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第二章  【西の王国】

2-92 それぞれのやり方

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「……おや、また増えたのかい?もうこれ以上は、部屋が空いてないよ?」


「マギーさん、その辺は心配無用です。我々は、外でキャンプを張りますから」


先日、荒らされた宿屋も警備兵の助けもあり復旧……いや、元通りではなく新しい形の宿が完成しつつある。
しかし、元々の部屋数などは変わりはないため、今回東から来たエレーナたちが来たことで部屋は満室となった。




「……ところで、その兵たちはどうしてそのような状態になっているのか、我々にもご説明していただけませんか?」



状況は先に迎えに行っていたエルメトからは聞いていたが、その経緯はエレーナたち以外はわからなかった。

一同は話し合いを行うため、食堂に集まる。
参加者は、東の国の全員、ボーキン、アーリス、エルメト、ニーナで、捕まった隊長だけがこの場に呼ばれた。
それ以外の警備兵は、オリーブの造った檻の中で休んでもらうことになった。
今回は襲撃されない様に警備を強化するため、キャンプをしている近くで檻を作っていた。





「……なるほど」


ボーキンはエレーナからの報告を聞き、少し焦っていた。
既に王子派からの妨害が、始まっており徐々に酷くなってきている。

が、まず確かめたかったのは、この行為が”誰に命令をされたのか”ということだった。





「そ……それは」


「といっても、邪魔をしてくるなんて考えられるのは一つなんでしょ?」




エレーナは腕を組んで、もう答えはわかっていると言わんばかりの態度をとる。




「しかしエレーナ様。ここはハッキリさせておかなければならないのです。見切り発車は、危険なのですよ」




そう告げたのは、ソルベティだった。
ボーキンも、ソルベティの意見に賛同する。



「そうなのです。ここは誰の命令か明確にしておかなければ、これからの王選にも大きな影響がでると考えられます。ですので、その辺りはハッキリとさせておく必要があります」



その言葉のあとに、再びボーキンは隊長の男に問いかけた。
脅すわけでもなく、正直に話してくれることを願って。






問い掛けれられている男は、ずっと下に俯いたままだった。
そして、足元に巻かれた布を眺める。

静かに目を瞑り、鼻から大きく息を吸い込み肺の中に入れて、それを口から出した
そこから何かを決心したように、男はゆっくりと話し始める。



「わ……私は、親の顔を知らない。物心付く前から、孤児院にいた。だが、寂しいと思ったことはない。あと、親に会いたい思ったこともない。しかし、いろいろな差別や制約があり、同年代の者たちと同じようには過ごすことが出来なかった」



この場にいるもの全員が口を挟まず、静かにその男の話しに耳を傾けた。




「青年期には孤児院を出て自分一人で生活をしたいと考え、私は警備兵に入った。……がむしゃらに働いた。同僚からの嫌がらせや上からの圧力もあったが、”力”が全ての国で、そんなもので私を止めることはできなかった。ついに毎年行われる警備兵の実力を競う大会で優勝したとき、私は王から直接王室警備の勤務を言い渡された。後で知ったはなしだが、ボーキン様が外された後の補充だったようです」



男は、ボーキンの顔をみた。
ボーキンも、あの時の王子のことを思い出していた。

ならば、この男も王子がこのまま王になってしまうことがどんなに危険なことか知っているはず……


「お主も王子のことを近くで見てきたのなら分かるだろう。王子を王にすることがどんなに危険なのかを。もしよかったら、これからは王女のために……」


ボーキンの言葉の途中で、男はその言葉の先を言わせない様に顔を横に振る。





「私は、王室警備兵として就任するとき王に、頼まれたのです。”王子をよろしく頼む”と。王がどういう意図でそういうお願いをされたのかわかりません。しかし、こんな私にも王はお願いされたのです……それを裏切ることなどできません」



それ以上は、ボーキンも何も言うことはなかった。
忠誠心や信じるものは、それぞれであるのは理解できる。
例え信じたものが、途中で誤ったものであると気付いたとししても警備兵として容易に王の命令を変えることはできなかった。


エレーナやルーシーなどから見れば、その考えは馬鹿馬鹿しく自分の首さえ絞めかねない考え方だと笑うだろう。
それは信じるものの違いのため、今は変えることはできない。



「話を元に戻します。そこから、王子の傍に仕えることになりいろいろなことをやってきました。今回は、ボーキン様が依頼を出した東の国から西の国への帰還に関する警備について、王室警備兵から私が選ばれ今回隊長として出動しております」


「分かった……話したくないところもあるだろう。だが、お主が今回指示された範囲を確認したい。今回の件において、違うことだけ首を振ってくれればいい。どうだ?」


「……わかりました、それならば誓って嘘は申しあげません」


「それでは、最初に。東の国で捕まえてたものを襲ったのは誰かの指令か?」




男はこの質問に、首を振る。




「よし。次は……」




こうして、これまでの出来事の確認が行われていく。


最終的に分かったことは、この男に与えられた命令は東の国の協力者を”始末する”ことだけだった。




「ということは、また別な部隊がいるってことなんですね……」



エルメトがボーキンに告げて確認をとり、ボーキンはその言葉に頷いた。



「とにかく、今日はここまでにしよう」


ボーキンはエルメトに、この男を石の檻の中に入れるように指示する。


「あ、私が付いて行きます。足の固定もやり直した方が良さそうですし」




そう言ってシュクルスが、エルメトの代わりに男を檻まで連れていくことを申し出た。
ゴーフもそれを了承し、シュクルスにお願いすることにした。



「ほんと……お人好しな奴め」



男はシュクルスに肩を借りて立ち上がる。
その顔は、少し笑って見えた。



シュクルスの後ろをオリーブが付いて行き、檻の入り口の開閉を行う。




「また、少し強く締めているのでもし足の先が痺れたら緩めてもらってください」



「……ありがとう」


男はシュクルスに礼を言い、檻の壁につかまって空いた入り口から降りの中へ入ろうとした。


シュクルスはお礼を言われたことが嬉しくなり、男に名前を聞こうとした。





「あの、あなたのお名前は?」


男は呼び止められ、檻の中に入れかけた身体を止めた。





――ドッ





何かが自分ではない誰かにぶつかる音がして、シュクルスは後ろを向いて辺りを見回してみた。
何も変わったところがなくもう一度目の前を向くと、男の背中に一本の矢が刺さっているのが見えた。








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