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第二章  【西の王国】

2-122 フェルノールとの記憶1

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カステオの頭の中には、フェルノールと出会った時の記憶が思い出される。







カステオの父親である王は、犯罪者を裁いて簡単に人を殺めたり傷つけていた。
それは、国民や王国を守るために行っていたが、幼いカステオには事情が良く飲み込めていなかった。




王子は長男であることから、甘やかされて育てられた。
母親や父親は、多忙の身のため全くと言っていいほど構ってもらえなかった。
それは子供にとって、重要な時期を愛情を与えられずに育てられたことになる。
他人に対して、思いやりの欠如ともなりえる原因でもあった。



だが、カステオの人生に、そんな人生を変える程の大きな出来事が起きた。




――ニーナの誕生




カステオはニーナが生まれて、初めて人の命の重要さに気付いた。


妹の小さくて生命の塊のような姿を見た時、カステオは今までの自分の行動や考え方を恥じるようになった。




一番思い出すのは、ボーキンに注意されたあの事件。

そのことを思い出す度に胸が苦しくなり、カステオはいつも裏の山の高台へ一人で登り、ディヴァイド山脈を眺めて自分のことを見つめ直していた。





そんなある日のこと――



「ねぇ、アナタ。そんなところで、何をしているのかしら?」



カステオは、後ろから聞こえたその声に驚き振り返った。
そこには、ボロボロの服を着た汚れた女性が立っていた。




「だ……誰だ、お前は!?ここは王宮の敷地内だぞ、一般の者は入れないはずだ!」


「失礼ね……私はあなたよりもずっと前からこの辺りにいたのよ。それを自分の者のような言い方は……気に食わないわね。それにニンゲンごときが、私に敵うと思ってるの?」


「前からいただと?それに私を人間呼ばわりするということは……お前、魔物か?」


「魔物……そんな低級なものではないけど、どうせ説明しても区別ができないでしょ?……それよりあなたは、なぜあんなに気持ちの悪いものを胸の中に仕込んでいたのかしら?」



確かにカステオは、後悔の念、将来への不安、ニーナへの希望が心の中で入り混じり、モヤモヤしたものを解消できずにいた。
驚いたことに、目の前の女性はカステオの胸の中のことを言い当ててみせた。




「お前……人の心を覗けるのか?」


「覗けるというか、感じ取れるわね。いまあなたが、私を目の前にして誰にも話したことのない不安を言い当てられた驚きと怯えも……ね」



カステオはその他にも女性の容姿に対し、好意を持ってしまったことも気付かれていないか不安に思った。
だが、そのことに触れられなかったことに関して、カステオはホッとしてしまった。


今まで、上辺だけの表情や感情だけを読み取り機嫌を取ってくる周囲の人物ばかりだったが、深く読み解いて接してくれたのはボーキンに続いて二人目だった。



「そうか……心がわかるのか……」


「――?」




女性は目の前の男から、今までとは逆の感情が伝わってくるのを感じた。




「私の名前は……カステオという。”カステオ・K・ファーロン”だ」


「ふーん……カステオというのね。でも、どうして急に名前を?」


「はっ、その辺りはやはり魔物だな。普通相手が名乗ればそれに対して、そちらも名乗るのが礼儀というものだ」


「へー、そうなの?随分と面倒なものね……それと」




――ボッ!!




女性は、カステオの足元に黒い炎の火柱をあげた。




「今度私を魔物呼ばわりしたら、あなたのことを消すわよ……いいわね?」


「だとしたら、なおさら名前を聞いておかないとな」





カステオはその脅しに屈することなく、平然と言葉を返した。





「……ルノール。そう、”フェルノール”と呼ばれていたわ」


「呼ばれていた……だと。それは、どういうことだ?」



「言葉通りの意味よ。……だから言ったでしょ?この辺りにずっといて誰にも会うことはなかったし、名乗る必要なんてなかったのよ」




「そうか。フェルノールもずっと一人だったのか……」




カステオが勝手に同情されていることが、フェルノールにとってはあまり面白くなかった。
同情とは、自分が弱い存在であると他人から判断されている。そういう結果だと、フェルノールは感じていた。

なので、弱い人間からそういう感情を持たれることが、フェルノールは面白くなかった。



カステオもそのフェルノールの表情を読み取り、機嫌を損ねたことを感じ取った。




「な、何か気に障ることを言ってしまったのか?ならば、詫詫びよう」



カステオは、普段絶対に謝ることはない。
だがフェルノールの前には、思わず機嫌を損ねて欲しくない何かがあった。

ニーナをあやしているときに、泣かれてしまったあの時と同じくらいに素直に謝ることができた。




「フェルノールは、どうしてこんなところに一人でいたのだ?先ほども”呼ばれていた”と言っておったが、誰かと一緒に住んでいたのではないのか?」




明らかにカステオは、フェルノールに対して興味を持っていた。
それはもう、隠す必要がないと自分でもそう思っていた。


フェルノールはカステオの問いかけに、下を向き何故こんなところで一人でいるのかを思い出していた。




「……他にも仲間がいたんだけど、そうね。一言で言うと”合わなかった”のよ。相手がじゃなく、私が相手から合わないと思われていたのよ」




フェルノールがやっとの思いで、このことを告げたことをカステオは察した。
だから今は、それ以上のことを聞かないことにした。


そして、カステオは立ったいま思いついたことを、フェルノールに告げた。





「そうだ!フェルノールよ、一緒に城に行かないか?私の従者として来て欲しい……決して立場が下とかではない、私の相談役として来てくれないか!?」









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