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第二章  【西の王国】

2-135 マギーの宿で

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一同は周囲の安全を調査し、馬車にも問題がないことを確認して再び道を進み始めた。

辺りは日が落ちかけており、進む馬車の影が長く伸びていた。



ようやくマギーの宿が見えて、一同はそこに馬車を止めた。

ハルナたちはここに来るまで一言も言葉を交わさず、体力の回復に努めていた。
がしかし、休める場所に到着したことで、気持ちが楽になった。

馬車の扉が外から開かれ、順に用意された台を降りていく。




「ようやく到着しましたね。もう、クタクタです……」




クリエが疲れ切った表情で、誰かに拾ってもらえることを期待した愚痴のような独り言をつぶやく。




「最後の最後で、アレの相手はね……」


「でも、エレーナさん。まだ片付いたわけではないですよ?ですが、私ももう疲れました」



「……早く、早くお風呂に」



最後に髪の毛がぼさぼさのハルナが、馬車を降りていく。



他の馬車からも降りてきており、前方を走っていたハルナたちの元へ集まってくる。



「どうした、ハルナ。随分と疲れているようだな」


「あ、ステイビル様。少しだけ、疲れましたね……」




ハルナは、ここで大丈夫と言える気力も残ってなかった。
何よりも、ヴァスティーユの最後の言葉が気になっていた。


シュクルスはハルナを気遣いそれ以上の言葉は交わさず、肩を一つ叩いてハルナの後方へ歩いて行った。




すると、マギーの宿から一人飛び出してこちらに向かってくる姿が見えた。



「ようこそー、いらっしゃいませー!!!



こんな場所で明るい元気な、しかも聞き覚えのあるような声が遠くから聞こえてきた。

日が落ちかけた暗い中、徐々に距離を縮めてその姿は見え始めた。




「ようこそ、おいでくださいました。ハルナさん!」


「え?アーリスさん、どうしたんですか!?」



ハルナは、エプロン姿のアーリスを見て驚いた。
今までは、どんな時でも警備兵の制服姿のアーリスしか見たことがなかった。

ハルナは何だかレアな姿を見たのではないかと思い、嬉しくなって気持ちが昂った。


「どっどっ、どうしんたんですか!?今日は、非番なんですか!?」


「あ。私、警備兵辞めたんです!」



「――え?」



ハルナの傍にいたエレーナも、突然の状況の変化に驚きを隠せなかった。



アーリスは事情を知らないハルナたちに、警備兵を辞めるまでの経緯を説明した。




「そうだったの……でも、マギーさんは喜んでるんじゃないの?」


「はい、とっても喜んでくれています!あとは、もっと頑張るだけですね!」


「アーリスさんなら大丈夫ですよ、顔もいいしお料理も上手ですしきっと宿も繁盛しますよ!」


「そ、……んもぉ。ハルナさんったら、お上手なんだからぁ」


アーリスは耳まで真っ赤にして、ハルナの言葉を真に受けて照れてしまっていた。




「おい、アーリス。何をやってるんだ、早く宿に案内してさしあげろ」


「……エルメトさん!」


エルメトの姿も、厳しい戦いの場を切り抜けるための重々しい装備ではなく、正反対な家庭的な姿になっていることにハルナは驚いた。



「ハルナ様、エレーナ様、ステイビル様も。ようこそおいで下さいました。……暗くなってきたことですし、どうぞ宿の中へ。マギーさんもお待ちですよ」


ハルナたちは、エルメトとアーリスの後を付いて宿へ向かおうとした。
が、後ろから呼び止められる声がする。



「ステイビル王子、それでは我々はこれにて失礼します。今回は、わが国にご協力いただき深く感謝致します。このご恩を我々は決して忘れません……」


「うむ、そんなに堅苦しくせずともよい。今回の件で、カステオ殿とも知り合えるきっかけができたのだ。今後、これが双方の益となることを願っておるぞ」



そういって、ステイビルはここまで送り届けてくれた王宮警備兵の隊長を労った。



「でも、暗くなったことですし。出発は、明日にされた方が……」




クリエが声を掛けるが、隊長はその申し出に対して首を横に振る。




「いえ、我々は大丈夫です。それに、先ほどのような奇襲はもうないでしょう。それに、あの宿には会いたくない男もいるのでね」




そういうと隊長は、エルメトとアーリスの傍に寄って話しかけた。



「お前たちも、よく頑張ったな。これからの国のことは忘れて我々に任せて欲しい。……と、あの男にも伝えておいてくれないか?」



隊長は宿の方を向いて十数秒間、敬礼をした。
周りも黙ってその姿を、見守っていた。




「では、これで失礼する。二人とも、頑張れよ」


「「はいっ!」」



つい先ほどまで普通の宿屋の定員のように穏やかな表情をしていた二人だったが、これで最後となろう敬礼で一瞬にして警備兵の表情に戻った。




ハルナたちを送り届けてくれた馬車は、西の国を目指して暗闇の中を走り出した。
ほんのわずかなランタンと月明りだけを頼りにしながら。



その姿を見送ったハルナたちは、今度こそエルメトに連れられて宿に向かって歩き出した。

そして、そこには心配そうな顔で出迎えるマギーの姿があった。



「ハルナ……無事だったのかい!?」


「マギーさん、ご迷惑をお掛けしました」




ハルナは、シュクルスの剣の際にこの宿を騒動に巻き込んでしまったことを詫びた。


「そんなことはいいのさ、アーリスや東の国の警備兵の方も守ってくれたからね。ハルナが、指示してくれたんだろ?それに、お前たちが無事ならそれでいいんだよ……」



「その件については、私からもお詫びをしておきました」


また、聞き慣れた声が店の入り口の奥から聞こえ、その姿をあらわす。



「ボーキンさん、スィレンさんも!」




こうして、西の国の王選でニーナを支持していた者たちがこの宿に集まった。







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