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第二章 【西の王国】
2-129 ヴァスティーユ
しおりを挟むアーリスは、昨夜聞いた話をボーキンに伝えた。
その内容を聞き、ボーキンは憤慨する。
「何を馬鹿なことを!その行為が、どれほどの被害を生じさせるかわかってないのか!?」
しかも、その二人の名は元ボーキンの部下だった者だ。
その者たちが大きな間違いを犯すことは、黙って見ていられなかった。
(もしもこれが、王子の指示だとしたら?)
しかも、ニーナからカステオに、最近怪しい女性が相談役としてついたと聞いた。
ボーキンの中の王国や王子への不満は、限界のところまで来ていた。
だが、その前に大惨事となることを防がなければならない。
「アーリス、エルメトに討伐の準備を急がせてくれ。ビルメロたちよりも先に、解決しなければならない!」
「お待ちください、ボーキン様。ですが、東の国に連絡したり他の生き物を保護したりしなければならないのでは?」
「アーリスよ、そんな生温いことを言っている場合ではない。火事を起こさせてしまうと、手柄も相手にとられてしまうのだ」
「で、ですが。山火事が起きてしまうのを止めなければ、東の国にも……」
ボーキンは食い下がってくるアーリスに苛立ちを感じ始める。
ことは急を要し、早く手を打たなければならない。
ボーキンはアーリスに指示を出す。
「わかった、そこまでいうなら猶予をやろう。ビルメロの隊が山に入る時間は三日後だったな?それまでに、東の国に知らせて協力を得られるようにしろ。もしくは、知性のある魔物がいれば交渉してみるのもいいだろう……ただし、人員は裂けられない。一人で行くことになるがいいか?」
ボーキンはこの指示でアーリスが諦めれば、良いと思った。
万が一うまく行くならば、東の国の協力も得られるとこになる。
しかし、アーリスの実力ではこの指令を諦めると思っていた。
「わかりました、行ってきます!」
アーリスは自分にしかできない指示が与えられたのだと思い、その命令を快く承諾した。
その日の夜、アーリスは準備を進め明日の朝にはディヴァイド山脈を越える計画を立てる。
一日で国を出て、山を越えて西側のふもとに着くにはかなり無謀な計画ではあるが、アーリスは両親が存命だった頃は山の中で育ってきたので登山は得意としていた。
警備隊施設で準備中の時、ゴーフたちの山に入る計画も予定どおりに進められていると聞いた。
(何とか早く協力者を……)
翌朝、アーリスは日が昇る前から馬を出してディバイド山脈の入り口を目指し出発した。
アーリスが出発してから朝日が昇り終えた数時間後、エルメトがボーキンの元へ駆け込んでくる。
「ボーキン様!一大事です!!」
「どうした、エルメト。こんな朝早くから」
「準備をしておりましたディヴァイド山脈の討伐ですが、急に本部から不許可の連絡がありまして……」
「なに!?どうしてだ……何か理由を言っていたか?」
「ボーキン様の隊からは既にアーリスが行っているとのことで、我々の出発ができなくなってしまったのです。急に一つの隊が同一案件を重複して行えないとのことでした。今まで、そんな制約は聞いたことありません」
「分かった……エルメトは何が起きても対応できるように準備をしておけ!」
「はい!」
ボーキンは自分の出した指示の浅はかさと、どこまでも邪魔をしてくる王子陣営に苛立ちを覚える。
「おのれ、カステオめ。どこまでも私の邪魔をするつもりか!?」
ボーキンは頭を冷やすために、城下町に出かけた。
そこで、いつも利用している店に入り酒を注文する。
「すまんが、いつもの奴を頼む」
そう注文し、代金のコインをカウンターの上に置いた。
そして、店の主は注文の品をグラスに入れて持ってきてコインを仕舞ってボーキンに差し出す。
「ボーキン様……うちとしては利用して頂きありがたいんですが……その、いいんですか?仕事中なのでは」
「少しくらい、いいだろう?……この店には、迷惑を掛けんよ」
そう言って、ボーキンはグラスを引き寄せ一口飲み込んだ。
「……あら、昼間からいい御身分ですこと。きっとすごいお偉い様なのでしょうね?」
ある女性が、ボーキンの背後に向かって話しかけてくる。
ボーキンは振り向き、その女性の姿を確認する。
「はて、どちらの方ですかな?私はあなたのような素敵な女性に覚えがないのですが……」
女性の妖美な容姿に興味を持たず、嫌味を含ませながら声をかけられた主に返答した。
「あら、ずいぶんと失礼な方ね。この私に対して、無関心な返答をなさるなんて」
その女性は、馴れ馴れしくボーキンの肩に腕をかけて嫌味に対して反撃する。
ボーキンはグラスに注がれた飲み物を一口で飲み干し、反対の手で乗せられた腕を振り払った。
「すまぬが、お主と遊んでいる暇はないのだ。床の相手を探しているなら他を当たってくれないか?」
苛立っている時期に、ちょっかいを掛けられて更に自分を苛立ちを上乗せしてくる女性に対し、ボーキンは普段使わない陵辱する言葉で女性を自分から離そうとした。
「そんなに私の事が嫌いなの?私はあなたのその中にある醜い感情の香りが大好きなのよ……ボーキン」
!?
ボーキンは突然自分の名前を呼ばれたことと、心の中を読まれたことの驚きを隠せなかった。
「あら、やっと私の方を向いてくれたのね。話をしてくれる気になった?」
「お、お前は何者なのだ?」
「私は、ヴァスティーユ。あなたが抱えている問題にとっても興味があるのよ」
ヴァスティーユはそう言って、ボーキンの隣のカウンター席に腰を下ろした。
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