153 / 1,278
第二章 【西の王国】
2-122 フェルノールとの記憶1
しおりを挟むカステオの頭の中には、フェルノールと出会った時の記憶が思い出される。
カステオの父親である王は、犯罪者を裁いて簡単に人を殺めたり傷つけていた。
それは、国民や王国を守るために行っていたが、幼いカステオには事情が良く飲み込めていなかった。
王子は長男であることから、甘やかされて育てられた。
母親や父親は、多忙の身のため全くと言っていいほど構ってもらえなかった。
それは子供にとって、重要な時期を愛情を与えられずに育てられたことになる。
他人に対して、思いやりの欠如ともなりえる原因でもあった。
だが、カステオの人生に、そんな人生を変える程の大きな出来事が起きた。
――ニーナの誕生
カステオはニーナが生まれて、初めて人の命の重要さに気付いた。
妹の小さくて生命の塊のような姿を見た時、カステオは今までの自分の行動や考え方を恥じるようになった。
一番思い出すのは、ボーキンに注意されたあの事件。
そのことを思い出す度に胸が苦しくなり、カステオはいつも裏の山の高台へ一人で登り、ディヴァイド山脈を眺めて自分のことを見つめ直していた。
そんなある日のこと――
「ねぇ、アナタ。そんなところで、何をしているのかしら?」
カステオは、後ろから聞こえたその声に驚き振り返った。
そこには、ボロボロの服を着た汚れた女性が立っていた。
「だ……誰だ、お前は!?ここは王宮の敷地内だぞ、一般の者は入れないはずだ!」
「失礼ね……私はあなたよりもずっと前からこの辺りにいたのよ。それを自分の者のような言い方は……気に食わないわね。それにニンゲンごときが、私に敵うと思ってるの?」
「前からいただと?それに私を人間呼ばわりするということは……お前、魔物か?」
「魔物……そんな低級なものではないけど、どうせ説明しても区別ができないでしょ?……それよりあなたは、なぜあんなに気持ちの悪いものを胸の中に仕込んでいたのかしら?」
確かにカステオは、後悔の念、将来への不安、ニーナへの希望が心の中で入り混じり、モヤモヤしたものを解消できずにいた。
驚いたことに、目の前の女性はカステオの胸の中のことを言い当ててみせた。
「お前……人の心を覗けるのか?」
「覗けるというか、感じ取れるわね。いまあなたが、私を目の前にして誰にも話したことのない不安を言い当てられた驚きと怯えも……ね」
カステオはその他にも女性の容姿に対し、好意を持ってしまったことも気付かれていないか不安に思った。
だが、そのことに触れられなかったことに関して、カステオはホッとしてしまった。
今まで、上辺だけの表情や感情だけを読み取り機嫌を取ってくる周囲の人物ばかりだったが、深く読み解いて接してくれたのはボーキンに続いて二人目だった。
「そうか……心がわかるのか……」
「――?」
女性は目の前の男から、今までとは逆の感情が伝わってくるのを感じた。
「私の名前は……カステオという。”カステオ・K・ファーロン”だ」
「ふーん……カステオというのね。でも、どうして急に名前を?」
「はっ、その辺りはやはり魔物だな。普通相手が名乗ればそれに対して、そちらも名乗るのが礼儀というものだ」
「へー、そうなの?随分と面倒なものね……それと」
――ボッ!!
女性は、カステオの足元に黒い炎の火柱をあげた。
「今度私を魔物呼ばわりしたら、あなたのことを消すわよ……いいわね?」
「だとしたら、なおさら名前を聞いておかないとな」
カステオはその脅しに屈することなく、平然と言葉を返した。
「……ルノール。そう、”フェルノール”と呼ばれていたわ」
「呼ばれていた……だと。それは、どういうことだ?」
「言葉通りの意味よ。……だから言ったでしょ?この辺りにずっといて誰にも会うことはなかったし、名乗る必要なんてなかったのよ」
「そうか。フェルノールもずっと一人だったのか……」
カステオが勝手に同情されていることが、フェルノールにとってはあまり面白くなかった。
同情とは、自分が弱い存在であると他人から判断されている。そういう結果だと、フェルノールは感じていた。
なので、弱い人間からそういう感情を持たれることが、フェルノールは面白くなかった。
カステオもそのフェルノールの表情を読み取り、機嫌を損ねたことを感じ取った。
「な、何か気に障ることを言ってしまったのか?ならば、詫詫びよう」
カステオは、普段絶対に謝ることはない。
だがフェルノールの前には、思わず機嫌を損ねて欲しくない何かがあった。
ニーナをあやしているときに、泣かれてしまったあの時と同じくらいに素直に謝ることができた。
「フェルノールは、どうしてこんなところに一人でいたのだ?先ほども”呼ばれていた”と言っておったが、誰かと一緒に住んでいたのではないのか?」
明らかにカステオは、フェルノールに対して興味を持っていた。
それはもう、隠す必要がないと自分でもそう思っていた。
フェルノールはカステオの問いかけに、下を向き何故こんなところで一人でいるのかを思い出していた。
「……他にも仲間がいたんだけど、そうね。一言で言うと”合わなかった”のよ。相手がじゃなく、私が相手から合わないと思われていたのよ」
フェルノールがやっとの思いで、このことを告げたことをカステオは察した。
だから今は、それ以上のことを聞かないことにした。
そして、カステオは立ったいま思いついたことを、フェルノールに告げた。
「そうだ!フェルノールよ、一緒に城に行かないか?私の従者として来て欲しい……決して立場が下とかではない、私の相談役として来てくれないか!?」
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる