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第二章  【西の王国】

2-99 静かな反撃

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――カチャ


「それでは、こちらでお待ちください」



執事が扉を開け、アーリスとシュクルスに控室に入るよう促す。



「すみませんが、お二人はこちらで……何かありましたら、メイドにお申し付けください」



ニーナは二人に告げて小さく手を振り、執事が閉める扉の向こうへ消えた。


執事に通された部屋は、玉座の間に入るまでの部屋として立派なテーブル、イス、ソファーなどが置いてある。
壁には装飾の武器や防具が飾られており、力が全てとする西の国の特徴を表すような控室だった。


勝手がわからない二人は、部屋の景色を眺めるだけで部屋の入り口でずっと立ち尽くしていた。



「アーリスさん、お先にどうぞ……」

「シュクルスさんこそ、お先に……」



こういう時は女性を先に通した方が良いと考えていたが、アーリスも緊張していることを察し、シュクルスは歩を進めテーブルに着いた。
すると、アーリスもシュクルスの後を追って隣の席に座った。


「何か、お飲み物をお持ち致しましょうか?」


先程まで壁に沿って立っていたメイドが、二人の背後から声を掛ける。




「え!?あ……はい。では、暖かいお茶を」

「わ……私も同じものを」


メイドは二人に会釈をし、飲み物の用意をするためまた立っていた壁に向かって戻っていった。



「アーリスは、何度か来てるの?」



「お城の中なんて、王宮警備兵でもない限り滅多に入れないのよ。しかも、王への来賓客用の控室なんて、普通の人は入れないわ……」


「ふ、ふーん。そうなんだ……」



身のない話をしている間に、メイドはお茶をカートの上に乗せて持ってきてくれた。



「もしよろしければ、そちらの背負われているものを降ろしてはいかがでしょう?」


シュクルスは、ハッとする。ずっと剣を、背負ったままだった。
気付かないくらいに緊張をしていたこともあるが、重さを感じない分気付きにくいのだった。



シュクルスは申し訳なさそうに背中の剣を止めているバックルを外し、自分の椅子の横に立て掛けた。
そしてメイドはカップにお茶を注ぎ、二人の前に差し出した。
紅茶の良い香りが嗅覚と味覚を刺激し、お皿を手にしてカップのお茶を口に含んだ。



――!!


アーリスは声にならない、驚きの声をあげる。
今まで口にしたことのない、お茶の味を体感した。


この感動を共感しようとシュクルスを見るが、シュクルスは舌をやけどした様で口内を冷まそうと必死になっていた。







――カチャ


「それでは、こちらでお待ちください」



執事が扉を開け、連れてきた人物に控室へ入るよう促す。




「どうも」


その人物は一言だけ、礼を告げて入室した。

そのまま何の迷いもなく部屋の奥へと入っていき、アーリスたちが座る長方形の長いテーブルの対角線上の席に着いた。


そして、メイドはアーリスたちと同じように用意するものを聞きに行く。


そして女性はアーリスたちに視線を配り、あるものに目が止まった。


(どうして、あの剣が……!?)




「初めまして……私はフェルノール、カステオ王子のお傍に仕えております。あなた方は、ニーナ様のお友達の方ですか?」




アーリスは明らかに、フェルノールが見下しているのを察して言い返した。。




「いいえ、今回はニーナ様の護衛で参っております。フェルノール様」



「そうでしたか、それは失礼を。そんな風には見えなかったもので……あなたの威勢とそちらの方の剣だけはご立派ですわね」




明らかに挑発しているが、これに乗っては相手の思う壺とアーリスは心の中で繰り返して落ち着かせていた。



「その剣も、どうやって手に入れられたのかしら。もともとは私たちのものだったはずなのですが……もしかしてビルメロを殺害したのはあなたなのでは?」



「な、何をおっしゃってるのですか!?まさか私たちを疑って……」


「あら、そう聞こえませんでしたの?その通りですわよ……でなければ、そんな貴重な剣をあなた達が持てるはずがないじゃありませんか」



「フェルノールさん……あなたはこの剣のことをご存じなのですか?この剣には一体どんな力が?」




「あなたはとんだお馬鹿さんなのかしら?どこの世界に敵に情報を渡す間抜けた人がいるの?ちょっとは少ししか無い頭を使ってみたらどうなの?……そうね。もしその剣を返してくれたなら、剣の秘密を教えて差し上げてもいいわよ」





アーリは、我慢の限界に近付いてきていた。



「なるほど、あの方はビルメロさんという方なのですね。あの方も、あなたのような方が味方で同情してしまいます」



「ん……何を言っているのかしら?」




「だってそうでしょ?あなたは味方の方が亡くなっているのに、心配も残念そうにもされていないですよね。初めから剣のことばかりで、煽ってくるところ見るとよほどこの剣が重要なものであることが判りました。ですので、なおのことあなたのような方にはこの剣は渡せません」




アーリスは、シュクルスの顔をボーっと見つめる。
あのシュクルスが、このフェルノールと言葉で渡り合ってたことに。





「口だけは、達者ね。いいわ、その剣は預けておきますが、必ず返してもらいますからね」






そして、再び控室の扉が開かれた。



「アーリス、待たせたな。また戻るとしよう……ん?どうした?」


ボーキンはフェルノールが不機嫌な顔をしていることを気付き、何かあったのだと察した。



アーリスとシュクルスは席を立ち、シュクルスは剣を再び背に背負った。



「それでは、フェルノール様。失礼します」




フェルノールがシュクルスの挨拶に返すこともその顔を見ることもないまま、三人は控室を後にした。








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