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第三章 【王国史】
3-11 ジェフリー・コリエンナル
しおりを挟む男は自分の名を告げて、話しを聞いてくれる状況を与えてくれたことの感謝を伝えた。
「それで、”助けて”とは一体どういうことなのですか?」
エレーナは、落ち着かせる間もなく本題に入らせた。
ここにずっといては、怪しまれるだろうしベスと名乗る男のことも危険になりそうだった。
「実は、ジェフリー様はハルナ様のことが気に入られているのです……」
「うぐぅ!?」
その事実を聞いて、ハルナはさっきお腹に入れた全てものが込み上げてくるのを必死に抑え込んだ。
ベスはそのまま話しを続ける。
「申し訳ありませんが、わたしもハルナ様がジェフリー様のことを気に掛けている様子がうかがえるといってしまい、ハルナ様の気持ちを聞いて来いと命令されたのです」
「その持ち帰る答えは、”良い答え”以外はありえないと?」
「その通りです。でなければ、あの方に何をされるか……」
アルベルトの代返に、ベスは申し訳ない気持ちと自分が崖っぷちに立たされている気持ちが入り混じる。
「……でも、それって。”私たちには”何の被害もないんじゃない?」
エレーナが、気軽で無責任にこの問題の本質を告げる。
ここで、悪い答えをこのベスという男が持ち帰ったとしても、この男が勝手に処罰されるだけなのだ。
もしもジェフリーが、ハルナたちに逆恨みな行動をとったとしても、正式に手配をすれば施設の管理者が他の者に変えられるチャンスとなり良い機会かもしれないと告げた。
ハルナもそうなると嬉しいことは嬉しいが、何か喉の奥に引っ掛かった感じがする。
「ですが、エレーナ様。調べによりますと、ここの施設を建てる時、王国との契約で協力者の投資が全体の八割負担してくれることが条件となっております。財産の没収規模の、余程の悪事をコリエンナル家が犯さない限り簡単には管理者の変更は難しいかと」
「うへぇ、そうなのね!この建物、無駄にお金がかかってそうだし……」
それでもまだ、ハルナの中で引っ掛かるものは解消されなかった。
しかし、ハルナはその存在の理由に気付いた。
「ねぇ、ベス……さん。聞いてもいいかしら?言いたくなければ答えてくれなくていいんだけど」
「はい、どのようなことでしょうか?」
ベスは今までと違う話題を振られ驚きながら、ハルナの言葉に応える。
「えっと……あなたはなぜ、そんなジェフリーという男の下で働いているの?嫌だったら辞めてもいいんじゃないの?」
この問題は、ハルナのいた世界でもよく聞く問題だった。
人によっては、会わない職場はすぐ辞めてしまい次の場所を探したりしている友人知人もいた。
様々な理由で辞められず、結局仕事や職場にも馴染めず身体を壊したりするという話もよく耳に入ってきた。
まずは、その理由を確かめたいとハルナはベスに問いかけた。
「実はお恥ずかしい話ですが……」
ベスとジェフリーは、幼馴染だった。
ベスは体格が良く、ジェフリーは家で本ばかり読んでいるような子供だった。
ベスはそんなジェフリーを構って”遊んだ”。
それは、俗にいう”イジメ”だった。
一人で過ごしたいジェフリーにとっては、迷惑この上ないことだった。
だが、それに反抗するとエスカレートしていき、酷い怪我を負うこともあった。
そんな時代が青年期まで続いたがある日、立場が逆転するような出来事が起こる。
ベスの家に多額の借金が発覚したのだった。
その金額はとても普通では返せない程、金額が膨れ上がっていたという。
町の中でも有名な、悪徳金融から融資を受けていたようだった。
ベスの家は、家も資材も全て売り払った。
だが、一向にその返済金額には届くものではなかった。
そして、その業者からはベスの妹を売りに出すことが提案された。
ベスは、何とか知り合いを当たり、金の工面に奔走した。
そこで名乗りを上げたのがジェフリーだった。
ジェフリーの家は、商人の家で平均以上に裕福な家庭だった。
なので、少しだけ無理をすればベスの家の借金を返済することは可能だった。
無事、ベスの家はコリエンナル家の助けによって平穏な日々が訪れる。
――はずだった
ジェフリーは、今までとは違う自分への態度に立場が逆転したことを感じる。
それからこれまでの恨みを晴らすかのように、ベスに無理難題をけしかけてきた。
まず、妹のユウナと結婚前提で付き合うことに決めた。
ユウナはベスが大事にしている妹だが、器量がそんなにいいかと言われればそうでもないといった感じだった。
ジェフリーは一方的に決めたことと、それまで女性との交際経験が一切なかったためすぐに嫌われるだろうと思った。
だが嫌がらせで、絶対に別れないと決めていた。
お金だけを与え、愛情も何もないストレスのたまる生活……そう、自分が幼い頃過ごしたあの生活のように。
だが、ジェフリーの方もその期待が裏切られた。
ユウナはジェフリーに対し、自分を助けてくれたお礼に尽くした。
例えどんな嫌がらせをしようとも、ユウナは笑ってジェフリーの傍から離れなかった。
そこからジェフリーの計画していた、ユウナの不幸から妹思いのジェフリーを苦しめていく計画は徐々に狂っていく。
昼夜問わず、ユウナに対しどんなことを命令しても決して嫌がることはなかったからだ。
そのユウナ態度に、ジェフリーも少しずつ気持ちの中で変化が生じ始めていた。
ある日、ジェフリーは手に小さな花束を持ってユウナの部屋に訪れた。
ジェフリーは初めて、家庭を持ちたいという気持ちになっていた。
今日は、そのことを”命令”するつもりでいた。
ドアの前で数回深呼吸をし、花束を持つ反対の手でドアをノック仕掛けて止まる。
よく聞くと、中からユウナが男性と話している声が聞こえてきた。
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