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第二章 【西の王国】
2-116 ボーキンの息子3
しおりを挟むセイムの昇格試験は何の問題もなく合格となり、セイムは王宮警備兵の地位を得た。
そして、そのままカステオの警備を割り当てられることになった。
王宮警備兵は王宮全体の警備もあるが、最初は主に王子や王女の警備にあたる。
王にも専属の警備兵がいるが、それはほぼ王選で勝ち上がってきた時の協力者がそのまま警備の任を与えられることになる。
よって王の警備兵の隊長は、西の国の警備兵の総隊長となっている。
青年時代に培った信頼関係が、王に就いた後にも続いているのだった。
そのため、王宮警備兵の中での足の引っ張り合いが当たり前のように行われていた。
悪い噂、告げ口、色仕掛け、賄賂などありとあらゆる手で、相手を蹴落とそうとしていた。
時には難易度の高い命令を出し、その者の命を奪ってしまうことさえもあった。
よって、それらのことを問題としない人物であることが、王への信頼を得られる人物であうということになる。
セイムは持ち前の頭脳と技能で、王宮警備兵の中でも中間あたりの地位に就くようになっていた。
中にはボーキンが手助けしているおかげでと噂する者もいたが、そういう者には警備兵の訓練所で行われる格闘技昇段試験で実力を見せつけ変な噂を黙らせていた。
ある日、カステオから声が掛かり部屋に招かれることがあった。
――コンコン
セイムはノックを終えてしばし待つと、中から入室を許可する声が聞こえた。
「失礼します。お呼びでございますか、カステオ王子」
セイムが王子を見ると、その隣には王宮警備兵でセイムの上長であり、現時点で最も王子から信頼を得ている”ビルオーネ”が立っていた。
ビルオーネは、セイムに近くまで寄るように指示をする。
その言葉に従い、セイムはこの部屋の奥にあるカステオが座る机の前まで近寄った。
「お前がセイムか、確か父親はボーキンだったな?やはり、血が繋がっていないためか似てはおらぬな」
セイムはカステオの言葉に、不快感を覚えたがここは何も反応を見せずにやり過ごした。
そのまま、セイムは自分が呼ばれた理由を再度確認をした。
「……カステオ王子、本日はどのようなご用件でお呼びになられたのでしょうか」
「セイム。王子に対してなんだ、お前の態度は?」
ビルオーネが、今のセイムの言葉に対して指摘をする。
感情はなるべく殺して発言をしたつもりだったが、どこかに感情が混ざってしまっていたのだろう。
カステオは手を挙げて、更に何かを言おうとしたビルオーネを制した。
「お前を呼んだのは、その高い実力を持ってある極秘な任務に行って欲しいのだ……」
「極秘……ですか」
「この話を聞くと、お前は必ず実行しなければならない。しかも、極秘のためボーキンにさえも相談してはならぬ。だが、この任務を終えた時できる限りでお前の望みをかなえてやろう。それとも、ここで辞退して”何もなかった”ことにすることもできるが……どうする?」
”できる限り”という言葉が気になったが、それはバカなことを言わせないための予防線であるという結論にセイムの中では落ち着いた。
これは、もしかしてボーキンをもとの王宮警備兵に戻すことができる機会と思い、セイムは任務の詳細を聞くことにした。
「わかりました。詳細をお伺いできますでしょうか……」
カステオはその言葉を聞き、机の前にある来賓用のソファーに腰掛けるよう勧めた。
「セイム……お前は、この国にある国宝級の剣があることを知っているか?」
「はい、確か、大竜神の加護を受けた剣と聞いております」
「実はその剣を持ち出して、剣の効力を試そうと森の中に入り魔物狩りをしたのだ」
そこからはカステオが言い辛そうにしていたため、ビルオーネがその話しを続ける。
「そこでアンデットの群れに出くわしてしまい、成す術もなく剣を奪われてしまったのだ」
アンデットは、火の精霊使いで燃やし尽くすというのが唯一の対処方法であった。
がしかし、黙って持ち出しているため西の国では希少な存在である精霊使いを連れて行くと大きな問題になるため、今回は警備兵だけで討伐に行っていたのだった。
その話を聞いて、セイムはある話を思い出した。
その剣は、王に就く際に前国王から譲渡される。
そして剣は、持ち主を認めると大きな力を付与し、認めなければただの剣のままであるといわれている。
できれば国王が大竜神の加護を持つ剣に認められた方が、体裁も良く国を統べる者としてのステータスになるだろう。
だが、もし認められなかった場合、本当に王の素質があるのかという疑いの目も掛けられかねない。
そうすれば国は混乱し、地位争いの火種にもなりかねない。
そういう理由から譲渡という形にし、剣をただのシンボルという位置付けにしてあったのだ。
(カステオ王子は、剣に認められたかったのだな……)
そう結論付けた。
この問題を解決できれば、約束だけでなく王子からの信頼も得られることになるだろう。
そう判断し、セイムはこの話を受けることした。
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