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第二章  【西の王国】

2-117 ボーキンの息子4

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出発の日がやってくる。
今回は今までにない、危険な任務であると認識している。

そのため、出発の前日は臨時で非番にしてもらいボーキンの家に帰って過ごした。



ボーキンは何か可笑しいと感じていたが、任務は極秘のためセイムはうまく誤魔化した。



「やはり、こんなものか……」


戦力として、セイムの他に二名だけで、今回も精霊使いが同行することはなかった。
しかも経験豊富な人物ではなく、まだ警備兵として実績も積んでいないような者たちだった。
名目は運搬係ということだったが、戦闘になればこの者たちにも被害が及ぶ可能性が高い。


しかし、それなりの人物を連れて行くとなると被害が出た場合、国の兵力に影響が出て問題も大きくなってしまう。
そのため、最小限の戦力でというビルオーネの判断だった。




「でも、どうにかするしかないな。いくぞ!」


そう声を掛け、セイムはアンデットが生息していると言われいている場所へ向かっていった。



数時間ほどかけて進み、振り返ると二人の警備兵が必死になって後を付いてくる姿が見えた。
セイムは、声を掛けて休憩することを告げる。



「なんだか、セイム様の足を引っ張っているようで申し訳ありません……」


一人の警備兵が、セイムに対してそう告げる。


「いいのだ、まだまだ先は長いからな。休み休み行くとしよう」



話しを聞くと、この二名はセイムに憧れていた。
早い出世で、知識もあり、戦闘技術も申し分ない。
若い女性警備兵の中では、ちょっとしたアイドルだと聞かされた。



セイムは、その話しを聞いて耳が赤くなる。
今まで、女性とも付き合ったことがなく、モてることが今までなかった。
見たこともない、女性にまでフラれてしまったことも話して聞かせた。



「ならば、今度うちの隊に遊びに来て下さい!みんな喜びますよ!」



セイムはこんなにも慕われていることに、悪い気がしなかった。
この任務が無事に終わったら、遊びに行くことを約束した。


その約束が、嬉しかったのか二人の若い警備兵は突然元気が戻ってきた。




「それでは、早くこの荷物を東の国に届けて西の国に戻りましょう!」





――!?




セイムは自分の耳を疑った。
そして、悪い予感がセイムの心を塗りつぶしていく。


セイムはなるべく、二人を心配させない様に確認をした。



「それでは、今回の任務を確認するぞ」



「はい、この荷物を東の国の警備兵に無事に届けることです!」





東の国はディヴァイド山脈を越えていくルートになる。

が、この森のルートは全く違った場所へ行くルートだった。


しかも今回が初任務となる二人は、東の国のルートなど知らなかったのだ。
安心してセイムについてきただけだった。



「お前たち、荷物を降ろせ。中身を確認する!」



「え?で、でも重要なものが入っているから、中を開けてはいけないって……」


セイムはその男のリュック上の荷物を肩から外し、封を破り中を確認した。




「こ……これは!?」



袋には上部に食料と雨具が入っていたが、その下にはぎっしりと詰まった固形燃料だった。


もう一人の荷物も確認しようとした、その時――




――ヒュッ





茂みの中から、火のついた矢が数本飛んできた。

一つは剣で切り捨てたが、残りの矢は警備兵が背負っていた荷物に突き刺さった。





間に合わないと感じたセイムは、荷物を降ろした警備兵に飛びついて距離を取った。




――ドン!!!




荷物が爆発し、大きな音と風圧がセイムと若い警備兵を襲った。



若い警備兵は、突き飛ばされたセイムの身体越しに友達がはじけ飛ぶ姿を見て呆然としている。


「来い、逃げるぞ!!」



セイムは、警備兵の手を引っ張り動かそうとする。

すると、引っ張る手がその先に何もついていなかったように簡単に引き寄せられた。


セイムは振り返ると、引っ張った手の肘から先が胴体から離れているのを確認した。




置いて行かれた身体は、あの荷物の近くにある。
警備兵も自分の身体に何が起こったのかわかっていなかった。

警備兵は距離が離れたセイムの手に、自分の腕が付いているのを見て発狂しかけた。


だが、その叫び声が響き渡ることはなかった。


近くに置いてあった荷物に、火の矢が命中する。





――ドン!!!




警備兵は、爆発した炎と衝撃波の中に包まれてその姿を消した。


炎が一通り落ち着いたとき、草むらから一人の人物が出てきた。




「こんなに早くばれてしまうとは思わなかったよ、セイム君」


「ビルオーネ……」



セイムの声は、怒りに震えていた。
そして、今回の首謀者がこの男であると勘が知らせている。



「おいおい、上司の名前を呼び捨てかね?いつから偉くなっただね、セイム君は」



近寄るビルオーネの手には、ブーメラン型の刃物があった。
これで、先ほどの警備兵の腕を切断したのだろう。




「な、何故こんなことを!?」



「何故かって?それは、お前には才能が”ありすぎる”からだよ」



セイムはその言葉に反応する。




「ま、まさか。自分の地位が脅かされると思っているのか?」



「そのとおーり」




「剣……剣は、どこにある!?」



「あぁ、国宝の剣か?……ちゃんとあるよ、ここにな」



ビルオーネは、自分の腰にぶら下がった剣を掌で数回叩く。



「自作自演なのか?王子はこのことを?」


「知っていたら、私の首も危ないのでね。その辺りは、うまくやらせてもらっているよ」



「ビルオーネ、貴様は許さんぞ!」




セイムは剣を抜き、ビルオーネに向かって構えた。



「君も、この剣の威力を味わってみるかね?」



そう言って、ビルオーネは国宝の剣を抜いた。




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