問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

文字の大きさ
上 下
163 / 1,278
第二章  【西の王国】

2-132 2+2

しおりを挟む



――数日後。


まだ、太陽が昇り切っていない時間帯。
そこには、二つの人影があった。


人影は、修理されて間もない新しい家の扉を閉めて鍵をかける。


人影の一つが家のシルエットを見上げ、胸の前で手を組んで物思いにふける。
もう一つの人影が、近付いてその肩に手を置いた。




「……そろそろ行こうか、スィレン」


「えぇ、あなた。ここにはたくさんの思い出があったから……離れるのは少し悲しいわね」


「すまんな……わたしが過ちを犯してしまったばかりに」


「ううん、違うのよ。それとこれとは別。もし、私もあなたと同じ立場だったなら、同じようなことをしていたと思うわ。だから、あなたの行動や決断を否定する訳ではないのよ。むしろ生かしてもらえて、これからもあなたと一緒に過ごすことができるだけでも感謝だわ」


「スィレン、お前と一緒になれたことを嬉しく思うよ」


「私もよ、ボーキン」




ボーキンは最愛の妻の名を呼び、向き合ったスィレンと抱きしめ合った。

二人は、家を後にして関所に向かって歩き始めた。

















関所にたどり着くと当直の警備兵が立っており、国への出入りを管理していた。
ボーキンはその警備兵に、国民であることを示すカードと警備兵のバッジを手渡した。



警備兵が関所の門を開き、ボーキンとスィレンがその間を通っていく。
二人が関所を抜け、立ち止まると警備兵が後ろから声をかけた。


「ボーキン様、今までご苦労様でした。直接お会いしたことはございませんでしたが、あなた様のことは聞いております。どうか……どうか、この先もお元気で」


ボーキンが振り返ると、警備兵が敬礼して見送っている。
ボーキンもそれに応えるべく、同じように敬礼し返礼した。

ボーキンと警備兵は敬礼を解き、そのまま振り返って再び王国を背にして歩みを進め始めた。
背後からは、関所の門が閉じられる音が聞こえた。




暗かった空が赤みを帯び始め、明かりが必要ないほどに足元が見え始めた。
背後には、もう長年住んできたあの街の姿は見えなくなっていた。




(さて、これからどうするか……)




お互いが気使い、話題に出せなかった問題。

ボーキンが意を決して、その問題を二人で解決し始めようと決めたその時。





「……!!」





ボーキンの背後から声が聞こえた気がした。
立ち止まり二人で背後を振り返ると、そこに逆光で姿はわからないが二つの影が見えた。





「……ンさま……お待ちください、ボーキン様ぁ!!」






ここ数年の聞き覚えのある声に、逆光に目を細めてその姿を確認する。
それは、エルメトとアーリスの姿だった。


二組の距離は縮まり、お互いの顔が認識できる距離となっていた。
とうとうエルメトたちはボーキンに追い付き、息を落ち着かせるために深呼吸を何度か繰り返した。





「おぉ、お前たちか。どうした、もう私は上官でもないが何か用事か?それとも、わざわざ見送りに来てくれたのか?」




最初に息を整えたエルメトが、その言葉に対して返答する。




「私たちも事情がありまして、警備兵を退役しました」




ボーキンはとっさのことで、エルメトが何を言っているのかわからなかった。
時間が経過し、エルメトの言葉がようやく飲み込めた。





「なぜ、お前たちまで!?まさか……私に付いてきて」


「いえ、そうではありません」




ボーキンの発言をはっきりと否定されたことに対し、少しだけ残念に思う気持ちとその辞めた理由が気になった。




「なぜ、お前たちが辞めなければならなかっのだ?……もしかして、誰かに嫌がらせを受けたのか!?」


「そうではないのです、ボーキン様。これは私たち兄妹が考えての行動なのです」




話を聞くとアーリスがマギーの宿の警備を行っていた時に、いつか宿屋で働かせてくれないかと頼んでいたようだった。
その話を受けて、マギーは大喜びした。
ただ、エルメトもアーリスも国を守る大切な任務に就いている身であり、王選においてはボーキンの補助役としても必要であるとのことで、今すぐでなく全てが一段落してから来てほしいとアーリスに伝えていた。




「……そして今回の件で、はっきりと結果は出ていませんが、王選もカステオ様に決定するのでしょう。国の警備も良い仕事だと思いますが、山を守るのも重大な仕事ではないかと思いました」


「私たちの両親も山がとっても好きで、その管理に携われることが将来の夢でした。兄と私は、警備兵でその力を身に着けることができたと思います。ボーキン様のおかげです」


アーリスが、笑顔でボーキンとスィレンに話しかける。




「それじゃ……あなたたち、これからマギーさんのところへ?」


「はい!これからお世話になろうと思っています」




スィレンの言葉に対し、アーリスが応じた。






「……ところで、ボーキン様はこれからどうなされるのですか?」



ボーキンは、先ほどスィレンとこれからその相談を仕掛けたことを思い出す。
だが、何も決まっていないため、エルメトへの質問に答えることができなかった。



「私たちはこれから、自由なの。何をしても構わないし、これから先の予定も自由に決めていいんだから!」



スィレンが、両手を広げて誇らしげに答える。
その笑顔がボーキンは眩しく、今までその話題を出すことに後ろめたさを感じていた自分が恥ずかしく思えた。



「じゃあ、それなら一緒にマギーさんのところへ行きませんか!?」


「ん、アーリス。それはいいアイデアだな!まだまだ教えてもらいたいこともあるしな!ボーキン様も、急ぐ旅でなければご一緒にいかがですか?」



突然の提案に、ボーキンは呆けて思考が止まる。
ボーキンはエルメトと視線を合わせたまま、何も話さない時間が数十秒続いた。


――ドン!?



ボーキンの背中に衝撃が走る。
スィレンが、ボーキンの背中を叩いていた。


「いいじゃないの、一緒に行きましょうよ」



スィレンは、これから起こる楽しそうな出来事に目を輝かせてボーキンに話しかける。
その目を見ると、ボーキンはその答えに”断る”という選択肢が選べないことを悟った。



「……あぁ。それもいいな、急ぐ旅じゃないし……な」


「やったー!そうと決まれば、早くいきましょうボーキン様!」



ボーキンとスィレンはアーリスに手を引っ張られて、歩を進めることを強要され歩き始めた。


ボーキンとスィレンはお互いの顔を見合わせ、微笑み合った。



(これからまた、忙しくなりそうだな)

(えぇ、そうね。あなた……)




そう心の中で言葉を交わし、アーリスの後をついて行った。




空はいつの間にか青空が広がり、壮大なディヴァイド山脈の頂上がはっきりと見渡せることができた。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...