上 下
155 / 1,278
第二章  【西の王国】

2-124 フェルノールとの記憶3

しおりを挟む






その日から、フェルノールはカステオの専属相談役として配属されることになった。


役職としては、従者よりもやや高い役職であるということでお触れを出した。
従者の仕事を押し付けられない程度で、比較的自由に王宮内を出入りすることができるためこの職の上級クラスが動きやすいと判断した。

これは、フェルノールからの希望でもあった。




そして、フェル―ノルの王宮内での生活が始まった。



まずは、王宮内を一人で歩いて行く。

すれ違う様々な人の様々な感情が、フェルノールの中に流れ込んでくる。
穏やかな者、恨みがちな者、弱気な者、怒りっぽい者、他人に興味が無い物……



(こんな気持ち悪いところ……姉様方が好みそうね)



そして、フェルノールはカステオの部屋に戻っていった。


「どうだった、城の中の様子は?」


「なかなかね、……良かったわ」



その言葉が、褒め言葉ではないことにカステオは気付く。





「そうだろう……な。王になるということは、そういう者たちの上に立たなければならないということなのだ」


「ふーん、人間も結構大変なのね」





創ってくれた母様を離れてから、自由気ままな生活を過ごしてきたフェルノールにとって、ここでの人々が抱く様々な思惑は吐き気を催すものばかりだった。





「幼い頃からこういうのを見てきた。以前は、私も酷いことをしてきたのだ。人を平気で傷付けてたり、人の命を軽視ししていたのだ」


「今は、そうではないと?」


「心を感じれる、フェルノールならばどうだ?お前から見て、私はどう見えている?」



「まぁ、嘘は言っていないわね。その分、他の人間たちよりはマシにみえるわよ……何か、きっかけでもあったの?」


ずっと立ちながら話していたフェルノールは、来客用のソファーに座り、足を組んでカステオに問いかけた。




そのフェルノールの仕草にも動揺せず、カステオはしっかりと目を見て誠実に対応しようとしていた。





「最初は、妹のニーナが誕生したことが大きな影響を受けたのだと思う」




ニーナはカステオの五つ下で、その守りたい可愛さにカステオは今も溺愛している。
故に、この王国内の争う風潮から遠ざけてあげたいと思うようになった。

できればそういったすべてのしがらみは、全てカステオが受け入れてニーナには何の心配もなく生きていて欲しいと願った。




「他にも何か、きっかけがあったのかしら?






「実は幼い頃ボーキンという側近の警備兵に、友人の家族の命を助けられたことがあった。その頃は、自分が気に食わないことがあれば私の命で罰していた……今考えると恐ろしいことを平気でしていたんだな」



「ボーキンさんに助けてもらったことがきっかけで、考え方を改めたの?」




「いや、そのことで変わったのはまだ後のことだ。そのことで良かったのは、友人や家族を殺さなくて済んだということだ。ボーキンが、私に黙って勝手に牢からその家族を救い出していたのだ。その時は勝手に出したことに対して、ボーキンを罰したのだ。私の警備から外させてな」




「それから、ボーキンさんという方とは?」


「うむ……見かけたり、噂を聞いたりはしていたが話を交わすことはない。いま私は、別なことでボーキンに恨まれているのでな……」



はカステオが恨まれているときの話をしたとき、本当に寂しそうにしているのがわかった。
フェルノールは、生まれて初めて誰かのために助けてあげたいという気持ちが芽生えた。



「それで、恨まれている理由というのは?」


カステオは、ビルオーネのことと剣のことを話した。
それによって、セイムが殺されてしまったことも……




「へー、そんな剣があるのね……その剣は今どこに?」




フェルノールの関心は、人の欲の争いから生まれた悲劇ではなく、籠を受けた何らかの力を持つという剣のことだった。





「今は、私が管理している。そうだ、フェルノールならこの剣の秘密が何か判るかもしれないな!」



そういって、カステオは自分の部屋に隠していた剣を持ち出してきた。




――!?



その剣を前にした途端、フェルノールの身体から黒い霧が蒸発し始めた。




「フェルノール!?」



カステオも目の前の現象がその剣の原因だと気付き、剣をフェルノールから遠ざけた。



「大丈夫か?」




フェルノールの身体が蒸発していないことを確認し、カステオは声を掛けた。



「な……何なの、その剣!?私の身体が溶かされたわ!?」



そこで、フェルノールは黒い物を浄化する力があることが分かった。
聞くと本来は、剣に所有者を見つけて認めないと力が発揮できないと聞いていたが、単独でも少しは力が発揮されていることが分かった。



「……ということは、これを持っているのはマズいな」


「でも、国宝なのでしょ?」


「そうだが、お主が消えてしまってはいろいろと困るのだ!」



またしてもフェルノールは、カステオから心地良い波動を感じた。




「……その剣をカステオが持っていると知っているのは、ビルオーネからその剣を取り戻した息子の”ビルメロ”だけだったわね」


「あぁ、そうだ」


「その方に預けてみたら?そして、あなたの配下にしておけば、遠くに行くこともないでしょうし他の警備兵にもわたらないんじゃないの?」


「確かにそうだが……良く分からない人物に、国宝の剣を預けるのは」


「では、一度私が会って確かめてみるわ。……もしもの時は、私の力で言うことを聞かせてみせるから……」




そしてビルメロを味方に引き入れ、カステオは剣を預けた。
フェルノールが見たところ、欲は強いがそれは純粋に上を目指しているとのことだった。
ビルオーネのような裏切りなどがないとわかり、強制的に従わせることは止めることにした。

剣は預け、その力を試すという名目で、貸し出すことにした。
ビルメロも、もし使いこなせればという気持ちになり、その案を承諾した。





そこから、フェルノールはカステオの思いを組んでこれからの王選に向かい、協力していくことになった。












しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...