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第二章  【西の王国】

2-112 闇の存在

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「……そうよ、あの剣は私を消し去ることのできる剣なの」


フェルノールは再びカステオの顔を見るが、何の反応も示さない。
止められることがないと判断し、フェルノールは話しを続けていく。




「あの剣は、この国では国宝級の扱いで管理されている代物で、本来王に認められた者にだけ貸与することが許される剣なの」


「ならばあのビルメロという男は、王に認められた警備兵だったのか?そんなに強いようには見えなかったが……」


「それは、カステオ様が勝手に持ち出しビルメロに与えたのです。王宮内に置いておくよりも、外に出ている者に持たせておく方がいいでしょ?」


「その方が、お前が消される危険度が低くなるっていうことか?」




フェルノールは、ステイビルの推測が間違っていないことを示すため頷いた。




「それにしても、殺す必要があったのか?何度か味方の警備兵を襲っているな?」


「元々ビルメロやゴーフは、ボーキンの考えに近かった者たちだ……」




カステオが下を向いたまま、ステイビルの問いに応える。
フェルノールはカステオを気遣い、背後から貸す手の両肩に手を掛ける。




「それを強引な手で、自分側に引き入れたというわけか?」


「先程も言った通り、この国では強者の命令は絶対……だ」





確かに先ほど剣を交えてステイビルの剣を受けて奥の手の一つを見せたということは、王子という名に恥じない実力の持ち主であることが伺えた。
あの実力ならば、いくら警備兵の隊長クラスといえども、カステオに敵う者はそんなにいないだろう。





「剣を預けて奴を東の国に捕まった盗賊とボーキンたちに手を貸す者たちの始末に行かせた。が、その作戦も失敗しお前たち東の国に捕まった。ゴーフだけでなくビルメロもボーキンのところへ戻らせないためと剣の流出を防ぐためにやつを始末した」


「それで、うちのシュクルスの手に渡ったというわけだな」


「そのようだ、ビルメロがどういうわけか東の国の者に預けたと聞いている。だが、どこかに隠してくれたらしいな。あれは国宝なのだ、無くさないでくれよ」


「私も詳しいことは聞いていないが、剣は無事であることは保証しよう」


「それでステイビル殿は、これからどうするつもりなのだ?良かったらその力を我々に貸してはくれまいか?」





ケンカを挑み負けはしたが、カステオはステイビルのことは認めていた。
フェルノールがステイビルに興味があるといったことも、今となってはわかる気がする。
是非とも、カステオは協力してほしいと願った。
そして王となった暁には、ステイビルと友好関係を結びたいと思うようになっていた。


しかし、ステイビルはその申し出を断った。




「悪いがうちの者たちは、ニーナ殿が気に入っているようなのだ。私もその気持ちを尊重せねばなるまいよ」


「ニーナ……ニーナは無事なのか?」




カステオが初めて、弱々しい声を出した。
その表情は、一人の兄として妹を心配する顔つきになっていた。




「ニーナ殿はいま、ボーキン殿のところで安静にしている。黒いものが感染していたようだが、ウチの精霊使いが取り除き今は問題なく過ごしておる」




その言葉を聞きホッとした表情のあと、気になった様子でフェルノールの方を見る。
その視線に気付いたフェルノールが、カステオの心配に対して応えた。




「カステオ様、その件については私には心当たりがございません……が、私と同じようなものが関与している可能性が考えられます」


「その者からは、何か連絡は来ていないのか?」


「はい、私も見捨てられた存在ですし……」




いま、ステイビルの耳に引っ掛かる言葉が聞こえた。
”見捨てられた存在”とは?

そのことについて、ステイビルはフェルノールに問い正した。




「”見捨てられた”ということは、魔物集める存在がいるということか?」


「はい。詳しいことはわかりませんが、東の国でもその者の一部に襲われたと聞いています。確か、それを阻止したのが東の国の精霊使いであると聞いていますが?」



ステイビルはいま、とても重要な情報を聞いた気がした。



魔物を統べる存在――

その集団が、何かの目的を持って活動をしている。



「フェルノール殿。先ほどもお聞きしたが、ニーナ殿の件は本当に心当たりはないのか?」



どうやら、カステオをはニーナのことになると落ち着いていられないようだ。
その視線が、フェルノールに向けられる。


困ったフェルノールは、あきらめた表情で口を開く。




「私ではないことは、嘘偽りなくお伝えした通りです。心当たりは無いのですが、お伺いした話だと意思を持った魔物の仕業かと思われます。……意思のある魔物は、私のように人を乗っ取ることができます。しかし、時間が経つにつれ、人の身体は腐敗していきますのでどこかで”補給”が必要になってきます」


「それが……もしかして」


「そうだ、失踪事件の真実だ。ステイビル殿」


「その”補給”はどのくらいの間隔で必要となるのだ?」


「その素材の数や質によりますが、三から六ケ月くらいかと……」


「その間に失踪事件は、フェルノール殿以外には起きていないのか?」


「特に報告には挙ってきていないな」


「ということは、最近乗っ取られた可能性もあるな」






ステイビルは、目を閉じてさらに状況を整理する。
そこで、ある仮定にたどり着いた。
そしてそのことを確認すべく、息を大きく吸い込んでゆっくりと吐いた。




「もう一つ教えて欲しい。乗っ取る時は、生きている人間にもできるのか?」


「いいえ、生きている人間には入れないわね……死んでいるものだけよ」





その答えを聞き、ステイビルは立ち上がり訓練場を出ようとする。






「私はボーキンの家に戻る、もしできたら手伝って欲しい。……ニーナが危ない」







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