


仕方なくソフィーネは、ドアを開けた。



「おぉ、ソフィーナ殿!ハルナを……私のハルナを!?」


「ハルナ様は、ただ今湯浴みをされておりますが?」


「ハルナ様はお疲れです、面会をご希望の場合はまた明日、……」


ソフィーネが言いかけた途中で、ジェフリーは部屋の中へ強引に入ろうとする。
それをソフィーネが身体を入れて塞ぐ。


その行動を不快に思ったジェフリーは一旦下がり、手を挙げて合図をすると背後から強靭な男が現れた。
男の一人はソフィーネの腕をつかみ、ジェフリーが中に入れるようにとソフィーネを通路側に引き出そうとする。
そのイメージ通りいくはずだった……
その瞬間その男に肘は、普段なら靭帯と関節の構造によって行かないはずの角度で曲がっていた。




――うごぉっ!?




男は思わず埋めぎ声をあげ、反対の手で腕を抱えてその場に座り込む。



「女性に対しての扱いが全くなっておりませんね。これまで何をして生きてこられたのですか?」



ソフィーネは、凍り付きそうな冷たい視線で男をにらむ。
男は痛みhを堪えるために、その言葉は耳には届いていなかった。



「ジェフリー様?あなたは今、何をしたのかわかってらっしゃいますか?」




ジェフリーはソフィーネの問いかけで、その一連の信じられない光景から目を覚ました。




「ヒィっ!!」



ジェフリーは床を這うようにして、ソフィーネから距離を取る。



「本当に、失礼ですわね。化け物を見るような怯えた目で……まぁ、嫌いじゃないですけどね」




そういうと、ソフィーネは腰に腕を前で組んでジェフリーに歩み寄っていく。




「た、助けてくれぇーーー!?金はいくらでも払うから、助けてくれ!!!」


そう言って、頭を抱えて床にしゃがみこんだ。





「やっと、自分の立場が理解できたようですわね」





ソフィーネは、ジェフリーの髪の毛を掴んで頭を無理やり引っ張り上げる。





「小さな世界で、おとなしくしていればこんな目に会うこともなかったでしょうに……ねぇ」




ジェフリーは、恐怖で既に自分の身体のコントロールが効かない。




「とにかく、アナタのことは明日ステイビル様からお話しがあるようです…今回のこと”も”ご報告しておきますわね」






ソフィーネは、手を離しジェフリーの身体を開放する。

そして身動きが取れなくなったジェフリーを連れて帰るように、片腕が使えなくなった男に伝えた。









しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...