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第二章 【西の王国】
2-107 接触した人物
しおりを挟む三人は王宮内で、誰にも見つかることなくボーキンが手配してくれた馬車に乗り込んだ。
その馬車は、警備兵の常駐する他施設へ書類や連絡用の書類を運ぶための定期便の馬車だった。
そのために台も大きく、大小五名の人間が隠れていても怪しまれることはなかった。
エルメトたちは定期ルートの途中で降りて馬車を変え、ボーキンの家まで向かっていった。
「ハルナさん、ニーナ様を診てくださいませんか?黒いシミで苦しまれているようです!」
「え!?わかりました、今行きます!……聞こえてた、フーちゃん?、用意はいい?」
「おっけー、まかせてよー!!」
ステイビルは苦しみをなるべく刺激しない様に、静かにベットの上にニーナを降ろした。
その部屋に、ハルナとエレーナが入ってくる。
場所を確認したが、首元よりももう少し下まで、広がりつつあるようだ。
「はいはい、男性はここから出て頂きますよ」
心配そうに見つめる、ステイビル、エルメト、シュクルスは、その言葉の意味に気付き慌てて部屋を出た。
アーリスとハルナとエレーナで、ニーナにお詫びを言いながら着ていたドレスを脱がす。
すると、左の肩口から胸部中央の心臓に向かってアメーバのように黒いシミが伸びていた。
「フーちゃん、お願いね」
フウカがハルナの背中から飛び出して、左肩の黒いシミを見つめる。
そのまま、フウカは手を伸ばして光を黒いシミに照射した。
当てられた場所から、少しずつ黒い霧が蒸発していくのが見える。
「ニーナさん、痛くないですか?」
この行為に痛みが生じるのかはわからないが、苦痛ではないかハルナは念のため確認する。
ニーナは光を当てられた時から、苦しみが和らいでいることに気付く。
それよりも、じんわりと暖かく心地良さを感じる光だった。
フウカ曰く、『モイスティアでの食堂のお姉さんの黒い物よりネバネバしてしつこい!』と。
だが、時間を掛ければ消すことができ、以前のものより表層に付いているからニーナのダメージは少ないとのことだった。
そこから一時間が経過し、黒いシミはニーナの身体から消し去ることができた。
フウカは疲れたと一言残し最近お気に入りの居場所である、ハルナの髪の毛の中に隠れた。
三人はニーナにネグリジェを着せて、横にさせた。
「終わりましたよ」
アーリスは、別の部屋で待機していた男性陣に声を掛けた。
一緒に部屋に行き、無事を確認する。
「ご心配おかけして、すみませんでした……」
ニーナは恥ずかしそうに、この場にいるみんなにお礼を告げた。
「ほんと、タイミングよく見つけられてよかったわね」
エレーナは結果オーライといわんばかりに、元気よくニーナに返した。
「気になることがあるんだが……それは病気なのか?」
ステイビルが確認し、それに対しキャスメルが答えた。
「病気とは違うと思う、病気となると病原菌があり他者に感染する可能性がある。この黒い物について考えてみたんだけど、ハルナたちの話からアンデットや闇の使い手のようなものたちがつかうから、呪いや魔物の力のせいじゃないかと思う」
キャスメルもあの恐怖の日から感情は消されたが記憶としては残っているため、それらの事象について調べていた。
こういうことは、ステイビルよりも得意だったようだ。
「ということは、その……魔物に襲われたのか?」
ステイビルの言葉に即座に反応したのはエルメトだった。
「ステイビル様、王宮内に魔物がいるとか恐ろしいことをおっしゃらないで下さい。もしそれが本当なら被害も出て大事になっているのでは?」
と言い終えたところで、エルメトはあることを思い出した。
「切れた……ネックレス……行方不明……もしかして」
「そうだよ、最初から疑っていたフェルノールという人物じゃないのか?」
「ニーナ様、今日フェルノールとお会いしていませんか?」
アーリスがステイビルの推理を元に、ニーナに確認をとる。
「そうですね、今日はどなたともお会いしておりません……」
「では、今日接触した人物は?」
ステイビルは、もう一度誰かと会っていないかニーナに問い直す。
ニーナはゆっくりと身体を起こす、アーリスはニーナの背中に手を当ててその動作を補助をする。
「今日お会いした人といえば……思いつくのはお世話をしてくれる従者の方だけですね」
「その従者は、いつも見る人?」
キャスメルがこの場に入って来て、その人物について確認する。
「?……何度かお見掛けしたことありますし、ご挨拶程度ですが言葉を交わしたこともありますが」
「今日お話した人物は一人だけですか?挨拶だけですか?接触はありましたか?」
キャスメルは立て続けに、質問を続ける。
そのことをアーリスは止めようとしたが、ステイビルが目で制した。
「アーリスさん。ありがとう、大丈夫です。……キャスメルさんのご質問ですが、お話しもしましたし着替えを手伝って頂きましたね」
「そうですか……」
そうため息のような返事をすると、キャスメルはステイビルに目で合図をする。
「うむ、それではその者に話を聞きに行くとするか。何か知っているかもしれないからな」
「え、それって王宮内に敵がいるってこと!?」
エレーナが驚きの声を挙げる。
「それを確かめに行くんだろ?」
そういって、ステイビルはエルメトに王宮に戻るように手配させた。
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